第四節 〜地図に無い土産街〜
怪物が、街を壊していく。まるで何かを探し求めるように。
天使の一部は逃げ惑い、また一部は其々応戦している。
「……こいつは………」
「…その反応を見るに、天界でも出現してるようですね。こいつら。
目的も分からないし、最近よく出現するようになってきたし……ほんッとに、何なんでしょうね。」
「あのー…のんびり考えてる場合じゃないですよね……?」
震えた声でハヤテが呼びかける、と同時に怪物がこちらの方をゆっくりと向く。
「見つかったな。コレ。」
「……ハヤテさん。弓、お得意なんでしたっけ。」
「…援護くらいなら。……でも、アレに効くかどうかは分かりませんけど。」
「………闘う気はまんまんなんだな。」「そりゃ当たり前ですよ。…私が入った理由の一つです、ここで闘わなくてどうするんですか。…それに。」少し怯えながらも笑ってみせ、闘う人々の方を向く。「あの人達の笑顔を守れるのであれば、命だって惜しくはない。……私は、そういう人だから。」
「ふふっ……ハヤテさん、結構カッコいい人なんだな。…はい!備蓄のコンパウンドボウと矢筒!コレで、戦えるだろ!」
いつのまにかウルさんが何処かから弓矢を取り出していた。しかも矢に至っては相手を仕留めるには十分過ぎる本数。ホントに何処から出したんですかコレ。
「備蓄…?えっ何でウルさんが武器を…?」「ふふん。こう見えて武器製作ならお手のものなのでな。敵は眼前!いくよ、ハヤテさん!」「…!はい!」「ふふ…話は終わりましたか?来ますよ、お二人とも。」
三者、揃って武器を構える。怪物の咆哮が合図となり、三者三様飛び出していった。
.
.
.
数分後。
「んッ!で!こうなってるんですか〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
拝啓、父さんへ。私はいま、大量の怪物に追いかけられてます。
時は少し遡り。
次々と放たれた矢が二人の間を縫い、怪物の眼や関節の隙間に次々とヒットしていく。「やった!効いてる!」「矢ってのは相手を“穿つ”モンだからな。威力は高くてナンボだろ!」「流石弓道二段…でしたっけ。ウルさんから聞いては居ましたがやはり精度が…………」
刹那。怪物が雄叫びをあげた。
「!?」驚いたのも束の間、上空に無数の、球体状の穴が出現する。「ぶ…ブラックホールっ!?ですか!?アレ!?!?」「いや違う。恐らくゲート……まさか…?」
ウルさんの予感は的中してしまった。中から同型の怪物が2、4……恐らく10体ほど舞い降りて来た。
「いや多すぎません?流石に。」「それは思った。」「あまりにも不味いですよねコレ。」
もう逆に冷静になっていた。怪物が一斉にこちらの方を向き、私目掛けて突進してきた———。
そして現在に至るワケですが。
路地裏に隠れて追跡をやり過ごす…だがウルさん達と逸れてしまったしバレるのも時間の問題。どうすれば…?と思っていたその時だった。
『こっちです。』
無機質なような、でも生気に溢れたような。そんな声がした。と同時に、私は腕を強く引っ張られた。
輝かしい光に眼を塞ぎ、訳も分からぬまま連れられた先には見知らぬ光景が広がっていた。レトロな街並みで、天界とも地上とも何かが…それこそ“世界”そのものが違うようだった。
『矢印にしたがって。此処の配置はランダムに変化するから、不変の“ロビー”を目指して!』
言葉通りに従うと、遠くにウルさん達の姿が見えた。走り寄って情報を聴く。
「おっ。ハヤテさんも合流出来たか。」「合流出来たか。じゃなくてココ何処なんですか!?というか何なんですか!!!!」『それには私が!』「…あ!さっきの声!!」見るとそこには、まん丸な……なにこれ。ロボット?『ロボットではありません』思考読まれてるし。『私はゼロ!ウルさんが創造した、電子生命体です!!!』
………。
「????????????」『あっえぇと〜…えぇと…とにかく!味方です!!!』
