私と三日月
夜空を見上げると、ポツンと浮かぶ三日月。あの欠けた月はまるで私のようだと思う。欠点ばかりで、けして満月にはなれない。
今日もまた、仕事で失敗をした。明日の会議に必要な資料を作っていて、間違いに気がついたのは終業間際。残業確定だった。誰もいないフロアにポツンと残りなんとか仕上げたが、心も体もヘトヘトだった。どこかに寄って食べていこうと道を歩いていくと、一軒のビストロ風のお店があった。
外に置いてあるメニューの黒板を読むと「あなたを満たす料理作ります」の文字。
興味が湧いて、ギーッとドアノブを引いてお店に入る。
「いらっしゃいませ。カウンター席へどうぞ。」
静まりかえった店内には、シェフと思われる男性が一人いるだけだ。
「ご注文はお決まりですか?」
「あ、えっと、お店の前の黒板を見たんですが、どういう意味ですか?」
「そのまんまの意味ですよ。空腹も心も満たす料理をなんでもお作りします。」
「なんでも・・・。おまかせでもいいですか?」
「もちろん。ではお作りいたしますね。」
「どうぞ」と差し出されてたお皿の上にはクロワッサンサンドが一つ乗っていた。
それはまるで、先ほどみたものに似ていて、「三日月・・・。」と思わず私は呟いていた。
「今日は三日月が綺麗でしたから、似ているクロワッサンを使ってみました。お気に召しませんでしたか?」
「いえ、そんなことは・・・。ただ、三日月と私を重ねてしまって。」
「どんなふうにですか?」
「欠けているところです。私は三日月が綺麗とは思えない。不完全で、完璧じゃない。」
「私は欠けているから美しいのだと思いますよ。どうぞこれを食べてみてください。」
釈然としない気持ちでクロワッサンサンドを口に運ぶ。
バターの甘み、チーズとハムの塩気、レタスのみずみずしさ、そのどれもが渾然一体となって旨味となって襲ってくる。
それぞれがそれぞれにない味を補って美味しさを作り出している。
「お、おいしい。」ぽつりと呟く。
「よかった。三日月も悪くないでしょう?欠けているからこそ、いろんなもので補って楽しむことができるんです。完璧なものなんてないんですよ。」
そうか。私は私のままでいいのか。
満月も、もしかしたら裏側が欠けているのかもしれない。
そう思うとなんだかおかしくなってしまった。
お店を出ると、三日月が綺麗に輝いていた。
あの三日月のように私は私らしさを出していこう。
欠点だって悪くない。