おつまみ8
季節は冬です。やはり白ネギと白菜ですよねえ。
厨房で、一通り食材を確認していく。
ふむふむ、脂ののったブリのブロックが氷温で貯蔵されてますね。
ということは、アレですよね。
「帰りが早くないですか?」
料理長が焦った声で何だがウロウロしている。
ああ、鬼の居ぬ間に、というやつですか。本当なら、まだパーティーに参加している時間だし、ともすれば宿泊していたかもしれない。
「・・・何食べようとしてたんですか?」
何だが色んな食材がテーブルに乗っている。
「・・・シャーリー様が作ったのを作って、食べ放題、的な?」
それは嬉しいけど・・・。
「・・・今日はやめて下さい。イエーガー侯爵様と」
「何か手伝おうか?」
「わっ!!」
料理長、その驚きは失礼ですよ。
「オーリュゥン様。どうされました?」
「・・・いや・・・あの2人と一緒にいるのは居心地悪いだろ」
確かに。ましてや今は御義父様に指導して貰っているという事もあるし、落ち着かないだろうな。
「それに、料理は少しは出来る。騎士団の合宿でやってるからな」
にこやかに微笑みながら近づいてきた。ささっ、と料理長やほかの皆は去っていった。
気を利かしたんだろう。オーリュゥン様がそんな素振りの顔をしているもの。
だが!
今はいりません。
「では、この白ネギと白菜を、1センチの細切りしてください」
「白菜もか?」
「はい」
さて私は、他の白ネギを緑の部分と根っこの部分を切り、残りはそのまま高温のオーブンへ。勿論洗ってからだよ。
鍋に水と昆布を入れ火にかけます。
「・・・シャーリー・・・その・・・」
その声で、そうだった、いましたね、と思い出した。
「私は、シャーリーをもっと知りたいと思っている」
顔を赤らめながら一生懸命に言って下さるが、全く今はときめかないし、あまり頭に入ってこない。
えーと、鍋は?お。いい感じの泡が出てきたな。昆布を取り出す。
「カルヴァンもいるのは知っている」
あとは。そうだなあ。冬のかき揚げでいこうかな。
そうと決まれば、違う鍋に油を入れ温める。
白ネギと、
「いや!私は本気で」
「ちょっとうるさい!黙ってそれ切って!全然進んでないじゃない!手伝うんなら手伝いに集中して、手を動かして!!出来ないんなら帰ってもらえる!?邪魔!!」
「・・・すまん・・・」
「その白菜の葉っぱ頂戴」
「ああ」
しゅんとなりながら、渡してきた。
「ありがとう」
さて切っていきますか。
白ネギ、白菜の葉っぱ、人参は千切り。大根の葉、人参の葉は1センチくらいのぶつ切り。
それを全部天ぷら粉に混ぜる。
油は?お、いい感じ。
スプーンにすくって投入。
じゅわあああ、といい音がする。
「シャーリー切り終わった」
「じゃああの鍋に半分入れて。残りはお皿にのせて」
「わかった」
かき揚げを全部作り、オーブンの白ネギを見る。
おお!!いい感じに真っ黒け。
取り出し、ちゅるりんとその黒焦げを剥く。これが綺麗に剥けるのよね。
中からとろりと甘い香りと白ネギ独特のつゆが光る。
くううううう、絶対美味しい!
それをハサミでちょっきん、と1口より大きめに切る。包丁でもいいんだけど、中からにょっ、と白ネギが出てくるから切りにくいし、見た目も悪くなる。
お皿にのせる。
「オーリュゥン様、人数分のお皿をワゴンにのせて。お皿はそこを開けたら、そうそう、そこそこ。あと、深めのお皿もお願いね」
「分かった」
さて最後は、氷温されているブリを薄く切ってお皿に円を描くように置いていく。
よし!!
「出来上がりです。さ、持っていきましょう」
「分かった」
ワゴンに乗っているものを確認する。
まあ、足りなかったら取りに来ればいいか。
サロンで待っている御義父様とイエーガー侯爵様は程々に飲んでいた。
すぐに暖炉の上に鍋を置いた。
「今日は、ブリのしゃぶしゃぶです。鍋の野菜を一緒に食べてくださいね。あとは冬野菜のかき揚げに、白ネギのそのまま焼きです」
「待ってたぞ」
「これか、シャーリーの料理は」
お2人は、いやいや、3人はとても美味しそうに食べてくれました。
えへへへへへ。
その顔、その皆さんのほころんだ顔は嬉しいですね。
「シャーリー、お前はもう休みなさい。色々あって疲れただろうから」
「え!?」
御義父様の優しい言葉に、勿論オーリュゥン様が驚き声を出した。
「何だ、何か不都合であるのか?今日はこれ以上シャーリーに近づくな。媚薬がきいてないとはいえ、もしや、の事を考えるだろう?」
痛い所をつきますね、御義父様。
さっきの料理の時は忙しくて、甘い雰囲気にならなかったけれど、今2人きりになったら、どうなるのか分からない。
「・・・そうですね。また、次回シャーリーとは話をしましょう」
「そうか?別に構わんのじゃないか?」
「グリニジ、余計なことを言うな」
憮然とした顔で御義父様が言った。
「分かりました、御義父様。では、私はこれで失礼致します。皆様、あまり飲みすぎないようして下さいね」
にっこりと微笑み、ここはあえてオーリュゥン様を見ることなく部屋を出た。
確かに疲れたな・・・。




