第10話 双子の秘密
「ふぁあ…」
しまった、大口開けてあくびしちゃった。
「こら、お嬢様。…お口が開いてますよ」
「あ、ごめんなさい…」
「休憩中ですから…まあ、構いませんけれど」
今日は、ジェンナ先生の授業の二日目である。
(天気が良くて気持ちいいなあ)
さんさんと降り注ぐ太陽を全身に浴びて、私は大きく伸びをする。窓の外を見た瞬間、…絶句した。
窓の向こうのすぐそばの木の上では、フォーレが座ってこちらに向けて手を振った。
しょうがないので、一度ため息をつき窓をそっと開ける。
「危なくないの?フォーレ」
「別に」
「ケディは?」
「下にいるよ」
「ふうん…」
指をさす方向を見ると…ケディは木陰に座りながら本を読んでいる。
さて…この双子、何日か一緒に過ごしてみて、わかったことがある。
フォーレは本を読むのが好きで、ケディは身体を動かす方が好き。
2人とも、綺麗な金髪を後ろで束ねているのだけど…フォーレは割ときっちりしているのが好きで、ケディはあまり気にしないタイプのよう。
で、目の前の木の上でどや顔しているのは…髪がぼさぼさでやんちゃなフォーレ…つまり。
(こっちの役は、確証がないけど、今日は…ケディの方ね)
この二人、毎日性別と服装を微妙が違うのだけど、子供のいたずらか、それとも、何か理由があるのか。
そこはよくわからない。
「ケディがずっと本を読んでいるの、めずらしいね」
「え…?そうだっけ。ねえ、勉強はいつ終わるの?」
ちらりと後ろを見ると…あ、ジェンナ先生がため息をついている。
「…今日はここまでにしましょうか」
「お、やったね。じゃあ、北にあるあそこの塔に行きたい!」
「塔…?」
フォーレが指さしたのは…北の棟にある古い塔。
(大丈夫かなあ…)
「あっちは危ないよ」
「行くのは別にいいだろ?中に入らなければいいんだし」
「中にって…まあ、見るだけなら…?ちょっと待ってて」
「ここから入っちゃダメか?」
「ダメ!…レディの部屋に勝手に入るなんて、さいてー」
「サイテーって…ちぇ。しょうがないな。おい、どけろケディ」
「!」
すると、ケディはそのままサルみたいな俊敏な動きで、二階まである樹から飛び降りた。
シュタッと綺麗に着地すると、ドヤ顔でこっちを見てくる。
(へえ…すごい)
「全く…お嬢様。真似してはいけませんよ」
「しないわ。…それより先生。ベラドンナって、どんな植物なの?」
「!…何処でそれを」
「この間言ってたでしょ?…私の机に合ったメッセージ」
「……お嬢様は大変賢くていらっしゃいますが…」
「そんなに言えないくらい危ないの?」
「…それは」
ベラドンナ…名前だけは聞いたことがある。
私がまだ律葉だった時、好きだったゲームで毒薬として使われていた。
この反応を見る限り、こちらも同じみたい。
(あとは…どんな作用があって、どうやって摂取するかなんだけど)
それとも…先生に相談する?
「あの…」
「準備まだか?」
「…こら、そんなに音大きくしたら、また怒られるよ」
(ったく…)
「お嬢様」
「?…なあに、先生」
「…あまり、危ないことはなさらないでくださいね。困ったことがあったら、大人の力を頼ってください」
「うん。わかった」
とても真剣な表情だった。
なんだか、申し訳なくなってしまう。
(…でも、急がないと)
私はちら、と鏡の方を見る。
とても怖い表情で、どこかを見ているリアーネの姿。
このまま放っておけば、何か起こりそうな…そんな悪い予感がする。
「…ねえ、君はいつも難しい顔をしてるね」
「え?」
私と並んで歩いていたケディが、突然そう言いだした。
「そ そうかな?」
「うん。何か全部わかっているみたいな、不思議な顔してる」
(そんな風に見られていたとは)
所で…この子はどうしてこう私と距離をとるんだろう?今もほら、私と並んで歩いているけど、体一つ分位の一定の距離を保っている。
「…ねえ、いつもはくっついてくるのに、今日はどうしたの?」
「えっ」
「あなた、フォーレの方でしょ。…それで、あっちがケディ」
「!!」
あれ、目を丸くして驚いている。
…バレないと思ったの?
