第2話*叶わない恋
アーティは喜びのあまり、スペニーに抱きつく。
「アーティ! バカっ! 抱きつくなよ、ビックリするだろう?」
スペニーの顔は火が出そうなくらい、耳まで真っ赤だ。
「ごめんなさい。だって嬉しくって」
(スペニーったら、照れてる? 顔、真っ赤だし。スペニーも私の事好きなら良いな)
アーティは、スペニーが凄く魅力的に見えていた。
*
スペニーが連れて行った人間の世界。人間を乗せて早く動く箱や、キラキラと光っている色とりどりの灯り。どれもアーティには珍しく、新鮮だった。
それに何より、アーティはスペニーと過ごす時間が嬉しかった。
数時間人間の世界を満喫した後、スペニーは海岸へと戻ろうとする。
「アーティ、そろそろ帰ろうか?」
その言葉にアーティは凄く残念そうな顔をする。
「え? もう? もう少し……ダメ?」
そんなアーティに心が痛むスペニーだったが、もう、帰らなくてはならない。
「ごめんね。楽しいのは分かるんだけど、もう夜が明けてしまうし、俺も、もう帰らなきゃ」
(そう、俺は王子。自分の都合で、これ以上ここに居るわけにはいかない。ペン民も待ってる)
「そっか。そうだよね。うん、私こそごめんなさい。スペニー、今日はありがとう」
「良いよ。楽しめて良かった」
暫く黙った後、アーティは真っ直ぐスペニーを見つめる。
「ねぇ、スペニー? また、会えるかしら?」
「え? アーティ、俺とまた会いたいの?」
「うん……私、あなたが好きになっちゃった」
アーティが告白すると、スペニーは驚きのあまりしばらく動けなくなっていた。が、しばらく経つと、落ち着きを取り戻し、少し寂しそうな顔をする。
「アーティごめん。気持ちは嬉しいけれど、君の気持ちには答えられない。俺はペンギンだし、なにより王子だ。俺の国を放って、外の世界で恋人をつくるわけにはいかないんだ」
「そんな事言って、本当は私のこと面倒って思ってるんでしょ? 魔法も使えないし、お荷物だよね」
アーティが少し拗ねたようにそう言うと、スペニーは声を張り上げた。
「そんなこと無いよ! 本当はこんなこと言っちゃいけないんだけど、俺もアーティのこと好きになっちゃったんだ。けど、俺はペンギン界の王子だし、一緒には居られないんだよ」
「スペニー、それ本当? 私のこと好きって?」
「ああ。でも、さっきも言ったけど、俺はペンギン、アーティは人魚。一緒にはいられないよ」
二人の間に沈黙が流れる。
先に口を開いたのはアーティだった。
「スペニー? もし、私が……私がペンギンになれたら、一緒に居てくれる?」
「アーティ……? え? アーティがペンギン……に? いや、ダメだ。それだけはダメだ!」
スペニーはそういう魔法があるのは知っていた。けれど、それはとても危険な、危険な魔法だった。
「けれど、そうしないとスペニーと一緒に居られないから」
「ダメだよ! 確かに他の動物や人間、魔物にだってになれる魔法はある。一時的なものなら、さっき俺が使った人間になる魔法もそうだし。だけど、ずっとその姿になるっていう魔法はとても難しいし、失敗すると最悪の場合消滅してしまう。そんな危険な事させられない! それに、アーティは魔法が使えないじゃないか? 誰かに頼むとしても、それなりの代償が必要だよ」
スペニーは必死で止めるが、アーティは聞かない。
「スペニー、私、あなたと居られるならどんな事も耐えられる。だから……!」
そう言うと、海に飛び込んでしまった
「アーティ! やめろっ!」
スペニーの言葉虚しくアーティはこの日戻って来ず、その後、アーティはが(はorが)この海岸に姿を見せることは一度も無かった。
魔法が失敗したか? 仲間に引き止められて、海からまた出られなくなったか? それは誰にも分からない。
スペニーはアーティの事を思い、何処かで幸せに暮らしてるようにと願って、一国の王子にも関わらず生涯独身を貫いた――――
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