爵位返上
「さて、嫌な話が終わったあとは、いい話をしよう」
御義父様がお茶を飲み、なんとも意地悪な微笑みを浮かべた。
「いい話ですか?」
私もお茶を飲んだ。
「ああ。前に王宮より祝いを開いてもらうと言っていだろう?」
「はい」
「それが決まった。3ヶ月後だ」
「喜ばしい事ですが、一体何ですか?」
結局まだ教えて貰っていないが、ハザードもとても嬉しそうにしているからいい事なんだろうな。
「それはな」
ニヤリと得げに微笑を、言葉を切った。
「爵位返上だ」
「返上?」
ドキリとするいやな響きの筈が、御義父様からは微塵も感じず、首を傾げた。それを汲み取ったのか、ますます得意げに笑った。
「いいかシャーリー、返上とは2つの意味を持つ。今持っている爵位を返上し、没落の意味。そしてもう1つは預けている爵位を返上してもらう、と言う意味が」
「・・・御義父様?」
「我が娘となり奇妙に思ったはずだ。私の友人達は皆、上級貴族でありそれに見合う爵位と立場。さて、それに比べ私は子爵。だが、先日より役付を頂いた。常軌なら有り得ない事だろう?」
その通りだ。ずっと不思議だった。あの方々の中にいる御義父様は、相応しく、当然のようだった。でも、あまりに立ち位置が違う。
爵位返上。
それって・・・。
とても威厳のある、それでいて、優雅な御義父様から目が離せない。
「王より爵位返上だ。公爵という爵位をな」
「・・・!!」
おと・・・う・・・さま・・・!
「戦が終わり、我々には王より爵位という恩恵を頂いた。だが、私はこのウインザー子爵家という由緒ある爵位を変えたくなかった。だから、預かってもらっていた。だが、いずれは返上してもらわねば、王家としても立場もない。それなら今であろう、シャーリー?」
「・・・そうですね、御義父様。では、その場にサヴォワ家とヨークシャー家を呼んでいただけますか」
「よかろう。では、鮮やかに見せつけてやろう。爵位返上のその瞬間をな」
おお!!!!!
パチパチパチ!!!!
あまりの威厳ある、そして格好いい御義父様に、私とハザードの思いっきりの拍手喝采に、とても照れたように笑ったのが、また素敵だった。