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第八話 -成長とはなんだ?-

 


「よし、駆除完了、我ながら良い仕事したなぁ」


 クソカス魔術師を殺せたし今日はもう良いかな、早く帰ってお風呂に入ろう…あぁでも依頼はどうしよう、流石に全然汚れてないのは可笑しいよね。


「しっかし本当にイライラしたよ、突き落とす前に僕が先に殺す所だった」


 この僕に舐めた態度、本当は魔物との戦闘中に殺そうかと思ったけど、国がそれを是としないんだからしょうがないよね。


 落ちていくクソカスの顔、何が起きたか分からないような間抜けづらだった。

 魔法も使えないのに警戒心もない、本当に生きてる価値ない、この世界から消えるべきだ。


「ま、取り敢えずこの森を抜けようか」


 そう思ったその時だ。

 突然、下から上がり続けるけたたましい音とともに、僕の背中が焼かれたような感覚に陥った。


「……な、何なんだ!?」


 唐突に死を感じた、瞬時に前に飛び木に身を隠した僕は目の前の信じられない光景に目を疑っていた。


 これは…火の柱!?自然現象でこれはあり得ない、誰かが魔法打った…こんな魔法を打てるのは-五宝-の人達だけだ!その中でも火を扱うのは五宝の一人、カージム様だ。


 まさか被った?五宝は国直属の部隊、この依頼も国から…無いことはない。


「ッ!まずい!」


 隠れていた木から数個遠くの木に隠れる。

 私が身を隠してる木が斬られ落下していた、火の柱ではなく刃?何がどうなって…


「……ハハ」


 いや、チャンスだ。

 五宝は最強の集まりが故に、その一人一人は滅多に世間に顔を出さない。

 ガージム様と僕の得意魔法は同じで、知った時から僕は憧れていた。


 その気持ちが僕をここまで強くした…会いたい、この目でじっと見てみたい。


 そうして数秒後、渓谷内から噴き出た謎の火柱が徐々に消え始めたのを確認した僕は、また渓谷に近づいた。


「……終わった…のかな」


 不安と同時に僕の鼓動は早くなっていた。

 この下に僕の憧れの五宝が…こんな近くに。


「さて、さっきの質問に答えよう」


 ブワッと、渓谷深部から僕にぶつけるように風が吹く。

 ……この声、さっきのクソカス?

 いやあり得ない、きっとこれはカージム様の声だ、あんなクソカスと一緒にするな。



 …さっきの質問というのは、一体──


「魔法至上主義について…だったか」


 そして…渓谷からそいつは姿を現した。


「この国の制度は良い…何故なら俺が一番強いからじゃ」


 クソカスが…死んだはずのクソカスが何故…空を飛んで僕に前にいる?


「……は?なん──」

「悪いが少し眠ってもらうの」


 僕は言葉を言い終わる前に、いつの間にかクソカスは僕の体に触れていた。

 瞬時に僕は剣の柄を握り、奴の首目掛けて剣を動かした。


「-■■-」


 しかし、それは数歩遅かった。

 僕の目の前に突如として現れたのは、真っ暗な空間だった。

 何もない…何も感じなかった。


「ッ!?グッ…アァ」


 だけど、それは最初の数秒だけだった。


「ナニガ…オ…コッ」


 息ができない…体は動かせるがそれで何か出来る訳ではなく、ただ動かせるだけだ。


「…クソ…まさ、かぁ」


 あの魔法…クソカスが放ったのか?

 あんな魔法…ありえない、あって良いはずがない。


 でも、あり得るのなら…一体何者なんだ──



 ♦︎



「…ゴハッ、ウェェ…」


 意識が覚醒した瞬間、喉の奥の詰まりを精一杯吐いた。

 気分がとてつもなく悪い…頭がぐらぐらする様な感覚だ。


「…ここは」


 見た感じは木で出来た小屋、しかし何故こんな物が。

 そんな事より…あのクソカスは何処に。


「お、起きとるの、加減をミスったと心配したが何とかなったみたいじゃ」


 ギィィっと鳴った方を見れば、案の定そいつは居た、殺そうとした僕をまるで恐怖していなかった。


「…はぁ…はぁ」


 何故だ、何故僕は奴を見ただけでこんなにも呼吸が荒くなる…これじゃまるで、僕が狩られる側じゃないか。


「主、別に殺そうとしているわけじゃない、まだ体を動かすには早い」

「……何言って」

「まだ椅子に座っていろと言ったんじゃ」


 彼は、目の前の無造作に椅子に座った。


 正直、自分で自分を信じることが出来なくなってきている。

 離れているのだ…座っていた椅子から。

 自分のことなのに自分で気が付けなかった。


「……全く、何なんの君」


 僕は椅子に近づき椅子を引いた。

 僕は改めて彼を見た、今度はちゃんと彼を()()