「…よくわかんないけどわかった!とりあえず場所の説明を!!!」『あっはい。…はい。ここは“土産街”。私と共にウルさんから創造された世界…というか結界で〜え〜と…とにかく安全です!!!あっ今嗅ぎつけられましたね』「ちっとも安全じゃないじゃん。」
さっき通って来た場所の空間が裂けはじめる。
「で、どうするよ。」「ですね。早くなんらかの対策をしないと……はっ…!ゼロさん!『はいっ!?』此処ってウルさんが作った、って言いましたよね!なら、配置を任意に…!」『はい!…!そっか!地形の特色!』「読めた。つまりは俺が配置を変えて追い詰めればいいんだな。」「誘き寄せるのは私とハヤテさんで、で良いですか?」「はい!」『なら私はウルさんと一緒に配置替えの手伝いを。この結界の管理者は私なので。』「よーし!それじゃあ、作戦開始!です!!!」
空間が完全に割れ、怪物が一斉に雪崩れこんできた。その眼前にはキリン。
「流石に此処で活躍しておかねば、“空気が薄い”だのなんだの言われそうですからね。」
そう言って、肩の鎧をパージする。中にはいかにも軽量と速度に特化したような白金の外装。
その手には、祭剣のような銀の刃。
「さぁさぁこちらです!ついて来なさいッ!」
剣から光波を放ちながら、縦横無尽の低空飛行。その後を必死に怪物達が追う。
その上空、全てを見下ろせる高台で二人が意識を集中させる。
道は瞬きしたうちにどんどん変わっていき、一本道へと成っていった。
「さすがキリンさん…スピードがピカイチですね……」「なんて言ってる場合じゃない。そっちにも数体向かった。」ウルの声がする。この世界の創造主だから無線なしでこういうのが出来るのであろう。「…しっかりやってくださいね。ハヤテさん。」「勿論、分かってます。」
怪物が視界に映る。怪物も視界に捉える。……弓を構え、逆方向にダッシュした!
その後数分間、二人はが怪物を誘き寄せていたが…
「目的地到着!塞いで…ッ!?」ハヤテが転ぶ。怪物もその隙に距離を縮め、絶体絶命の状況だった。その時。
突如として、“光の盾”が攻撃を弾く。星の十字架を複数組み合わせたような、神秘的な盾。
「…!?」キリンが遅れて到着する。「……………アイギス」そうポツリと、彼はつぶやく。その瞬間『包囲完了!!』「下がってろお前ら!!!!!」驚く暇もなく、キリンがハヤテを抱き抱えて撤退する。
その瞬間、足場が一瞬にして凍りつく。さらに上空から隕石のような巨大な火球がぎゅうぎゅう詰の相手に着弾。
だがその前に私は見てしまった。一瞬、無数の、白い巨大な蛇?が地面を破り、怪物を咥えて消えた事。
そのあと、超絶ド派手な爆発が巻き起こった。
そして、戦いは終わった。その後全員で集合し、土産街内の食事店で打ち上げをしていた。
『結局何だったんですかね。あの白ゴリラ。』「ネーミングセンス……」ウルが苦笑いする。「にしても、あの爆発すっごいですね!!!!ウルさんアレどうやったんですか!!!!キリンさんもそう思いm……キリンさん?」「……………………………あ、えぇと…何でしたっけ?」「も〜!!!!!ウルさんの爆発技ですよ〜!!!!!」口では誤魔化していたが、私はしっかりと見た。そして気づいてしまった。彼の鬼気迫る表情と何かを呟いていた事、彼が一心に何かを考えていた事、それが仕事よりも私的な事よりももっと大事なものを考えていたことを。
『……?二人合流の反応…青龍さん達が帰ってきたんですかね………?』
そんな会話を尻目に見上げた空、そびえ立った塔の上。二人の人影が会話していた。
「覚醒が近くなった。その分狙われる確率も高くなるだろうが、どうするつもりだ?」
「そろそろ引き入れた方が良いのかもしれませんね。あの人には内緒にしておきます?」
「TEAM BLUE DRAGONだぞ。そのうち有名になる。」
「ははっ、確かに。ならもっと予定を縮めておかないと……」
「…にしても、戦力を集める流れとなるとアイツも……」
「同じでしたんだっけ?学校。……胃、あんま痛ませないでくださいね〜。」
「そうだな……」
「……たのしみですねェ、コレから。」
つづく