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第五話 -何とかなるか-

 

「退学ぅ?」


 突然言い渡された受け入れ難い事実に、わしは口に出してその言葉を言った。

 何故じゃ?何かおかしなことをしたか?


「そうだ、でも今すぐとは言わない、1週間後にはこの学園から出て行ってもらう」

「……理由が欲しい」

「理由はお前が一番わかっているだろう?」


 そう言われましても、確かにわしは生徒の立場でありながらアークティックに対してタメ口じゃ、だがそれが理由にはならないはずだ。

 可能性はあるかも知れぬ、さっきの男子生徒の慌てようは明らかに他とは違っていたからの。


 ならば嘘をついたことか?しかし嘘をついただけで退学とは中々考えにくい部分がある、となるとぉ…


「ならば教えてやろう」


 わしが考えていると、アークティック教師は椅子から立ち上がり、わしの目の前に立った。

 上から浴びせられる威圧感で体が押し潰されそうじゃ。


「お前は三日前に姿を消し今日の朝に突然現れた。そんなお前を見てすぐに違和感を感じたよ、今までのお前は一度見れば印象に残るほどの弱気な姿勢に態度、野生動物の前に置かれた肉のようだった」


 ふーむ。

 つまり、捕食されてされるがままの人間だったと。

 アークティックは、抑揚のない声で淡々を続ける。 


「だが今俺の目の前に立っている奴は何だ、肉は突然に獰猛な魔物へと変わったのだぞ」


 ……いやいやまさかな。


「正直ゾッとした、見たくもなかった絵を体を縛られ眼前で持ってこられるように、俺の意思とは関係なく見せられた、そのうちに秘める膨大な魔力量…今の俺でも底が見えるかどうか怪しい」

「………」


 アークティックは右手をわしの心臓部分に当てた。

 いや、それよりももっと奥の、言語化すれば内側の精神の扉に触れているようじゃった。


「トーリ・ファーミン…いや、トーリ・ファーミンの皮をかぶった内側のお前は、一体誰だ?」


 パン、と叩く音がする。

 それがアークティック教師の手を弾いた俺の手からの音だと分かったのは、音が鳴ってから数秒経った時だ。


「…はぁ、何じゃバレとるんか、誰にも言わないでくれると助かるのだが」


 奴には他人の魔力を測定する技術を持っていた、このわしでさえも大賢者になる直前に身につけた難易度の高い技術。


 その目で見られれば、確かに今のわしは異質な存在である事など簡単に看破されてしまう、完全に頭から抜けておった技術じゃ。


「そのためにも、お前にはこの学園から消えてもらう、このヴァーレット学園にお前のような危険な奴を置いては置けない、もう行け」


 いやマジか、流石にそんな簡単に退学になるのか普通?

 正直退学は見過ごせない案件じゃ、何しろこの学園の書庫の本が読めなくなる。

 最悪、退学でもいいからいつでも学園には入れるようにしてほしいが……あ、そうじゃ。


「……よし」


 一通り考えがまとまったわしは、ドアの取手を掴んだ状態でアークティックに言った。


「俺は諦めるのが嫌いなんじゃ、500年前からな」


 捨て台詞を吐いて早々に部屋を出た。

 奴の返事なんて聞いてやるか、どうせ感じの悪い言葉だけだし聞くに値しない。


「だ、大丈夫でしたか?」


 ドアの開けた先に待って居たのは、不安で落ち着きのない挙動の保護者レクシア。

 授業そっちのけでこっちに来たのか、真面目なのか不真面目なのか。


「あぁ大丈夫、退学になっただけだから」

「そうなんですか、退学だけで済んでよか…」


 あ、固まった。

 これは後数分は動きそうにないな、わしにもやる事が出来たし放置しよう。


「さてと、-風-」


 窓を開けて飛び降りる。

 その瞬間に体を風で浮かしてそのまま上昇し、学園の一番高い屋根部分に足をつける。


 わしの記憶が正しければこの学園はこの国の中心にある、その一番高いところならば全ての国を一望できるのだ。

 ならば当然あの建物も見えるはずじゃ。


「-遠眼-」


 遠眼、五百年前からずっと使われている魔法。

 簡単に言えば、めっちゃ遠くのものを自分の眼前に表す魔法、簡単であるが為に使用用途も幅広い。


「ふーむ、一体どれじゃ?」


 右目で魔法陣越しに国を一望するが、似たような建物が多い。

 まずは建物の位置を確認したいのだが、流石に他人のプライベートまでを遠眼で見ようとする趣味はない。


「ちょっと危ないでしょ!?降りてきなさい!」


 いつの間にかレクシアが屋上に来ていた。

 肩で息をしていると言うことは、大分急いで来たものだ。

 いや、待て…こやつは使えるぞ。


「レクシアよ、ちょうど良い時に来た」

「な、何ですか?それよりも退学のってどう言う事ですか!」

「その話は後じゃ、まずは答えてくれ」


 わしはレクシアに尋ねた。

 レクシアは少し戸惑った様子を見せたあと、それがある方を指差した。

 指を指した方に遠眼を使えば、徐々にそれが見えてくる。


「なるほど、あれか」


 行けるかどうか結構ギリギリな勝負じゃ。

 -風-で空気の筒のようなものを作り、その筒を遠眼で見た建物まで伸ばす。

 ギリギリ射程範囲内、何とか繋げることに成功した。


 その筒に向かって、わしは言った。


「---、---------------、------------------?--、---------」


 これ程の距離の-風-の操作は流石にちとキツい。

 しっかりと届いているといいが、明日になればわかることか。


 -風-を使いゆっくりと体を屋根から屋上の地面に降り立つ。

 その光景を見ていたレクシアは口をあんぐりと開けてわしを見ていた。


 そっか、本体は初級魔術しか扱えない最弱だ。

 そんな奴がいきなり魔法を使えばこうなるのも無理ない。


 ならば、前のこいつと同じくらいの魔力に抑えて気が付かれない方が色々都合が良いのかもしれない、わしの魔力は他と比べて異質すぎるからの。


「さてレクシアよ、起きろ」

「え、あっはいレクシアですが、じゃなくて!何で退学になってるんですか!?」


 まだその話を掘り返すか。

 いちいち説明するとわしの正体を探り始めるかもしれん。


「大丈夫、あれは嘘じゃ」

「………は?」

「それじゃぁの、今日は早退したと言っておいてくれ」


 レクシアの肩にポンと手を置いて横を通り過ぎ、屋上のドアを開けて門へと向かう。

 退学云々の話で長引くよりも、嘘ついて早く終わるならそっちを取る。

 レクシアは変に揶揄われただけだと思い、わしは説明をする必要はない、互いに得する優しい嘘じゃ。


「さて、これであと1週間は暇になったわけだが」


 時間はたっぷりとあるから一度この国について見回ってみようと思う、魔法至上主義のこの国が一体どう言うものか気になるしの。

 それに偵察もしたい、ならまずはこの国の街並みを見ながらあそこへ出向いてみるか。



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