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小さな箱庭で  作者: 空木
2/2

出会い

 ドンッと誰かに背中を押される。

 はっと驚いて後ろを振り返ると、そこには1人の青年が神社の鳥居の前に立っていた。

「じゃあな。もうここにはもう来んな。俺のわがままかもしれないけど、今度こそお前には誰かのためじゃない、お前自身のための人生を歩んで欲しいんだ。もう俺たちのことは忘れろよ。」

 僕を諭すように語りかける〇〇〇〇の琥珀色の瞳から飴玉のような涙が頬をつたう。

 それじゃあ〇〇が幸せになれないじゃないか!彼にそう伝えるために、口を動かし声帯を震わせようとするが、ふと思った。.....君って、君たちって、一体誰のことだ?なんで僕は知っている?

「待って!君は『これ以上見るな。もうこのことは忘れろ。』」

 僕の言葉を被せるように後ろからきた誰かが喋りかけてくる。彼はそっと僕の目を手で覆い、泣いている赤ん坊をあやすように耳元でこう囁いた。

「今のお前にこの記憶は必要ない。これは夢だ。それもとびっきり悪い悪夢だがな。」

 どういう意味か尋ねようとするが、突然襲いかかってきた眠りに抗うことはできず、僕の意識は底なし沼のようにズブズブと沈んでいき、暗闇の中へと落ちていった。




....い、....いってば、おーい、いい加減起きろ。

ゴツンッ

 苛立ちを隠せない声と後頭部に感じた痛みによって脳が覚醒し始める。机に突っ伏した体をゆっくりと起こしながら、殴ってきたと思われる方向に目をやる。そこには、幼馴染たちがおり、心配そうにこちらを見ている。

「大丈夫か?先生に起こされても気づかないくらい爆睡してたし、って泣いてんじゃねぇか!こっちに顔向けろ。」

 そう言いながら金香桃生はハンカチで僕の顔を拭いてくれる。

「本当に大丈夫か?寝不足か?誰かに何かされたのか?待ってろ、そいつのこと殴ってくるから名前教えてくれ。」

 田麦菊人は物騒なことを言い残し、教室から出ようとしている。

「大丈夫だからっ、なんか悲しい夢を見てただけだし、もう覚えてないからっっ」

 僕はそう言って菊人の暴走を止めようとするが、どうしようもないことに彼に力で勝てた試しがない。ズルズルと引かれていると、田子森信風と鳶尾紫苑が慌てて菊人の動きを止める。

「落ち着こうなっ、青寿の話を聞けこのバーサーカー」

 すると、菊人は僕の前へしゃがみ込み、僕のことを見上げながら不安そうな顔でこちらを見る。

「急に暴走して悪かった。嫌いになったか?」

 ないはずの耳と尻尾が垂れ下がり、僕に許しをこう。そんな彼のことを許せないはずがなく...

「いいよっ」

 そう彼に答えた。

「よしっ、話は終わったな。お前らに話したいことがあんだけど、今日神社で夏祭りやってるらしいんだ。だからさ、帰りよってかねぇ?」

 そう言って僕達のいざこざを静観していた桃生が夏祭りのチラシを見せてくる。僕達4人も面白そうだから、と学校帰りに5人で行くことが決定した。





 夏祭りへ行くなんていつぶりだろうか。少なくとも小学校高学年以降は一度も行っていない。小さい時は親の代わりに『麦』や『香』たちと一緒に遊びに行ってーでも僕が『仙さん』に自分の名前を教えちゃったからー。


ん?僕が『誰』に『ナニ』をした?


 昔からそうだ。何か大切なことを忘れていることに気づき、思い出そうとすると、記憶の蓋がナニカによって無理矢理閉じられる感覚に陥り、思い出してはいけないと誰かが僕に囁いてくる。どうしてなのか。そんなことをぼんやり考えているうちに、いつの間にか授業が終わっていた。



 いつもは静かな神社であるが、射的や綿飴などたくさんの出店が参道の両端などに並んでおり、夏祭りの熱気で溢れかえっている。

「見てみろよ。犬の半面があるぞ。菊人犬っぽいし似合いそうだな。」

 そう言って信風は屋台のおじちゃんに700円を払い、菊人にお面をつける。

『リン』

 菊人のつけているお面には鈴がついていない筈なのに、鈴が鳴ったような気がした。


「なぁ、菊人」

「なんだ?」

「こんなようなお面つけたことあったか?」

「いや、生まれて初めてつけたと思う。」


 唐突な質問に菊人は驚いたように答える。僕の見間違えだろうか。なんでこんな質問をしたのか自分でもわからなかったが、りんご飴を食べたりと出店を楽しむうちに、そんな疑問も忘れてしまっていた。


