ウイッグ目線2
「もう、凄い素敵で紳士的で、お屋敷もここと比べ物にならないほど大きかったわ」
「本当!?いいなあ」
「それに、シャーサー様とケイト様はとても仲良く、もしかしたら、もしかして!?という程親密になってた」
「マジで!?見たかったなあ」
帰っきたメイドは頬を赤らめ、夢ごこちに語らいだした。
夜遅く帰っくるなり、そんな事を言い出した。タイミング悪く夜の見回りだったりため、この場にいたが、私として聞きたくもない、見たくものない様子でしか無かった。
「話が弾みそうね。私が見回りに出ましょう」
「え!?本当ですか!!」
本当なら見回りのメイドがあからさまに喜んだ。
「ええ、構わないわ。後で聞かせて貰えればいいから、大丈夫よ。では行ってくるわ」
「ありがとうございます!」
軽く微笑みその場を出た。
有り得ません。
その一言だった。永年サヴォワ家に務めているが、貴族の習わしではないが暗黙の了解である、未婚の女性の飲酒の禁止。
勿論、先日のイエーガー様の誕生日パーティーにはシャーサー様の飲酒があったが、恐らくだが、ご家族の前での事だろう。
それが今回は、婚前前の男女の夜会の席での飲酒。確かに、メイドが付き添いしたが、なんの意味があるのだろうか。
実際帰宅後のシャーサー様をご覧になって、ご主人様は眉をひそめた。だが、叱咤はなかった。
何故?疑念を持ったが、カミュセシ侯爵様は役付の格上の貴族のようで、親密になる事を喜んでいるようだった。
確かに、役付であれば、それ相応の立ち位置になり、その方とシャーサー様が婚約でもすれば願ったり叶ったりだりう。
だが、年頃の娘を持つのであれば、立場よりも、親としての心配、を優先すべきであろう。
それが皆無とは、ましてや、メイドにも酒を勧めるとは、有り得ないだろう。
その上、ケイト様、と名でメイド風情が呼ぶなど、有り得ない。あのように軽々しく呼ぶと言うとこは、許されているのだろうが、あまりにも非常識すぎる。
わざわざメイドを呼ぶとこ自体耳を疑った。誰かを前もって呼び、安全である、とひけらかすのに何の意味があるのだろう。
誰かを呼び、何かをする、とは滑稽な事だ。
なんでしょう・・・?
常識に考え、家ぐるみの婚約でない限り、出会って間もない異性同士が仲睦まじい関係になる訳がない。
これがルーン様であれば問題ないが、先日の誕生日パーティーで出会った方が、確かに手紙のやり取り幾度かしたが、初回の夜会の席で仲睦まじくなるのだろうか?
幾度か昼間に会い、その後は、家族ぐるみの会食を繰り返し、やっと夜会となる。
私の思考が古いのだろうか?
そうなのかもしれない。今の若い方は、少し早いのかもしれない。
私はシャーサー様にも幸せになって欲しい気持ちがあるのは偽りではない。
お2人が、私がこの手で育ててきた、可愛らしいお嬢様。
そう思うと、シャーリー様の顔が浮かんだ。
もう一度、お会いしたい。きっと、この屋敷にいた、あの悲しそうで辛そうではなく、楽しく微笑んだ顔をしているだろう。
シャーリー様がこちらに来るのは、私も望んではいませんが、いつか可愛らしい私のお嬢様に会える機会があれば、と思っています。