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夕食つくり

しまった、寝過すごしてしまった!


何年かぶりにまともな、それも美味しい料理に、幾らでもどうぞ、デザートもありますよ、シャーリー様、とまるで貴族のような扱いされたから遠慮なく食べてしまった。

お腹いっぱいになると、眠たくなり、つい甘えて寝てしまったら、もう16時30分になっていた!

急いで身支度を整え、部屋を出た。

夕食の準備はもう始まっているはずだ。あれだけお願いします、と頭を下げて無理やり働かせて貰えるようになったのに、


ううううう・・・ごめんなさい・・・。


少し歩いて気づいた。


しまった・・・。調理場を知らない・・・。


と言うよりも、急いで部屋を出てしまって、自分がどこにいるかも分からなくなった。


「シャーリー様、厨房をお探しですか?」

前から歩いてきた、ソバカスがとても似合う若い女性が声を掛けてきた。

「す、すみません!そうなのです」

「こちらですよ」

「すみません、ありがとうございます・・・」

「・・・いえ・・・」

場所を案内してくれる間少し話をした。その女性は、アンナと名乗り、私が答え度に、何故か悲しそうな顔をした。


私、答え方もおかしいかもしれない。そういえば最近家族とルーン達しかまともに話しをしていないから、変な言葉になっているんだ。


「どうされました?」

私の足が重たくなりゆっくりになってしまい、アンナと距離が離れた為、不安そうに急いで私の側に来てくれた。

「あ、いえ。何でもありません。御屋敷が広くて、素敵過ぎて、ついよそ見をしてしまったのです。その、すみません!ついていけない訳じゃないんです。少しゆっくりしただけで、あの、すみません!」

アンナはとても痛々そうな顔を一瞬したが、直ぐに笑い手を出した。

「そんなに謝らないで下さい。私もここに来た時は珍しくて色々見てまい、何度も迷子になりました。手を繋ぎましょうか。そうしたらシャーリー様と一緒に歩けますし、迷子になりませんよ」


手を、繋ぐ?


差し伸べれる手に正直戸惑った。こんなに堂々と優しくされるのは、何年ぶりだろう。

「あ、あの、私を助けて誰かに叱られませんか?」

素直にそう聞くと、アンナはとても驚き、で握ってきた。

「そんな事誰もしません。逆にシャーリー様を助けなかっら、叱られます」

「私を?」

「そうですよ。ご主人様の大事なお客様なのですからね。さあ行きましょう。早くしないと夕食の準備が終わってしまいます」

何か気に触る事を言ってしまったのだろうか、ととても不安だったが、アンナが話しかけてるその顔はとても優しかった。


でも素直にその優しさを受け止めれなかった。


ダメだな・・・。暇を見て屋敷の中を覚えないといけない。皆優しく見えるけど、心の中では、嫌な気分にさせて迷惑だと思ってるはずだ。


サヴォワ家の様に厄介者になっちゃダメだ。只でさえ私はお父様の借金のかたとして、ここに置いてもらうのに、役に立たなかったら、

もしかしたら、

もしかしたら、

家に帰される?


寒気が襲い、体が震えた。ただ、ただ、頑張らないと、しか浮かばなかった。


案内された厨房は、1階の奥だった。サヴォワ家よりもとても広く、調理器具や食器も綺麗で豪華だった。


かまどが大きくて広い!

洗い場も広い!

沢山人もいる!

凄い!

凄い!!


「ここです。すみませーん、ガイナ料理長!!・・・あ、ダメだ忙しくて聞こえてない。あ!チェーンナ、この方今日からここで働くことになった」

「新人か!ちょうど良かった」

そのチェーンナと呼ばれた30代くらいの女性は、私の顔を見ると腕を引っ張り中に入れた。

「これ白衣と帽子ね。急いで着替えて」

「は、はい」

私に渡すとまた違う所へ歩いて行った。

「違うわよ!ちょっと、この方はね」

慌ててアンナが説明しようとしたが、全くチェーンナは聞いていない。

ともかく着替えよう。

「こっち」

「はい」

着替えて中に入ったが、厨房は皆が忙しく動き、私の屋敷でも同じだったが、夕食作りは戦争なのだ。主の食事もそうだが、屋敷で働く皆のまかない、それを一気に作らなければいけない。