 夏祭りを一通り楽しみ、満足した僕達は神社の鳥居前で解散することになった。

雲ひとつ無い青く澄んだ空もいつの間にか夕陽が沈んで暗くなり始めていた。母さんに夕飯はいらないと連絡しようとスマホをポケットから取り出そうとするが...ない。神社の境内でスマホを落としたようだ。スマホを探すため、人混みに紛れながら境内を散策する。スマホは手水舎の近くに落としていたらしく、すぐに見つかった。おそらく射撃の景品をしまおうとした時にでも落ちたのだろう。スマホについた土を払った後、親に連絡を入れる。時刻は6時を指しており、明日の課題はなんだったか考えながら鳥居を潜ろうと、足を一歩前へ踏み出す。


『チリン』


 懐かしいような鈴の音が聞こえ、音のする方を見てみると、狩衣を着て、目元に紅が引かれている白と黒のウサギのお面をそれぞれつけている2人の男の子がいた。小学生低学年くらいの子供がなんでこんなところに...?

迷子かと思い、2人に話しかけるために境内へと引き返す。

不審者では無いことをアピールしながら2人の元へ行き、迷子かと尋ねようとした時、


『やっと見つけた。僕の宝物。』

『早く来て。こっちだよ。』


 2人はそう言うと、僕の両手をそれぞれが掴み走り出した。

 自分が転ばないように引かれる両腕にあわせて僕も走る。彼らは一体どこへ向かっているのだろうか。確かここから先は道がないはず...

 そう思いながらついて行くと、細い通り道のようなものがそこにはあった。


「ねえ、こんな道この神社にあったっけ。」


 そう2人に尋ねても、2人は何も言わず時変わらず僕の腕を引っ張って細い通り道を走っていた。

.....もう何分走っただろうか。

 あたりはいつの間にか暗くなり、細い道の両端には“ぽっぽっ”と灯りが灯されていく。

 こんな道が続いていくのかと思った矢先、狭かった視界が急に広がり、夏祭りの会場となっていた神社が目の前にあった。

 結局戻ってきただけかと落胆していたが、いくつかの違和感に気づいた。


1つ目は人が全くいないこと。

 今日、神社では午後9時ごろまで夏祭りをやっているのだ。にもかかわらずここにはウサギのお面をつけた少年と僕しかいない。


2つ目は空がまだ明るいこと。

 細い道を通っている時、確かに暗くなっていた。だが、神社の境内に入った後に見上げた空は茜色になっている。


3つ目は神社の外へ出られなくなっていること。

 出られるには出られるが、鳥居から出で少し歩いたところに本来あるはずの階段がなくなっているのである。このまま進むことも考えたが、進めば本来の神社に戻ることはできないと本能が告げている。


 さあ、これからどうしようか。神社から出る手がかりは今のところ何もない。まるで脱出ゲームのようだと思いながら人を探すため境内を散策する。

 拝殿のほうに歩いていくと、お面をつけた僕よりも少し年上だと思われる男の人たちが5人いた。


「あの、教えて欲しいことがあるんですけど....」


 お面をつけているため表情があまり読み取れないため内心ビクビクしながら尋ねると、狐のお面をつけた人の肩がピクリと動き、


「なんでお前がここに...?『仙』のせいか。もうこいつは関係ないだろう...」


 最初は驚いたような声音であったのに、だんだんと怒りのこもった声音へと変化していった。

 えっ、一体なんの話をしているんだ?僕何かしたっけ。

 僕が怯えていることに気がついたのか、犬のお面をつけた人が僕を抱き寄せ、


「お前には関係ないから安心しろ。」


 と僕のことを撫で始めた。

 白い紙にバツ印が大きく書かれているもので顔を覆っている人と白い布に墨で花が描かれているもので顔を覆っている人は、僕に抱きついていた犬のお面の人を引き離すと


「混乱させて悪かったな。2人とも悪い奴ではないんだ。」

「まぁ、取り敢えずどうやってここから出すか考えようか」


 悪い人たちではなさそうだとほっとする。そういえばどこかでこんなお面を見たことがあるなと思い、彼らのお面をじっと見つめる。


『チリン』

『リン』


 またこの音だ。一体どこからなっているのかと、音のなる方を見てみると犬と狐のお面の端に小さな鈴がついていることに気がついた。そういえば小さい頃かおのみえないお兄さんたちがいっしょにあそんでくれたような....


「あー!」


 僕が急に大きな声を出したことに驚いたのか、5人全員がこちらを向く。


「もしかして、香くんたちですか?」


「「「「「えっ」」」」」


 そうだった。どこか懐かしいはずだ。だって小さい頃一緒に遊んでいたんだから。



 僕は久しぶりに会えたことに喜んでいて、この時の嬉しいような今にも悲しくて泣き出しそうな彼らに気づくことができなかった。もしこれに気づいていたら、結末は変わっていたのだろうか。少なくとも、この出会いは僕の人生を大きく変えたことだけは確かだと思うのだ。


お読み頂きありがとうございます!

この小説を読んで、「面白そう」「続きが気になる」と少しでも感じましたら、是非ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです <(_ _)>

読者様の応援が私の何よりのモチベーションとなりますので、是非よろしくお願いいたします!


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