 椅子に立て掛けてあった剣を取り、抜くと同時に彼に振る。

 彼は微動だにしない、下を向きコチラを見向きもしない。


 剣は一切の躊躇いを持たず、トーリに迫る。

 避ける時間はない、トーリは斬首の択を手に取らざるを得ないはずだった。


「馬鹿な事は辞めんか、ミラ」


 剣は金属音を鳴らし、首から一寸の場所で動きを止めた。

 そして一言で僕の見ていた光景は、全て霞となって消えていった。


 今までの出来事は僕の想像、名を-創剣-と言い僕に限らず実力者は想像の中で相手を斬り、実力を測る。


 だけど、-創剣-の中に干渉をされた…恥ずかしいが僕の-創剣-はそのレベルではない。

 つまり、こいつは僕のレベルまで合わせて来たという事だ。


「変な技だな、初めて受けた」

「……そうかよ、全く変なやつだ」

「お?もっと取り繕って良いんじゃぞ?ギザなイケメン風味も嫌いじゃない」


「今更だよ」と僕は悪態をついて椅子に座った。

 胸に宝石があるとか、もうどうでも良くなってきた。

 宝石がついてなくても、こういう奴が居るのだから。


「僕はさ、天才なんだよ」

「……何じゃ急に気持ち悪い、主の過去などどうでも良い」


 本当に急な話だ、僕自身ださえそう思う。


「僕は生まれた時から同年代の子に負けた事なんて片手で数えられるぐらいしかないんだ、剣でも魔法でも、ちょっとの努力でスイスイさ」

「なぁ、この話は続けるのか?」


 トーリは心底嫌そうな顔をするが、僕はザマァ見ろと心の中で罵ってやった。


「だから出来損ないは嫌い。僕は自分の事を天才だと自覚してるから、僕と同等の実力を発揮するなんて無理なのはわかるさ、でも言われた事もできないような無能は理解に苦しんだ」

「……はいはい、それで?」

「そんな僕はある日、剣の勝負で負けた、相手はどんな奴だと思う?」

「さぁ、主より才能があったんじゃろ?」


 話を聞いてくれてはいるが、肘をついて心底つまんな彼を置いて僕はひたすらに喋る。


「正解は凡才、それも同年代の中だと下の方…所謂出来損ないに僕は負けたんだ」

「……」

「良い勝負の末、最後の一手を決められた、あれほど顔が歪んだことはないね」


 今でも思い出せる彼の手…手だけが別の生物かと見間違えるほどだった。

 称賛を通り越して恐怖だ、何を彼がここまで突き動かすのか、その日は頭が冴えっぱなしだった。


「結局、明日もう一度勝負をって時に彼は遠くの国へ行ってしまった、勝ち逃げをされてしまってね」

「気分がいいの、天才が慢心して敗れる様は」

「ハハ、僕もそう思ったからたくさん努力した、そしたら誰にも負けない様になったよ…でも足りなかった」


 そこから数年後、冒険者となって色々な国を転々としてきた中で僕は彼に出会った、僕は急いで彼の後ろ姿に声をかけた。


『………あぁ、ミラさん…』


 別人だと、何度も思った。

 何事にもがむしゃらで真っ直ぐだった彼は、立っているだけで雪を降らすような冷酷さと冷たさを持っていた。


「また負けたのか?」

「今度は完敗だった、受ける剣から凍えるような冷たさが伝わって僕に流れ、最後は腕が動かせなくなっていたよ」

「ほぉ…そいつは今どこにいる?」

「さぁ、僕が会ったのはここから二つ国を挟んだ-ラドン-て所さ」

「-ラドン-…でだ、主は何が言いたいんじゃ?」


 確かに、僕が話したい事をダラダラと話していたからテーマがはっきりしていなかったか。


「僕が彼に勝つためには、努力をすれば良いのかな?」


 凡才の殻を破り、天才となった彼。

 僕の知らない所で、いつの間にか彼は手の届かないところに立っていた。

 僕はそんな彼に、一泡吹かせてやりたいのだ。


「何を至極当然な事言っている、努力なくして強さなしだ」

「それは分かってるさ、でも新しい技術を取り入れた所で僕は彼に勝てるかどうか怪しいんだ」

「……呆れるの」


 その声は、小さい煙となって消えてゆく。


「…何が呆れるんだ?」

「凡才が天才を語るなと言っているんだ、凡才」

「凡才だと…この僕に言ってるのか!?」


 思わず声を張り上げた。

 生まれて初めてだった…他人から凡才と言われたのは。

 ちやほやされて生きてきた僕に、その言葉ほどの地雷はなかった。


「訂正しろ…今すぐにッ!」


 彼に言われた凡才という言葉から自分を守るように、僕はトーリの首部分の服をつかみ手繰り寄せ威嚇した。

 反して、この状況でもトーリは余裕なのか、大きくため息をついた。


「事実を訂正しても無意味だ」

「じゃあ言ってみろよ、僕のどこが凡才だよ!えぇ!?」

「……お前の言う成長とは何だ?」

「そんなの強くなる事だろ!?」


 トーリはまた、心底興醒めたような顔つきになる。

 何が違うんだよ…成長ってそういうことだろ!?


「お前の道は綺麗すぎる、だから何もかも浅い」

「……浅い?どういう」

「おっと、これからはお前の番だ」


 ゴトっと、机に何かが置かれる。

 これは記録水晶?しかもこれ…全部…


「それはやる、もとより暇つぶしで受けた依頼だ」


 視線を戻した僕の目には、木で出来た壁しか写っていなかった。

 トーリは僕の後ろにあるドアノブを掴んでいた。


 水晶に視線が集中していたから気が付かなかった、いやだとしても僕は服を握っていたんだ、絶対に気がつくはずなのに。



「一体…いつの間にそこに」

「天才なんだろ?自分で気づけるはずだ」


 そう言い残したトーリは、ドアを開けてこの小屋を去った。

 僕は条件反射のように、机に置かれた記録水晶を手に取り、その中身を起動した。


「…嘘でしょ」


 嘆きの渓谷はあと調査が二百年かかると言われるほどの空間、その広さに比例するように強くなる魔物。

 だから、この結果は夢でも見ていない限りは起こり得ない。


「百六十八時間…嘆きの渓谷全マッピング完了、出入り口完備…何なの」


 この国の専門家たちが苦労して弾き出した推測の上を悠々と歩くように、一切の力みなく超越する。

 僕は生まれた初めて、本当の天才に出会ったのかもしれない。


「……いや」


 この世に天才なんて…居ないんじゃないだろうか。



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