イエーガー侯爵様の誕生日2
「・・・ルーン」
声の方を向くと、少し青ざめながらも無理して笑おうとする、幼なじみがいた。
「・・・久しぶり・・・だね・・・」
「・・・そうね」
屋敷にシャーサーと来た以来だけど、もっと遠く感じる。自分の気持ちが離れたからそう思うのかもしれない。
「・・・ウインザー子爵様の養女になったんだね」
言いにくそうに口篭る。
「何を今更?あなた達わざわざ屋敷にやってきたでしょう?まさか、何処だか分からず連れてこられた、とでも言うの?」
有り得ないわ。
「・・・シャーリーを連れ戻したい一心で、シャーサーに連れていってもらったから・・・知らなかったんだ・・・」
「また、シャーサー?私を連れ戻したい?よく言うわ。私の話しは何一つ聞いてくれなかったじゃない。勝手に勘違い、いいえ、シャーサーの言葉があなたにとっては真実だったのでしょう?それならそれでいいじゃない。私にもう関わらないで」
「待ってくれ。僕がシャーリーを好きなのは変わりはない。ウインザー子爵様の元に行っていると初めから知っていればこんな事にならなかったんだ」
笑いが出る。
「いつ、私がウインザー子爵の来たのを知ったの?養女になったからでしょ?それまでは調べもせず、人の話ばかり鵜呑みにしたから、あんな酷いことが言えるのよ」
「そ、それは悪かったと・・・思っている。だから謝りたいと本当に思っているんだ」
「それで?謝って済むの?」
「・・・え・・・?」
まさかそんな答えが帰ってくると思っていなかったんだろう。
前の私なら、仕方ないわね、と言って許しだろう。
「御義父様がどのような立場かようやく知って、のこのことやってきたのでしょう?優しいシャーリーなら、きっと謝れば許してくれる、と。そうね、サヴォワ家のシャーリーなら、許したわ。でも、残念ね。もうサヴォワ家とは関わりのない、私はウインザー家のシャーリーよ。私は許さないわ!」
「シャ・・・シャーリー・・・?」
声を震わせ、やっと現実を目の当たりにしたのだろう。
「あなたはね、あなたの勝手な思い込みで、ウインザー家ご当主を御義父様を嘲弄した。・・・もう遅いわ・・・。丁度良かったわ。あなたが聞きもしない勝手な誤解をした、あの演劇で貴賓席にご一緒になった方が、そこにおられるわ」
すい、と手を伸ばす。
その女を見るだけで、昔の私なら不安で不安でたまらなかった。
でも、今は違う。
「シャーリー、待たせたな」
私の手に引かれるように、女、シャーサーを振り払った右手で、私の手を握った。
「いいえ、カルヴァン様」
「シャーリー!?どういう事よ!!」
さすがにこの場で大声を出すのは阻まれると思ったのだろう。抑えながらも、歯がゆい顔で睨みつけてきた。
初めて見る顔だ。
それも、私に嫉妬している。
「シャーリー、この男は?」
「ヨークシャー伯爵家のご子息です」
「ああ、こいつか。ウインザー様とシャーリーを愚弄したヨークシャー伯爵の子息、ルーンと言う奴は」
低く威嚇の声でルーンを睨んだ。
ルーンは声を発する事も出来ず、1歩後ろに下がった。
「シャーリー、ちょっと、いつの間にサーヴァント様とそんなに親密になってるのよ。私にも紹介してくれない?ねぇ?」
甘える声が、とても耳障りに聞こえる。
「大丈夫だ」
すっとカルヴァン様が私とシャーサーの間にたった。
「誰に声をかけている。ご当主同士の書面の内容を君も目の当たりにしている。関わりあいを持つことは、許されないはずだ
シャーサーが息を飲むのが聞こえる。
「・・・何故・・・ご存知・・・なのですか・・・!?」
「何故?我々の間柄は誰でも知っている事だ」
「間柄?何を仰ってるのですか?お父様同士が確かに約束はしましたが、私達双子である事には変わりないのです。ねえ、シャーリーそうでしょう?そんなに冷たい子じゃないわよね」
扇子を持つ手に力が入る?
「・・・カルヴァン様・・・参りましょう・・・」
声を聞きたくない。
「そうだな、もうすぐイエーガー様の挨拶が始まる。私の父と母がシャーリーに会いたがっている」
カルヴァン様は振り向き、優しく微笑んだ。
「待ってよね、ねえ、シャーリー。私も一緒に行くわ、いいでしょう?これからも仲良くしましょうよ。だって、たった2人きりの姉妹よ」
背後から聞こえる、いつもながら自分勝手な事を。
これからも?
いつからそんな仲だったの?
ざわりと、寒気が走る。
「・・・カルヴァン様・・・参りましょう」
もう無理。
「カルヴァン様、私とシャーリーは似てますわ。私ならカルヴァン様に相応しい振る舞いができますわ」
カルヴァン様の瞳が怒りに煌めき、シャーサーに向いた。
「誰にものを言っている。誰が私の名を呼ぶ事を許した。お前ような輩が、軽々しく我々に話しかける事など許されないのだ!」
「な、何をそれほど怒っておられるのですか?名前なら謝りますわ。もう少し、私の事を知って」
「くどい!誰か!こいつを連れて行け!!」
カルヴァン様の一声に、ざわめきが走り警備の者が、集まりだした。
「申し訳ありません!!それ以上は、お許しを!!この様な場に慣れていなくて、立場をわきまえておりませんでした!!シャーサー、謝るんだ!!」
「謝る!?なぜ私が謝らなきゃ行けないのよ!!ルーン離しなさいよ!!」
「シャーサー・・・。頼むから、静かにするんだ」
ルーンの庇う声がし、警備の足が止まった。
「・・・カルヴァン様、もうお辞め下さい。・・・関わりたくありません・・・」
早くこの場を知りたかった。
分かっている、カルヴァン様が自分の為に怒ってくれているのは。
でも、この2人の側にいるというだけで、体が震える。
「わかった。2人をここから離れた場所に連れて行ってくれ」
「はい」
「行こうか、シャーリー」
「はい」
私の手を強く握ってくれるカルヴァン様に、心が落ち着いた。
さすがに2人の声はもう聞こえなかった。
「最悪の2人だな」
吐き捨てるカルヴァン様に小さく頷いた。
「もう関係のない人達よ・・・」
少ししてイエーガー様の挨拶が始まった。
終わると曲が流れ出した。
ダンスかぁ。
「練習した?」
「一応?」
私の知っている曲は同じなのだが、ダンスのテンポがすこしゆっくりなのだ。指導してくれる先生が言うには、上級貴族のダンス、との事。
昨日も少ししたが、まあまあですかね、と苦笑いされた。
「まあまあらしいな」
「なんで知ってるんですか?」
「なんでって、シャーリーを指導している人は、俺の家からの紹介だからな」
「え!?」
「大丈夫、俺がリードするから」
「・・・お願いします」
とりあえず、1回しか足は踏まなかってので、合格点でしょう。