第六節 〜進化と神徒〜
二人の使徒が、相対する。
「テラ先輩……………?なんで……」「…アイツも知り合いなんですか、ハヤテさん。」
ウルさんが神妙な顔で聞く。
双方、踏み出す。
電撃の銃弾と刃から放たれる衝撃波が、辺りを眩く照らしていく。
既に周辺にさっきまで賑わっていた人影は無い。
「……うん。テラ…テラ・ディザイア。ミラの同級生、同じくして私の先輩。どうしてこんな事に………………?」
火花が散る。避けられた電撃が地面を照らし、抉る事なく消滅してゆく。
先輩が、斬撃を避けながらこちらを覗く。
「……BLUE DRAGONか…つーかハヤテもミラも居るし…どういう風の吹き回しだ……?…おい!もたもたしてないで逃げろ!早く!!!」
「先輩!何が起こっているんですか!先輩!!!」
「いいから自分の命を最優先にして逃げてくれ!話はその後!ブルドラの皆さ…
「さっきから隙が多いんだよ。お前らは。」
二度目の不意打ち。テラの背後を取り一閃
「さっきから不意打ちしかしてねぇんじゃねえか?お前はよぉ!!!」
とはいかせない!嘲笑する青龍さんの刀と相手の刃がぶつかり合った!
「最初と失敗、合わせて四回目だ。いい加減学べっつってんだよ!!!!!!」
ああ、ビルに、ビルに!黒服の体が勢いよく衝突していく!!!
一棟、二棟、三棟、四棟……五棟ものビルを貫いて二人の刃が拮抗する!!!!!!!!
「…被害額がまた嵩みますね………」
キリンさんの悲痛な嘆きが虚しく響き渡る。
「あはは!よく耐えてられんな!!」「うるせぇ!止めろ止めろ止めろ!!!」「じゃ、とーめた。」
青龍さんが急にぱっと身を引いた瞬間、背後で待機していたテラの電撃弾が黒服…“レフティス”に次々と当たっていく!
「ははっ!すっげぇすっげぇ!!!全弾直撃じゃん!」「………お会いできて光栄なんですが、まず逃げろって言いませんでしたか、俺。」「やだよ。お前なんか全部知ってそーだし、死なれちゃまずいもん。」「情報目当てだけで助けたんですか………?」「うん。そうだけど?」「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ…」
「……流石に、コイツらとでは一人じゃ分が悪いな……」
レフティスが電話を取り出す。
「…!仲間を呼ぶ気か!」「阻止しなきゃ……!!!」 二人が急接近し、増援を阻___
「あら、その必要はないというのに。」
突如、地面を割って何かが出現する!
「あのときの……白い、蛇…………?」かつて土産街で見た、あの蛇…?だ。
六本の頭を持った“それ”は、青龍さんやテラ先輩たちの居るビルを取り囲み、嘲笑する。
「流石に失敗続きで見てられませんでしたし、こっそり着いてきて正解でした。」
「………見ていたのなら、もう少し早く来い。」青龍さん達が驚いて辺りを見渡す隙に、レフティスは逃げた。
逃すまいと大急ぎで矢を数発放っても、あの速さには到底届かず全部スカ。行き先を失った矢じりが、虚しく地面に落ちてゆく。
キリンさんも慌ててレフティスの方に向かうが、もう距離が離れすぎていてこのまんまだと追いつけないだろう。
ミラも、何がなんだか思考が追いついてないまま青龍さん達を取り囲む白蛇を見上げている。
ウルさんとゼロさん、そしてジンさんは青龍さん達の援護に向かおうと急いで足を運ぶ。
その時だった。飛び去るレフティスに、まるで閃光、あるいは落雷のような一撃が降り注いだ___!
