序話 元社畜の令嬢は、今日も運命ガチャの引き金を引く
婚約破棄でなく、婚約しませんか?からのスタートです。よろしくお願いします。
傾国、という言葉がある。
国一つ傾けるほどの絶世の美女…そんなの、架空の存在でしょ?
そう思っていた。
「…今何て、仰いました?」
「リッハシャル=ルドヴィガ、私と結婚してほしい」
――美しいシャンデリアに、赤い絨毯。
華やかなドレスコードに身を包む16歳になったばかりの紳士と淑女たちは、緊張と期待を胸に大人の世界へと一歩を踏み出そうとしていた。
今日は人生で一度きり、祝福と希望に溢れたデビュタントの日である。
ここは広い王宮の中で最も由緒ある、大広間の中心。その晴れの場に、全ての視線が私と…この目の前で膝まづく美しい男性に注がれている。
(は?…婚約破棄ではなく、結婚してくれ?)
空の色を映したような青い髪に、銀色の瞳は王族特有の証。
国中の乙女たちの心を鷲掴みにするこの方の告白のせいで…私の心は、まるで崖から突き落とされたかのような衝撃を受け、茫然としている。
「ええと…き、ききまちが、もうい」
「ああ、何度でも。私の妻になってはくれないか?」
「か、カシオス殿下…あの」
落ち着こう。
いや、深呼吸しよう。
「お待ちください!!」
「!」
突如、私はぐっと肩を引っ張られ、一歩下がる。
「大衆の面前です。場をわきまえて頂きたい」
さらりと長い髪を揺らしながら、明かに不機嫌なオーラを放ち、私の前に出たのは――幼馴染のフォーレだ。
(え?な、何この展開?!)
「ああ、君は僕の従兄に当たるエイデン侯爵家の末弟殿ではないか。…愛しい人に愛を告げるのに、理由と場所が必要かな…ああ、それとも。知らぬうちに君を不快にさせてしまったか」
「不快なのは俺ではなく、リッハシャルでしょう?16歳を迎える花の日に、望まぬ厄介ごとに関わる羽目になっているのですから」
(な、なんでフォーレが来るの!?正直助かっ いや、そうでもないような…)
さて、私の名前はリッハシャル=ルドヴィガ…だけど、実は異世界転生10年目。かつてブラック企業に勤めていた、モブ社員Aに過ぎない元・社畜である。
私は、なんだかんだと退職できずにいた人生にピリオドを打つべく、「よし、辞めよう!」とやっと決意したその日…色々あってこちらの世界へとやって来た。
得体のしれない神様から「人生フルベッドで運命ガチャやらない?!」と言われ、二つ返事でガチャを回し、今に至る。
(ああ、視線が痛い…もういい加減にして)
よくある話と思われるでしょう?
けれど、この世界、残念ながら過去読んだ小説でもなく、ゲームでもなくアニメでもなく、マジで知らない別の世界…しかも、ことあるごとに、天の声が聞こえては『ガチャ』を強要される日々である。
今日も朝いちでガチャを強要され、引いた結果が『BAD!多くの人の好感度が変動するかも?!券』とかいうバカげたもので、それがこの王子殿下のプロポーズのイベントだということなんだろう。
たまたま引き当てたのが、この姿。この国では特異な異国の黒髪に、深い青に緑を混ぜた瑠璃色の瞳…元の彼女は、美しいというだけで苦労を強いられ、非業の人生を送る羽目となっていた。
それを今やり直している最中なんだけど…美人っていいなって思ったこともあった、でも美女には美女の悩みがあるのね。
やっぱ普通が一番楽だと、痛感する。
『運命ガチャを引きますか?』
「!」
突然、私にしか見えない神々しい光が天井から降り注ぐ。
(きた…神様ガチャ…このタイミングで)
本当、どこの神様だか知らないけど、絶対!私の運命をおもちゃにして遊んでいるに違いない。
(ずえったい!幸せになって、普通の人生で、普通に年を取ってこの世界を全うしてやる…!)
そして、私はまたガチャの引鉄に手を伸ばすのであった。
運任せで人生開拓!!私の幸せはどこに?な物語です。
読んでいただけたら幸いです!




