ウイッグ目線1
「ええ!!まじ!!」
「まじ!!シャーサー様が今度いく夜会に私を連れてってくれるんだって。それも、カミュセシ侯爵様だよ。侯爵!」
「いいなあ、けど、なんでなんであんたなんか連れてくの?」
客間を掃除していると若いメイド2人がそんな会話をしていた。
最近入ったばかりの、お喋り好きの、シャーサー様好みの噂好きな若者だ。
いつも口ばかりで手が動かない。初めは注意していたが、聞く耳を持たないのか、やる気がないのか、まともに仕事をこなさいから、注意する事がバカバカしくなった。
それも、注意すると、シャーサー様に告げ口をし、私に虐められていると訴えに行く。
この上面倒しかない。
「なんかね、カミュセシ侯爵様に今回初めて夜会に招待されたんだけど、初めてだと心細いだろうから気の知れたメイド連れてきたら、だって」
「ここは終わったので、隣の客室に行きましょう」
「え?あ、はーい」
「はーい。それでそれで?」
後ろから着いてくるだけで、仕事をする気は無い。
「どうも若い人ばかりだから、年頃ばかりの女性が集まると親が心配するから、だって。優しい人よね、とシャーサー様が惚気けていたわ。それも素敵な人みたいだから、楽しみ」
「え!!次は私を連れて行って貰えるように頼もう」
「だね。これがシャーサー様だからだよねえ。シャーリー様がいたらこんな事になってないなかったよね」
急に言い方が変わり、私に言っている。ため息しか出ない。
さて、仕事仕事。
シャーリー様がこの屋敷を出てまだ1年も経っていない。
その短い間に、シャーリー様はウィンザー子爵様の養女となられた。あの時のあの最後のシャーリー様のお姿を思い出すだけで、胸が辛く涙はいつになっても出てくる。
亡くなられた奥様の危惧通り、賭け事にうつつを抜かし、結局、シャーリー様がその代償を払う事になった。
ご主人様には怒りを通り越し、この方は、なんと、悲しい人なのだろうと、思った。
結局、その悪行に皆が嫌気をさし、召使い達は次々辞め、今はもう、私と料理長だけとなった。いや、料理長でさえも何度も辞したいと申し出ているが、ご主人様がシャーリー様の料理を気に入っている為、その料理を作れるのが今の料理長しかいない、というだけで引き止められてるだけだ。
たが、もし、私がやめたら、料理長もすぐ辞めるだろう。
1度だけだが、ウィンザー子爵様がこの屋敷に表れ、お姿を見た時に、ああ、この方は立派な方だとすぐにわかった。その後すぐにご主人様から、ウィンザー子爵様の養女になったと聞かされた。あの方の養女になら、きっと、ご心配ないだろう、と安堵した。
ただ、その時のご主人様やシャーサー様、奥様が、シャーリー様の罵倒や誹謗を笑いながら言う姿は、流石に怒りを覚えた。
それから、イエーガー侯爵様のお誕生日に招待され、貧乏神が居なくなったから運気が上がってきたぞ、と仰ってた少しあとに、ヨークシャー伯爵様達が屋敷に来られた。イエーガー侯爵様に招待された事を言うと、まるでこの世の終わりの様な顔になり、よろめきながら帰って行った。
その事をご主人様にお伝えしても、何も無かったように流されたが、私の胸騒ぎは的中した。
あれほどイエーガー侯爵様のお誕生日に意気揚々と出かけれたのが、一転、帰ってくるなり、物を投げつけ、3人共が癇癪を起こし手がつけられなかった。
何故、こうなった。
どうしてあの女が。
どうするんだ、これから。
ヨークシャー伯爵家とも、断絶されたぞ。
私が何とかするわ!!
と喚き散らし、言葉の端々から察するに、シャーリー様が養女となれたウィンザー子爵様が、ことの他立場が上級の方のようだ。その上、関わり合い持たぬよう、書面をしたとあれだけ喜んでいたのが、裏目に出たようで、嵌められた、とまた罵詈雑言を大声で言っていた。
いいえ、恐らくウィンザー子爵様が嵌めて下さったのだ。
シャーリー様の行く末を案じて。
シャーリー様は、本当に手の届かない所に、いいえ、やっとお幸せになるのだと、心から喜んだ。