第五節 〜王たる力〜
メンバー全員への挨拶も終わり、自分自身も加入動画を撮らせてもらった頃。
「火力が欲しい。」
ある日、そう言いだしたのは青龍さんだった。
「火力…っていっても、この前私言いませんでしたっけ?ウルさんも結構凄かったって。」
「いや、違うんだよ。確かにアイツも爆発的なんだけど、小細工で対策でもされたらマズいし自由にできる土産街以外じゃロクに使えばもっとマズい。」
それは貴方がいつも躊躇なくやっている事でしょうが。初めて会ったときの事を思い出し、そう薄々思いながら聞いてみる。
「じゃあ…どうするんですか?」「決まってんだろ。物理だよ。」
物理的な火力、というと、一人。たった一人、思い当たるフシがあった。
事前に約束を交わし、その“一人”と待ち合わせ。キリンさんは遅れてくるらしいので私たちだけで行ってみると、相手は既に着いていた。
「…お、よーやく来た来た♪ 」
「ごめ〜ん!全員空港のお土産やさんに夢中で、集めるのに時間かかっちゃって〜〜〜!」
「な〜に、大丈夫だっての♪ 」
そう言いながら私の肩を組む彼女はミラ。フルネーム、「ミラ・レオン=アルバート」。私の親友であり、通っている高校の一つ上の先輩だ。
「…で。アタシをスカウトしに来たのがアンタ達?」
「おう。TEAM BLUE DRAGON 、リーダーの青龍。よろしく。」「…ジン。」『ゼロ!』「ウルです…」
次々に自己紹介をする。
因みに、ミラは彼らの動画を一切観たことがないらしくコレが初めての邂逅となる…らしい。
「へへっ、よろしく。ロボもいんじゃん。『電子生命体です。』……つーかさ、そもそもコイツらは何の為に仲間集めしてるワケ?」「…あ。確かに。私の場合は自分から入ったし、火力に至っては三人『私も居るんですが』で十分なハズですし、……何で、仲間を集めてるんだろ。」『む〜……』
「まぁ面白そうだし、アタシはぜんぜん良いけどさ?ホレ、実況動画とか撮るんだろ?陥れあったり、躊躇なく味方を切ったり。」「配信者への偏見が凄いな。そういうとこもあるし、もっぱらウチはソレだけど。」「マジなのかよ。ウケる。」
そんなウルさんとミラのやりとりを見てると、つい口元が緩んでしまった。両方仲良くなれそうで良かった…と思っていたその時だった___。…ってか、いっつもこういう書き方してるからすぐ分かっちゃうと思うんだけど…
『敵性反応、高速で急接近!600m、320m、140m、50m……来ますっ!』
「えっ何敵って何?ちょっーと待ってアタシ全くワケ分かんねーンだけど…っておい!?ハヤテ!?!?何やって…ッ!?」
恐らくとんでもないスピードからして前に私を襲って来た黒服の怪物……そう判断した私は
「前みたいには…いかないっ!」と、すぐさま弓に矢をつがえた。
「はァ!?一体何が…………って、何アレ。」
読み通り、やはり黒服だ。こちらの警戒を察したのか、空中で足を止めて話しかけてきた。
「……やはり奇襲は無謀、か。真っ向から行きたいが、どうもそこの青髪が邪魔だな。」
ストップ時の衝撃波が凄い。耐えるだけで脚がぴりぴりする。
ミラが困惑した様子で青龍さんと黒服の間に入り、口を開く。
「ちょーーーっと待った!!!まずアンタは何だ!?ンで今何が起こってる!?アタシだけ全ッ然ついてけないんだけど!!!あとハヤテお前弓道部だろ!なんでコンパウンドボウなんだよ普通は大弓だろ!そっちはアーチェリー部の特権なんじゃないの!?
