シャーサー目線
「行ったわね。お父様ったらいい考えを思いついたわね」
思い出すだけで、笑いが出る。
お父様がシャーリーの髪の毛を引っ張って部屋に入ってきたときの、シャーリーの顔ったらなかったわ。ひきつらせ、オドオドと小さくなり、いつに増してバカに見えた。
ひっ、ですって。
もう、可笑しくて可笑しくて、なんてみっともない声出してくれたの。
見てるだけでイライラするのに、今日は楽しかった。
お父様ったら、面白いこと考えたわね。
「そうだろ?酔っていても冷静に考えたんだ」
「あなた、少し詳しく話して下さらない?」
身を乗り出し、御義母様が嬉々としてことの成り行きの説明を求めた。
「わかった」
シャーリーが連れていかれ、優雅にイライラすることの無い穏やかな昼食を済ませ、ゆったりとお茶を飲んでいる。
お父様が帰っきたかと思ったら、急にシャーリーの髪を掴んで、何も言わず、メイドとして働いてこい、だなんて、もう可笑しくって堪らないわ。
有り得ないわ。
高貴なる伯爵家よ、この家は。
それを、子爵のメイドですって。
そんなの、絵空事ぐらいしか思いつかない奇想天外の、話しだわ。
「先日、サーヴァント公爵様に特別に呼ばれた夜会があっただろ?」
得意げに話すお父様に、私も御義母様も頷いた。
「ええ、お父様。サーヴァント公爵様に呼ばれるなんてほんのひと握り。きっと、お父様の噂を聞いたのよ。それでこれから仲良くなった方がいいと思ってくれたのね」
「ああ、だから参加者は優れたひとばかりだった。王宮の役付の方ばかりで、今まで参加した夜会とは全く違う品格があった」
うっとりと思い出しながら説明するお父様に、胸が踊った。
「凄いですわ、あなた。サーヴァント公爵様と言ったら、今の宰相様!!もしかしたら、王宮の役付きも近いかもしれないわね!!」
「はっはは。だろうな。あのクズ娘もいなくなった今、私の足を引っ張っる心配はない。それも、クズ娘を追いやったのが、ウインザー子爵と言う聞いたことも無い老いぼれに押し付けてやった。皆が気持ちよく飲んでいるのに空気も読めずに、席を立とうとする、愚かな男だ。恐らく、運良く呼ばれたんだろうな。私がわざとトランプで負けてやって、金の代わりに押し付けて来たんだ」
「凄いわ、お父様!何て頭がいいの。これで、邪魔者がいなくなってせいせいするわ。あんなノロマな妹などいらないもの。でも、老人だからと言っても男性よ。何かあったらどうするの?」
「その時は、法外な慰謝料をふっかければいい」
「まあ!!あなた頭いいわ」
確かにその通りだわ。こちら的にはなんの不利益もないわ。
「シャーサー、長女のお前がいれば、婿養子を貰って安泰だ」
「ふふっ。勿論よ。御義母様が跡取りを産んでくれたらそれはそれでいいわ。女の子なら、素敵な妹に育てればいいだけ。ね、御義母様」
「そうね、そうね、その通りだわ!!」
頬を赤らめながらも、嬉しそうに微笑んだ。
「大丈夫、お父様、私は、ルーンと一緒になるわ」
「おお!!ルーンなら、問題ない。ヨークシャー伯爵家の次男で、あそこは今投資に成功し色んな事業を始めている」
ルーンは、幼なじみの1つ歳上の、甘い顔の優しい人だ。でも、ムカつく事に、クズ女を気にしているのは知っている。
いつもオドオドして、わざとルーンの気を引こうとしてるのも知っている。ルーンは優しいからすぐに、心配そうに声をかけていた。
はあ!?
演技がわかんないの!!
いつもそう思って、少し自意識過剰で、被害妄想が激しいのよ、と教えてあげてるのにルーンは本当に優しいから、そんな事ないよ、と言って、クズ女の側にいようとしてた。
でもその邪魔者がいなくなった。
本当にせいせいするわ。
いなくなれば、どれだけ私がルーンに相応しいかきっと分かるわ。
「ノロマな妹がいなくなったんだもの、これからルーンと私との時間が増えるわ」
「なんだ、やはりあの娘は疫病神だったんだな。これから、我が家は安泰だな」
「そうね、お父様」
「本当に、あなた」
3人笑いが部屋に響いた。