ルーン目線2
早めに到着し、おじさんを捕まえ詳細を聞くつもりだったが、おじさんは、もう先に来ていて、とても嬉しそうに喋っていた。
様子を見る限りでは、シャーリーの事は聞いていないようだ。
いや、情報を貰える人が周りにいないのかもしれない。
父さんがすぐに呼びに行き、邪魔にならないように端に集まった。
だが、シャーサーは他の男性に声をかけられどこかに行ったとの事だった。
男性に人気があるのはいつもの事だが、僕という婚約者がいるのだから、もう少し自重すべきだ。けれどもういい。ぼくはシャーリーと婚約者するんだ。
「やっと来たのか。我々は大分前から来て、だいぶ挨拶出来たぞ」
満足そうな顔で得意げに笑うおじさんに、父さんの顔色がますます悪くなった。
「そうなんですの。早く来たおかげで来られる方来られる方にご挨拶が出来て、素晴らし事です」
「まだ、イエーガー侯爵様にご挨拶が出来ていないんだ。奥におられるのだが、あそこは特別らしく警護が厳しくてな」
「でも、奥におられる方々は役職ばかりが、あら?奥様お顔が優れませんね、どうされました?」
心配そうにおばさんが手を出したが、思い切り振払った。
「・・・誰のせいだと思ってるの!?どうしてくれるのよ!!」
母さんのあまりに悲痛な切れ切れの言葉に、やっと2人は、様子がおかしいと気づいた。
「なんだ、どうした?」
「どうしただと?お前何故養女に出した事を言わなかった!?」
「は?何故言う必要がある。我が家の事だ。それよりも、凄い金を払ってくれたぞ、あんな出来損ないのために」
「馬鹿か!誰に養女に出しのか調べたのか!!」
「な、なんだよ、そんなに怒って。ああ、調べたよ。対した奴じゃなかった。シャーリーを愛人にしたかっだろ」
「お前が言わせたのか!!その言葉を!!おかげで、私の家も目をつけられた!!」
ドンとおじさんの肩を叩いた。
「な、何が・・・だ・・・?」
「誰に調べさせた!!どうせお前が適当に聞いただけだろ!!分かってるのか、ウインザー子爵様だ!!最後の英雄の、ウインザー子爵様だ!!」
水を打ったように静かになった。
生演奏が妙に耳に響き、母さんのまたすすり泣きが
「・・・そんな訳ないだろ・・・?本当にそんな名前か?お前間違ってないか?」
「・・・本当に愚かだな・・・そこまで・・・お前の立場は・・・下がったのか・・・」
父さんは真っ白な顔でよろりとふらついた。
「どういう意味だ、下がったとは!!親友とはいえ、同じ伯爵家だぞ!!」
おじさんの声が、全く響かなかった。
何故だろう?父さんの言葉とその顔に、不安に駆られた。
いや、大丈夫だ。僕がシャーリーと話をしたら、僕の家は大丈夫だ。
言い聞かせるが、何か、大きなものが、覆いかぶさってくる。
その時だった、ざわざわと声が上がった。
声の方を見ると、
シャーリー・・・だ・・・。
真っ赤なドレスを着こなし、年配の男性と、幼い男子と一緒に、まるで、別の世界に生きているような・・・高貴な空気をまとっていた。
「・・・まさか・・・」
おじさんの呻くような声が聞こえ、母さんが倒れそうなのを兄さんが助けた。
気品に満ちた微笑みを、声をかける相手に向けながら、ウインザー子爵様の子としての敬いを感じる対応に、自分が間違っていた、と痛感させられた。
愛人。
なんと下世話な、誤った思い込みだったのだろう。
遠のくシャーリーに、縋る気持ちが募ってきた。
僕は・・・僕は・・・許してもらえるのだろうか・・・。
ゾッと、背筋が凍った。
「なんて約束をしたんだ!!」
父さんの言葉にはっとした。
「お前・・・それは・・・その書面は・・・なんて・・・馬鹿な事を・・・」
はっきりとした拒絶を感じる声で、父さんは、首を振りながら、おじさんからゆっくり離れた。
「行くぞ。サヴォワ家とは断絶する。ルーン、お前の婚約はない。それよりも、お前は、シャーリーに許してもらえ!!何をしてもだ!!」
「・・・はい・・・」
そう答えるだけで必死だった。喉はカラカラで、体は重くなっていく。
とりあえず、奥へ行きシャーリーに声をかけたかったがなかなかそうもいかなかった。
警護もいるが、煌びやかな世界に馴染んいるシャーリーに足が震える。
やっと、声をかけれるこちら側に来た。
「・・・シャーリー!!」
「・・・ルーン」
その呼び方と、顔を見た瞬間絶望に気が狂いそうだった。
後で聞いた話だが、おじさんはウインザー子爵様と書面、お互い関わりあいを持たないよう、もし、何かあれば、それぞれの娘を土下座させる、とサインをしたとの事だった。
何かもが最悪だった。