「案外使いこなせるので平気です。」
あっそうなんだぁ…じゃねぇよ!あ゛ぁも〜〜〜〜…なんなんだよこの状況〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「……貴様に教える義務は無い。下がっていろ、金髪。」
「んだとテメェ!!!!ボコボコにされてぇか!?あ゛ぁ!?!?!?!?」
今にも殴り掛かりそうになってる状況で、ミラの肩を必死に掴みながら説得を試みる。
「ぐにに……構わずに、青龍さんたち三人は戦闘を!…ミラ!まずは落ち着いて!私が解説するから!!!!順を追って!!!」「マジ?じゃ頼むわ。」
ふっとミラの勢いが消えた。「いくら何でも軽すぎだろ…」ウルさんがぼやく。
三人が戦っている横で、お互いに正座しながら話し始めた。
「えっとですね。」「おう。」
「まず、この人たちは動画配信の他にヒーロー活動?みたいな。そういうのを行なってます。」「そりゃ見りゃ分かるよ。…んで。」『じーーーー…』「なんであのロボ『電子生命体です』はそれをじっと撮影?してるワケ?」「あの人たちは、戦闘の風景を撮影して配信することで、視聴者の需要を満たすのと警察や国の主要防衛機関への報告を同時に行なっているんです。」「…そんなプロレス感覚みたいなモンなんだ………」「はい。」「はいって言っちゃったよ…そうなんだ………」「で、あの白い敵。最近ニュースで見ない?」「あ。服着てるから分かんなかったけどアレか。あのー…街を破壊してく謎の怪獣。なんでそっちを襲ってきてるんだ?」
「わかりません。」
「わかんねぇのかよ!それが一番知りたかったんだよこっちは!!!!!!…ってうぉっあぶね。オイ!ガレキこっちに飛んできてんだけど!!!」
黒服含めた全員が言い返す。「「「「呑気にそこでおはなししてるからだろ!!!!!!」」」」
「……で、それで、ミラの力を借りたいんです。」
武器を持ち、よっこいしょと立ち上がる。
「…」
「まだアレらの目的も正体も分からない。それに、生きているのかどうかも分からない。何もかもが謎なんです。でも、あれは確実に私たちを殺そうとしている。何を思ってるのかは知らないけど、それならば全力でぶつかっていくまでなんです。だから。」
手を差し伸べる。
「……プロレス感覚、ってのがちょっと気に食わねェ。」
ミラが立ち上がる。
「けど、…いいな。ソレ。アツくなってきたんじゃねぇか。」
「ド派手に行こうぜ!ハヤテ!!!」
「…!ふふっ…はい!ミラさん!」
「武器!」「こちらに、ミラ様。」「ダレぇ!?!?!?!?!?!?!?!?」
ウルさんが反応するのも無理はない。自身の身長以上もある大鉄斧を持った執事服の老人が、いつのまにかさっきからそこに居たかのようにミラの隣に立っているのだから。
「あ〜…この人、うちの爺や。」「爺やにて御座います。」「「「爺やッ!?!?!?!?!?!?」」」
ミラが鉄斧を受け取っている横で、弓矢を構えながら答える。
「ミラ、おえらいとこのお嬢さんなの!」「ん。そーいうこと。」
鉄斧を地面に突き刺し、両腕を組みミラが口を開く。
「アタシは、ミラ!“ミラ・レオン=アルバート”!!!由緒正しきレオン=アルバート王国、その王家の出にして次期正統王位継承者!!!武器を持たせりゃ百戦錬磨、縦横無尽に駆け回るッ!!!“護衛不要”のその力、特とその身に思いしれぇッ!!!!!!」
名乗りと共に斧を持ち、身軽に建物や塀の合間を跳びゆく。
「一国の…王家…だと……?」
黒服が一瞬狼狽えた瞬間、ミラの斧が胴体に、そしてようやく来たキリンさんの光波が両腕に突き刺さる!
「遅れて来てすみませんね。お久しぶりです、ミラ様。」
「ったく、アタシがガキの時から過労なのは変わんねぇな、キリンさん!」
息を合わせ、地面に黒服を叩きつける。
そのタイミングを見逃さず、すぐさま三発の矢を、彼の足と思われる巨大な刃に穿つ。
「グハァッ!?」
「すご…ハヤテがスカウトしたかったのはこの為だったのか…ってか、キリンお前コイツと知り合いだったの?」「えぇ、青龍。ちょっと昔にお偉いとこのパーティでですね。まぁ、今来てようやく彼女だと気づきましたが。」「さっすがに名前で気付いてくれよな〜?」「いやぁ、すいませんね。ミラという名前は結構ありふれ
「余所見は、厳禁。」「「「え、あ。」」」「ミラ様っ!!!」
話に夢中になっていたのか、完全に油断していた三人の前に黒服が迫る___っ!
「(まずい…!いくら青龍さんやキリンさんでも、流石にあの距離はっ!!!)」
直撃は免れない、もう駄目かと目を瞑ろうとした、
その時だった___。
突如、一筋の閃光が彼の脳天を貫く。
「!?」黒服が飛び退く。幸い、彼の攻撃はミラたちには当たらなかった。
「適正距離可変極小電圧エネルギー弾。実弾じゃ無いから身体への損傷は火傷と感電だけ、抉りは無い。」
「…………久しぶりだな、“レフティス”。」
「…っははッ……!随分と懐かしい顔じゃねぇか!元気にしてたか?……… “テラ” ぁッ!!!!!!」
天から降りたつ漆黒き翼、迸りたるは緑黄色の閃光。銀髪たなびく其の姿、例うとすると堕天使か。ここから全てが変わり出す、ここから全てが判り出す。英雄集いしこの場にて、キミは果たして何を見る?
次回
「進化と神徒」