洗濯物
「あっ……」
「へっ……？」
梅雨も終りかけの、その小雨の日曜日、俺はここ10年以上、受信料を払ってない奴が住んでるマンションの1階の部屋のベランダ側に居た。
中年と云うには齢を取り過ぎ、初老と云うには若い太った男が、ランニングシャツとパンツで洗濯物を干していた。
おい……ベランダの雨は入りそうにないが……この天気だぞ。
まぁ、いい。
「あの長野さん、Ｎ(ピー)Ｋの集金です。少しでいいんで払って下さい」
「うわああああ……」
その男は悲鳴を上げながら部屋の中に入る。
俺は溜息を付いてマンションの入口に回り……。
何だ？
ヤツの部屋の郵便ポストには……郵便物や広告が溢れるほど詰っている。
まぁ、いいや。
俺は奴の部屋の玄関のドアのチャムを押し……。
ん？
音がしてるのか？
壊れてる？
まぁ、いい……。
「長野さん、Ｎ(ピー)Ｋです。開けて下さい」
俺は何度もドアを叩き……。
「あの……」
隣の部屋のドアが開く。
「あ、すいません」
「そうじゃなくて、その部屋の人、最近見掛けないんですけど……」
「えっ？」
「一週間ぐらい前の通勤時間帯に、パトカーと救急車が来て、その部屋の人が運び出されて……それ以来、夜中も部屋に灯りが点いてないし……」
「い……いや……でも……さっき、ベランダで洗濯物を……」
「ああ、あの洗濯物ね。貴方に言っても仕方ないけど……何とかならないんですかねえ……？」
どうなってるんだ？
訳が判らないまま、俺は再びベランダの側に回り……。
そこに干してある洗濯物には……ビッシリと黒い黴が生えていた。
