キャウリー目線
「今日は済まなかったな」
「いえ、俺が悪かったんです。・・・しかし・・・やられましたね・・・!」
俺、か。
前に座るカルヴァンが呻くように呟いた。
カルヴァンの初めて見る焦燥と、苛立の顔に、ため息しか出なかった。
やられた、その通りだな。恐らく、いや、張っていたのだ。シャーリーが来るのを。
そして、わざわざシャーリーと同じ姿で現れ己の存在価値を、どれだけの差がお互いにあるのか、見せつけたのだ。
同じでありながら、同じでは無いのを。
「それ程似ていたのか?」
「ええ、瓜二つです。双子ですから当たり前ですが・・・シャーリーと同じように黒髪に染め、扇子顔を隠し、雰囲気も似ていた。・・・いや、すぐに違うと分かりましたよ。気品が違う。シャーリーのしとやかでなく、強烈な自我を放つものがあった。あれは、弱肉強食を思わせる目だ・・・。いや、俺が悪かったんです。シャーリーと・・・呼んだ時点で・・・」
然り、だ。
それが己が好意を持つ相手なら尚更違えてはならない。それも、シャーリーがいる前でだ。だが、思いのほか落ち込んいるようで、見せたことのない素を出しているので、私が責めるのは辞めておこう。
項垂れるように言葉を濁し、俯いたが、すぐに振り払うように立ち上がった。
「屋敷に戻ります。仕事の書類を持ってきます」
「気をつけて帰りなさい」
「はい。では失礼します」
カルヴァンは軽く会釈し部屋を出ていった。
宮殿から帰っくるなり、ハザードか慌ててやって来たとおもったら、この始末だ。
急いでシャーリーを見に行くと、カルヴァンの側に寄り添い、初めてここに来たあの怯えた瞳と表情で私を見つめ、キャウリー様、と言ったのだ。
無意識に突いた言葉だと分かっているが、酷く己が狼狽えた。
シャーリーの心は癒えてなかった、と痛感された。
判っていた。人の心とはそう容易く癒されることもなく、忘れる事もない、というのを。
それが、深く傷を負えば負うほど、奥底まで残り癒えることはない。
だがその時、側にいる、それも、異性の場合、想いがその者に傾いていく。
それが、カルヴァンだった。
では、必然なのだろう。
今日、2人から誘いがあり、オーリュゥンは先日の雨て土砂崩れがあり、急遽呼ばれた。そしてカルヴァンが残った。
それならそれでいい。
だが、オーリュゥンは指導していて、良き人物だ。勿論、カルヴァンも良き人物に変わりはない。
さて、シャーリーはこのままカルヴァンを選ぶのだろうか?
いやはや、娘を持つとこれ程までに気になるものか。我ながら、狭い気持ちだな。
しかし、やはり動いてきたか。大人しくすればいいものを。それも、ケイトを連れてくるとは、スクルトの思惑通りだな。