途端に猛スピードで墜落するレフティス。地面に叩きつけられたその上には、真っ黒な軍服を身に纏い、大剣をレフティスの背中ギリギリに突き付けているいかにも猛々しい風貌の人物が居た。
同時刻、青龍さん達を包囲していた白蛇が一斉に口を開け彼らを食い殺そうとしていた。
武器を構える二人。一斉に首が襲い掛かろうとした瞬間、その瞬間には既にどの首も切断されていた。
そして二人の目の前には、白い服を纏い、髪を後ろで結った科学者、或いは魔術師然とした男が。
「げっ……ブライトさん………じゃああっちの方に行ったのって………………」
ほんの少し震えた声で先輩が狼狽える。私含む六人は、何がなんだか分からないままに呆然とその光景を眺めていた。そんな私たちをチラリと見た後、二人は無線を繋ぐ。
「ここじゃ埒があかない。少し余力を使うが、全員送ってもいいか。」「はい。“話はその後”、ですね。」
そう言い、突きつけていた剣を軍服の男…?は掲げる。瞬間、私たちそれぞれのいる座標にゲートが出現し、困惑のまま私たちはその場から消失した。
「…逃げられちゃいましたね。ふふふ。」「…チッ…今回は仕方ねぇよ。俺でさえ予測できなかった事が立て続けに起きたんだ。」「は〜あ。これでわたしも失敗続き、ですね。」「俺よかはマシだろ。俺よかはよ。」「ふふっ、そ〜ですね〜…」「クソっ反論しないのもムカつく………!」
気がつくと私たちは、巨大で荘厳なオフィスのような場所に立っていた。
「はァ!?何処だここ!?」「ってて…乱暴だなぁ……」みんなはそれぞれ、パニックに陥っている。
少し辺りを見渡した後、すっくと立ち上がって口を開けた。
「………貴方たちは、誰ですか。テラ先輩と何の関係があるんですか。
…あの、白い人たちはなんなんですか。ここは、何処なんですか。」
目線を二人から逸らさず、突然の事でも冷静に。私は、今聞きたい事を二人に挙げた。
振り返ってみんなにも聞く。
「青龍さん達はこの人たちの事を知っているんですか?」「いいや。今日が初対面だ。」他のみんなもうんうんと頷く中、キリンさんと先輩が気まずそうに目をそらす。わかりやすい。
白服の男が口を開く。
「申し遅れましたね。ワタシは“ブライト”。こっちの方が“ファントム”、って言います。以後、お見知り置きを。」「…ファントム…ファントム・ディザイア。宜しく。」
……ディザイア?
えっディザイア?どう……どういう事ですか先輩?先輩???
「……こちらが、姉ちゃ…姉貴です………………なんで居たの……」
さっきの撤回して良いですかね。ごりごりに女性でした。
「可愛い弟の危機に駆け付けないワケがないだろう?」
「やめて。やめてくれ。」
「……というか。今失礼な事考えていなかったか。ハヤテ…だったか。テラ伝いで話は聞いてるぞ。今何て思ったお前。」「……あ、ひゃい…!すすすすいません!(迫力が凄い………!というかバレてた………!?)」
「まぁまあ。今はこちらが質問に答える番ですよ。……それで、次は“あの怪物が何か”、でしたね。」「…あ、はい……」
「簡潔に結論から説明致しましょう。あれは『神徒』。とある組織の力によって、怪物へと変貌…いえ、彼らの言葉を借りるとなると… “進化” した人間ということになりますね。」
「何となくそんな気はしてたけどね。」
ジンさんがぼそっと口を挟む。
『人間……あの白ゴリラが……?』「…はい……?白…ゴリ……今なんと?」『白ゴリラ。』「白ゴリラ………」
キョトンとしながらもブライトさんがゼロさんの質問に答える。白ゴリラ。たしかに実名を知っている人からしたら、そりゃあキョトンとなるだろう。
「…少し取り乱しました。気を取り直して。彼らを怪物へと進化させている組織は、俗に“大進化教”と呼ばれる宗教団体。このカミサマ社会の世の中にして崇拝している神性が分からない、正体不明の謎の組織です。」「その組織はどうしてそんな事を?」「彼らの行動理念…目的は、即ち。
“進化した人類、神徒だけがこの世を統べ、天使や魔族を含めた…旧い者共を滅ぼす”というもの。
……言わば、自分勝手の極み、とでも言うべきでしょうか。」
「……一旦言わせてくれ。アタシはさっきから全然話が分かんねーけど、そんな事して何が楽しいんだか…って思うよ。どーせ支配すんならさぁ。互いに手を取り合ってこそじゃねぇの?そーいうのは。」「…同感ですね。他の者を排他、抑圧する手段に価値などありません。」
志が違う。二人とも、国を纏める立場ってだけのことはあるな……かっこいい………
「…で、最後。」ファントムさんが口を開く。「ここが何処か、だっ…
「その話は私からさせて頂くとしようかな。」
背後から不意に声がした。
扉が開く。光が漏れる。
「ッ…!?司令っ!何故ここに……!彼女の事を伝えたか、ブライト!?」「いえいえいえ!!!ワタシは何も…!」
「なぁに。そんなもの、気配と声で分かったよ。サプライズのつもりだったのかな?…まぁ、こうして会えただけでも十分なサプライズなんだけどね……………“久しぶり”。ハヤテ。」
驚いて、後ろを振り向く。
暖かい金の眼差し、なびく白髪。
あのとき宝物を残して消えた、私の“目的”。
「父さんっ!!!」
「「「『「「「っ……ハヤテの親父ィッッッ/ですか!?!?!?!?」」」』」」」