シャーサー
「あら、サーヴァント様、偶然ですわね」
・・・な・・・ん・・・で・・・。
優雅に微笑む、
私と同じ顔。
同じ声。
2人で出かけたいと、カルヴァン様に言われ、街の喫茶店にやってきた。今日はノーセットがいないので、何を喋ろうかと不安だったが、露店を見るだけで、話が弾み、とても楽しかった。
喫茶店に入る頃に喉も乾き、何年ぶりかのパフェを堪能し、
幸せ・・・、と至福の時間に浸っていた時、声をかけられた。
「・・・シャ・・・リー・・・?」
驚き震えるカルヴァン様の声が異様に耳に響く。
私はここいるのに、その人に私の名を呼ぶ。
私をゆっくり見る顔もとても驚いた顔だった。
「・・・いや、シャーサー殿」
「うふふ。お久しぶりです。偶然ですね。先日は無礼をして申し訳ありませんわ」
扇子で顔を隠したま、優雅に会釈さると、黒髪がサラリと揺れる。
青い綺麗な瞳でチラリと私を優越感に見下し、また、カルヴァン様を見た。
動悸で胸が苦しくなる。
「お久しぶりです、サーヴァント様。初めまして、ウィンザー子爵令嬢様」
連れの男性が、にこやかに笑いかけてきた。
「・・・」
息が苦しくて、言葉が出なかった。
「あら、お連れ様は顔色が優れませんわ。大丈夫かしら?ああ、申し訳ありません、お声をかけるのは禁止されてましたね」
いつもの、昔から変わらない美しさと、気品と甘い声。誰もが愛する綺麗な、姉。
逃げたい。消えたい。
その言葉だけが、脳裏を埋めつくし、立ち上がろうとした時、ぐっと、手を握られた。
・・・あ・・・。
「申し訳ありません、確かに顔色が悪いので、失礼します」
「残念ですわ、サーヴァント様。ご一緒したかったのに。でも、またの機会にゆっくりお話しましょう。行きましょう、ケイト様」
「そうだね」
2人はゆっくりと奥の席に歩いて行った。
綺麗ね、誰?
そんな声が店から聞こえる。
そうだ、その通りだ。私ではなくいつも華やかで輝いているのはシャーサーだ。
・・・私は・・・。
「・・・シャーリー・・・?大丈夫か?」
カルヴァン様の名を呼ぶ声が、現実を突きつける。
そう・・・だ・・・。私は・・・シャーリー・・・。何も出来ない、いつも、シャーサーの後ろで怯えている・・・、
シャーリー・・・だ・・・!!
「帰ろう」
よろめく私を、カルヴァン様が支え、店を出た。
その後は、良く覚えていなかった。
気づくと、屋敷の客室にいた。
ソファに座り、隣にはカルヴァン様の不安そうな顔があった。
「・・・シャーリー・・・?何か飲むか?」
「あ・・・あ・・・、私、私!」
不安と恐怖が心を埋めつくし、涙が出てきた。
「・・・お帰りください!!私は・・・私は・・・あなたの側にいるべきではない!!」
差し出した手を叩いた。
私と同じ髪の色に変えた、シャーサーだった。
同じ顔、同じ声、同じなのに、私とは違う!!
私は、愚かで、愚図のシャーリーだ!!
「・・・シャーリー」
「だって、私は・・・私は・・・何も出来ない・・・何も持っていない・・・!!」
シャーサーは全てを持っている。
私の欲しいものを全部、持っている。
「・・・シャーリー落ち着くんだ。俺が悪かった。・・・間違って名を呼んだ」
「違う!あなたにはシャーサーの様な人が、似合います!!私は・・・私は・・・偽物なのです!!」
「・・・落ち着くんだ」
立ち上がる私を、そっと抱きしめた。
「・・・お帰り下さい!!離して!!」
その腕から逃れたくて押しやったが、それでも私を引き寄せた。
「・・・俺が悪かったんだ・・・。シャーリー、よく聞くんだ。何度でもい言う。俺が悪いんだ。君は何一つ悪くない」
・・・違う・・・違う・・・。
私がシャーサーの姿をしても、なんの意味もなく、虚ろな器になるだけだ。
でも、シャーサーの私の姿はとても綺麗だった。
私は・・・
私は・・・
いらない!!
否定する言葉に支配されて、首を振り側を離れようとする私を、カルヴァン様は優しく抱きしめ、背中をさすってきた。
いけないと思いながらも、とても胸の中が暖かく、心地よく、どうしていいのか分からなかった。
ただ、辛くて涙が止まらなくて・・・でも、ここにいたかった。