でも、ここの方がサヴォワ家よりも忙しそう。雇っている人が多いのだろう。

「だから、違うってば!!」

アンナが大声を出すが、チェーンナは聞いてません、と無視し、私をチラチラ確認しながら、人参の前に連れてきた。

「新人、身だしなみはオッケーだ。ちょっと大きいから、後でいい大きさ見てあげるわ」

「はい」

当然だ。料理をする時には髪の毛をきちんと後ろで括り、かつ、垂れないようにお団子にしてきた。横からはみ出る短い髪の毛も、ピンで止めて来た。そこにさっき貰った帽子を被った。白衣が確かに大きいが袖が長いくらいだから折ればいい。

「この人参の皮向いて、半分は1センチのいちょう切り。残り半分は、乱切りして」

「はい。乱切りは1口大ですか?」

「いいや、それよりも少し大きめにして」

「分かりました」

私が返事をする前に、チェーンナは誰かに呼ばれて言った。

私は手洗いし、言われたように人参を切った。切り終わると、それを待っていたようで、ほかの人が急いで持っていった。


この後は、何しよう・・・。


忙しそうで声をかけずらかったので、流しに置かれていく、洗い物をする事にした。

鍋やフライパン、底をきちんと洗わないと、菌が繁殖する事があるからか、少し多めの洗剤と強めに洗う。

洗い物をしながら周りを見ると、どうもアンナは諦めて帰ったようだ。

料理に忙し中、誰も相手が出来るわけがない。

大きい声が何度も聞こえる。

恐らくあの、割腹のいい人が料理長のガイナ、と呼ばれた人なんだろう。皆に支持しながらも、自分も動き、色々味見しながら声を掛けていた。


はやく皆の仕事を覚えないと、お父様にも迷惑がかかる。きっと、キャウリー様は私の事は直ぐにお父様に話しをし、なんだ、その程度しかできないのか!とか言われて、キャウリー様が怒られたり、罵られたりするかもしれない。


そんな事ダメだ。私がちゃんとしないと、また迷惑かかる人が増える。

「あ、あの!私手が空いています。何をしましょうか!!」

思い切って声を出した。

こんなに大声出したのは久しぶりだった。屋敷では、勝手知ったる何とやらで、何をするべきか分かっていたし、すぐに、お姉様や御義母様が用事を言いつけにきたから、忙しかった。

「そうか、じゃあ、食器を並べてくれ。それでこのチキンをひとつずつ乗せてくれ」

「はい!」

誰だか分からないが私に指示をしてくれた。

ほっとした。

料理を乗せている間に、

「ご主人様達の料理が出来た。お!ハザード調度良かった。ご主人様に声をかけてきてくれ。今日からシャーリー様が仲間入りだろ」


・・・私・・・?


「いいもん作ったつもりだ。喜んでくれたらいいがな」

「あらあら、そこにおられる方がシャーリー様よ、料理長」

くすくすと可笑しそうに笑いながら、ハザードが私のそばに来た。

いつ来たのか全く気づかなかった。

「新人じゃないのか!?」

「そんな人が入るなんて言ってないでしょ」

「・・・す、すみません・・・」

「何で謝るんだ?シャーリー様のお陰でとてもスムーズに出来た。いやあ、お嬢様が何しに来るんだ?とバカにしてたが、恐れ入った。なあ、皆!」

料理長の言葉に皆がおお、とか言ってくれて笑いながら頷いてくれた。

「・・・いや・・・あの・・・すみません・・・」

なんだが身体がムズムズして、恥ずかしくて俯いた。

「シャーリー様。そういう時はすみませんは、おかしいですよ」

「ハザード?」

「そうですね、今の気持ちを皆に教えて上げてください」


今・・・?

すみませんがおかしい?

よく分からなかったが、みんなが私をとてもニコニコしながら見てくれるのに、自然に笑顔が出た。


「明日もよろしくお願いします!」

「ぶっ!!ぶわっはははは!!何だよ!!貴族の娘なんだろ?明日もだなんて変わってるな!!でも、よろしく頼むな、役に立つお嬢様は大歓迎だ!!」

大爆笑の料理長に、皆も笑いだしとても穏やかな空気になった。


役に立つ。役に立つ。役に立つ。


頭の中でその言葉が何回も何十回も反芻し、久しぶりに心底笑顔が出た。



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