前向きに
「シャーリー様、参りましょう。シャーリー様がおられないとご主人様もノーセット様もお食事できませんよ」
ハザードが手際よく私の白衣や帽子を脱がせ、こちらへ、と促した。
厨房にいた人達は静かに頭を下げたり、手を振っりしてくた。
そんな些細な事が、自分に向けられている、と思うと嬉しかった。
「どうされましたか?」
「す、すみません!」
少し前を歩くハザードに呼ばれ急いで側に行った。
「そうですね。そこは、すみません、で言葉はあっています。こちらです」
「はい」
言っている意味が正直分からなかった。すみません、と私は思って口にしている。さっきのだって、あんな騒ぎになってしまって申し訳なく思ったから口にした。
でも、よろしくお願いします、と言った時、胸が熱くなって、とても嬉しかった。
「シャーリー様は、すみませんの言葉を使いすぎです。少し考えて使ってください」
ハザードの後ろをついきながら、首を傾げた。
「・・・私は自分が愚かだと分かっているので、皆さんに迷惑をかけているのは承知しています・・・。だから、申し訳なく思い、すみません、と使っています」
「成程。では、少し前向きに考えて下さい。後ろ向きに考えすぎです」
「・・・後ろ向き・・・?」
「はい。前向きに少し考えて、それでもすみませんを使いたかったら使って下さい、と言った方が分かりやすいですね」
「・・・あの・・・?」
「さ、こちらです。どうぞ」
いつの間にか扉を前に来ていて、ハザードはにこやかに微笑み開けた。
「わっ!!!」
「わっ!?」
「ノーセット様!!」
扉の前で待っていたようで、その男の子は何か私に投げた。
ケロ。ケロケロ。
頭で声がした。
ゆっくりと頭からとり、その男の子に渡した。
「何だよ!!驚かないの!?伯爵令嬢なんでしょ!!」
つまんない!!と小さい頬っぺを膨らまた。
「だって、街に買い物に行く時よく見かけたもの。もっと大きい蛙だって触れるわ」
「え!!どこにいるの!?」
「お休みの日に一緒に行きましょうか?あ、でも、私はまだこの街に行ったことがないから、探さないといけないわ。一緒に探しましょうか?」
同じ目線になるように膝を着くと、目をキラキラ輝かせ頷いた。
「僕、ノーセット!あ、と・・・」
元気よく名前を言ったが、はっと何か気づいたようで、振り向き、背後にいるキャウリー様を見た。
くっくく、とキャウリー様は楽しそうに笑っていた。
「・・・キャウリー様。笑い事ではありません。ノーセット様、ご挨拶も出来ていませんが、先程もなんですか!客人に対して無礼、あ、お待ちなさい!!!」
背後にたっていたハザードが怒った。
あっかんべーして、キャウリー様の所に走っていった。
「御義父様がいいよ、と言ったんだもの」
「キャウリー様!!」
我慢できなくて私も大笑いしてしまった。
久しぶりにお腹を抱えて笑った。お母様が亡くなってから、笑う事を忘れていた。
キャウリー様もノーセットも私が笑いだして、一緒に笑ってくれた。
ハザードは仕方なさそうに黙ってしまって、黙々と料理の準備をした。本当なら手伝わなければいけないのはわかっていたが、お腹が痛くてそれどころではなかった。
キャウリー様が座りなさい、と言ったので素直に座った。
とても楽しいく、とても美味しい食事だった。
サヴォワ家も十分豪華な、食事だったが、ここまで手の込んだ料理は少なかった。
煮込み料理が多い上に、野菜の種類が多い。
勿論、私はお母様が亡くなってからはそんな食事をさせて貰えなかったが、覚えている。
何かを煮込んたお肉を口に入れると、ホロホロとすぐに口の中でとろけ、フルティーなソースととてもあっていた。
美味しい!
それも、焼きたてのパンを、どれが宜しいですか?私のオスメスは、これです、とアンナが言ってくれるから、ついつい、言われるまま貰ってしまった。
美味しい!
という繰り返しで、出された料理を残さず、綺麗に食べた。
夕食後、ノーセットの紹介を終え、学園が休みの週末、必ず街に散歩に行く約束をさせられた。
食べ終わった後の食器を片付けしようとしたら、ハザードが屋敷の見取り図をくれて、今日はこれを見て勉強して下さい、とまるで私の考えを知っていたかのようだった。
すみません、と言いそうになったが、ハザードの顔を見て考えた。
前向きに。
前向き、それは、この見取り図頂いてすみません、ではなく・・・
「・・・見取り図を頂いて、ありがとうございます。とても助かります」
「はい。喜んで頂いたようで私も嬉しいです」
満足そうに微笑んだ。
あ・・・。いつもの返ってくる答えが違うと思った。
ここで、私がすみませんと言うと、ウイッグは、申し訳なさそうに首を振りそんな事は言わないでください、と悲しそうな顔をしていた。
そうか・・・。私の言い方が悲しい気持ちにさせていたのね。
はい。前向きに考えます。
ありがとうございます。