「…気づいてたんだ」
「うん。…だって、今日のケディは、らしくないっていうか…大人しい?」
「……あいつがはしゃぎすぎなだけだよ。おい、ケディック」
「!え?あ やべ、振り返ちゃった」
(…隠す気あるの?この子たち)
「…ちょっとこっち来て、二人とも」
私はそう言って、二人の腕を掴んでずるずる歩き出す。
半開きのドアに入り込み、あることに気が付く。
(…いつもは鍵がかかっているのに)
この部屋、母が亡くなった寝室だ。
「ねえ…私の事、だまそうとしてたでしょ」
「だます…って?」と、フォーレ…基、ケディ。
「バカ、リッハシャルは僕たちの事、怒ってるんだってば」
「そうよ!…なにか、理由はあるならしょうがないけど…怒ってるの、わたし!」
「ご ごめん」
フォーレが頭を下げると、一度きょろきょろした後、ケディも頭を下げた。
「…ごめん、その…ちょっとからかったっていうか、えっと」
「ケディは黙って!…ちゃんと、説明するよ」
「…いいよ」
私はそう言うと、腰に当てていた手を下ろし、寝台の上に座り込む。
(ん…?寝台…あ、ここ。お母さまが亡くなった)
なんだかゾッと寒気がして、寝台から飛び降りる。
「?大丈夫…?」
「う、うん、それより、続けて」
「はあ。わかったよ…改めて、僕はフォーレ・エイデン。双子の弟の方。で」
「ぼくはケディック・エイデン。兄の方だ」
「…フォーレの方がお兄ちゃんだと思ってた」
そう言うと、二人は同時に首を振る。
「ソレ…いつも言われる」
「そんなにぼく…落ち着かないかなぁ」
(…うーん、女装するなら、もうちょっとお淑やかにしなさいよね)
「どっちも男の子でしょ?なんで女の子のかっこうしてるの?」
「まあ、その方が…ちゃんとぼくらをみてくれるから、かな」
「…?」
「君のとこは一人しかいないから…気にならないだろうけど、男の兄弟ってのは、色々面倒くさいんだ」
「めんどうくさい…?」
あ、そうか。継承問題…この世界は、血筋が近い方が優先となる。
リッハシャルも、前世では弟が生れてきた途端、周囲の対応が一変していた。
「僕は先だから、フォーレが後だから…それだけで、これからの人生が変わる」
「どっちも男の格好していたら…みんな聞くんだ。どちらが兄ですか…ってね」
2人の言葉は、子供らしからぬ響きを感じた。
(スペアと、そうじゃない方…そう言う考え方?)
「…だったら、私に隠すひつようないじゃない」
なんだか、胸が苦しくなる。
けれど、そんな私の言葉を、二人は笑った。
「ちょっと…!」
「…もしかして、まだ聞いてないの?」
「何を?」
「僕とケディ…どちらかが、リッハシャルと婚約するって話」
「……は?」
何?何だって?!まだ五歳なのに…っ
「け。けけけけっこん?!」
「そう。で、選ばれなかった方が、エイデン家を継ぐんだって」
「……」
あまりにもあっけらかんと、簡単に…ケディはそう言った。
つまりは、…そう言うことになるんだろう。なるほど、そうすれば二人は幸せに、うちも安泰、みんなハッピー?
「ふざけんな…」
「え?」
私は腰に手を当て、ぐっと、人差し指を前に突き出した。
「じゃあ、フォーレもケディも!!どっちも選ばない!」
「ええ?!!」と、ケディは素頓狂な声をあげ
「あははは!そりゃ面白い!!」フォーレはお腹を抱えて笑い出した。
「ちなみに、理由は?」
くすくす笑いながら尋ねるフォーレに、私は腕を組んでそっぽを向く。
「どっちか選んでも、片方は絶対嫌な思いをするじゃない!そんなのやーよ!!」
「えぇ~…で、でも」
「なによ!人のせいにして、自分の未来が決まって…それでなんとも思わないの?!かっこわるぅ!!」
「な?!」
「アハハ…っ面白いね、それ!」
ふぉ、フォーレは何が楽しいのかしら?ここは笑うところじゃないでしょ…全く。
「…ほんとはさ、君が僕たちの秘密を知って、どういう顔をするか興味があったんだ」
「いい顔なんてするわけじゃないじゃない!」
「それもそうだ…でも、まあおおむね満足かなあ、僕は」
「ふんだ!なーにが満足!よ!!」
つまりは試されたっていうことになるのかもしれない。
そうか…だから、お父様は私に「フォーレとケディはどんな印象だ?」って聞いたのね。
「…はあ、なんだよ~。気が抜けたよ、ぼく…ん?」
へろへろとケディが床に座り込むと、机の下を見て変な顔をした。
「どうかしたの?」
「…この机」
「机…?」
この寝室は、あまり広くはない。
現代で言う…ビジネスホテルのシングルルーム、みたいな。簡素なベッドと、木造のチェアーとデスクがあるだけ。
ふと、ここで違和感を感じた。
ロザベーリのいじめがあったと仮定して…どうして、こんな隅の部屋にリアーネは押し込まれていたのだろう。
(誰も止めなかった…?だって、お父様はリアーネを愛していた。愛する人の病を治したいなら、もっといい部屋にベッドを置くじゃない?)
それとも人目につかない場所にいなければならない理由でもあるんだろうか。
思考にふけっていると、がたがたと何かを動かす音が聞こえた。
そして、再び机の下からケディが顔を出すと…その手には、不思議な模様の入った箱を持っていた。
「なあ、こんなの見つけた」
「…箱?」
「これ、見たことあるな…なんだっけ」
「どれ?」
フォーレがそれを手に取る。
けど、すぐに怪訝そうな顔をした。
「…?蓋が明かない。鍵穴もないのに…もしかして、組み立て式かなあ」
「組み立て式…?」
「そう。…うちの親戚に旅行好きの爺様がいるんだけど、砂漠に行ったときのお土産にもこんなのあった」
「砂漠…」
「ええと、キア…キーン?」
「もしかして…キアルーンじゃない?!!」
「あ!それ!」
キアルーンは…お母さまの故郷だって言っていた。
なら、もしかして…この中に何か。
「見つけた…!かもしれない…!」
何か大事なものが仕舞っているような、そんな予感がした。




