ルーンの誕生日3
見慣れた屋敷に、見慣れたメイド達。
「あらシャーリー様。その方は?」
「そうね、吟味中の方と言っておこうかしら。向日葵の部屋で休もうと思ってるの。あと帰りにね、チキンパイ持って帰りたいから用意して貰ってもいい?」
「・・・いいですよ。なんだかシャーリー様、いつもと違いますね」
「そう、かな?酔ってるからかな?じゃあお願いね」
ニッコリ笑って、向日葵の部屋に入った。
誤魔化せたかな?それよりも・・・
ぐったりとソファに座るオーリュゥン様に不安になった。手を繋いだ時の汗と、熱。
飲みすぎ?それとも体調が悪いのだろうか?
「オーリュゥン様?大丈夫ですか?」
「・・・シャーリー・・・。すまないが、私に近づくな」 弱々しい声と、目を閉じた姿に、少し離れて座った。
「あ、あの体調が優れないのですか?」
「・・・いや・・・シャーサーに媚薬を飲まされた・・・」
「・・・!!」
それは・・・つまり・・・。媚薬を飲んだ事も、飲んだ人も知らないが効果は知っている。
性欲を刺激され、その行為を満足するためだけに使用される。
という事は・・・オーリュゥン様は・・・シャーサーと・・・。
「心配するな。何も無い。元々媚薬や毒物はある程度耐性を持つように、仕事柄している。あの程度なら何の問題もない。実際、あの女が触れるだけで気持ち悪かった」
はあ、と深呼吸をしながら置いてある水差しの水をコップに注ぎ飲んだ。
嘘をついていてなさそうで、ほっとした。
「では、飲みすぎですか?」
「・・・違う・・・。シャーリー以外の女には問題ないのだろう・・・」
「・・・私・・・?」
ぞんざいにコップをおき、また目を瞑った。
「・・・ああ・・・。興味がない女はに問題ない・・・。だが、シャーリー・・・。あんたは・・・くるな・・・。私は、こんな薬で・・・抱きたくない」
辛辣な声で、自嘲ぎみに呟くオーリュゥン様に、体が強ばった。
「・・・分かりました・・・」
そう答えるのが精一杯だった。同じソファに座りながらも、端と端にお互いが座り、私はオーリュゥン様に背を向け座り、沈黙となった。
幾度も深い呼吸が聞こえる。
この方は、私の気持ちも体も、気にしてくれている。とても大人で、とても、精神が強い方なのだ、と胸が熱くなった。
でも、シャーサーが媚薬?どこでそんな危険な物を手に入れたのだろう?そんな素振り一緒に暮らしていた時はなかった。
確かに、異性には人気はあったが、そんな2人で何処かに出かけるなんて、ルーン以外はいなかった。
いや・・・ルーンと始めたのだろうか・・・?
「・・・シャーリー・・・。すまないが、水を貰ってきてくてくれるか?」
オーリュゥン様の小さい声が聞こえ、見ると水差しは空っぽだった。
「すぐに、貰ってきます」
急いで空の水差し持ち、新しいのを貰ってきて、テーブルに置き、またさっきのように背を向け座った。
「どうぞ」
「・・・すまないな・・・」
「いいえ・・・あの、媚薬とはそんなに簡単に手に入るものなのですか?」
「いいや。通常のルートでは若者はおいそれと手に入れることは出来ない。己の性欲を満たす為に使用する事が多い為・・・犯罪になりやすいからな・・・」
コポコポとグラスに水を入れる音が聞こえ、飲んでいた。
「ケイトだ」
一息付きながら、吐き捨てるように呟いた。
「ケイト様?あの優しそうな方ですか?」
喫茶店と、それと今日もシャーサーの側にいた。
「ああ。カミュセシ侯爵家の嫡男であり、厄介な奴だ」
「厄介?」
「確かにあの優しい顔で、話し上手で、爵位も申し分ないと来れば、女性は寄ってくる。それを上手く使って、悪しき事を悦びとする最低な男だ」
「悪しき・・・?」
「・・・あまりいい話ではない・・・。上手く騙し、娘を引き入れ飽きたら捨てる。夜会の茶番として男性の召使いの殴り合いをさせたり、と。それを全部もみ消し、表立って噂がたたないようにしている」
「・・・そんな・・・人と・・・シャーサーは・・・」
愕然としながらも、納得する自分がいた。
何故だろう?
2人を見ると、とても似た雰囲気があり、卑しい笑いを浮かべながら楽しむ姿がしっくりきた。
「・・・シャーリー・・・」
「はい」
名を呼ばれ、つい、本当に何も考えてなくて、振り向いてしまった。
目が合った。
渇望に満ちた、熱く潤んだ瞳に、釘付けになった。
「・・・何で顔を見せる・・・」
「え・・・と・・・ごめんなさい・・・」
だって、名前呼ばれたから・・・。
「・・・少し我慢しろ」
甘い声で言い終わる前に、腕を捕まれ抱きしめられた。
少し汗ばんだがっちりした体と、荒い呼吸に、体が緊張で強ばった。
ど、どうしたらいいの???
男性に抱きしめられるのは、人生2度目だ。
それも、1度目は、精神的に不安定で正直あまり覚えていないのに、今回は、はっきり、しっかり意識がある。
その上、こんな素敵な方に、自分に好意をもっている言われ、気持ちがぐらつかないわけが無い。
荒い息と速く脈打つ心臓の音が、私を支配していくようだった。
背中さする熱い手が、とても敏感に感じた。
もう・・・どうしたらいいの・・・。
少しして、やっとオーリュゥン様が離れてくれた。
「・・・もう大丈夫だ。すまなかった・・・。まだまだだな私は・・・。さあ、お爺様達の所へ戻ろうか。あまり遅くなると心配されるし、シャーサーの事も報告しないとな」
何も無かったように、普通に言っているつもりなのだろうが、私から目を背け、あからさまに無理しているのが分かった。
「・・・はい」
ても、私はどうすることも出来ない。だって、さすがにこの体を差し出す訳にはいかないもの。
「心配するな。あとは帰って、浴びるほどの酒を飲んで酔い潰れればいい事だ」
部屋を出て、頭を優しく撫でられた。
「・・・シャーリー・・・。今度一緒に出掛けないか?」
「・・・はい」
「私は2人で出かけたい。それでもいいか?」
「・・・はい」
「そうか。それは楽しみだ」
くすぐったいくらいに嬉しそうに言われ、頬が熱くなった。




