イエーガー侯爵様の誕生日1
「噂通り可愛らしい方ですね」
お世話でもそう言われわれ、嫌な気はしない。
「これから、娘も宜しく頼みます。では、失礼致します」
御義父様が優雅に会釈し、私とノーセットに目で、行くよ、と促した。
「失礼致します」私。
「失礼致します」ノーセット。
私とノーセットも会釈し、御義父様について行く。
今日は、グリニジ・イエーガー侯爵様の誕生日パーティーです。
私達も招待して下さった。
こんな豪華なパーティー世の中に存在するんだ、と呆気にとられる余韻もなく、御義父様とノーセットは颯爽と中へと入っていき、優雅に挨拶をしていく。
その後ろをついていくのに必死だった。
たから、今日の身支度に何日もかけた。髪の毛や肌、食事制限、などなど。
もう無理です、
というくらいまでハザードにあれやこれやとされて、ドレスも今日のために、真っ赤を用意され、確かに鏡を見ると綺麗な人がいて、
素敵です!!
とハザードや皆に言われたが、
そんな事よりもハザードが満足いく仕上げになって、ほっとしたくらいだった。
だって、やっと終わった、と思ったもん。
パーティーでは、御義父様から、扇子があるのだから、落ち着いて微笑んでいればそれでいいから、あとは背筋を伸ばせば充分だ、と言われた。
うん。それくらいなら出来る。
すれ違う方すれ違う方、全ての方々が御義父様に声をかけ、私の紹介を催促され、さっきの会話になっていく。
「シャーリー、もし私達が周りにいなくて1人の時、声を掛けられたら、私への誘いは義父である、ウインザー子爵を通して下さい、と言うのだ」
歩きながら御義父様が言う。
「はい、御義父様」
「私の名を出せば手出しは、できない。ここでは後ろ盾が無いものはすぐに潰される。肝に命じておきなさい」
初めて御義父様の言葉が怖いと思った。
よく意味は理解できないが、わたしは御義父様に言われるようにすればいいのね。
「大丈夫、私がついているから」
ノーセットがまかせといて、と言う姿に、ウインザー家の次期当主だと思わせる威厳が、少し見え、嬉しかった。
「ええ、ノーセット期待しているわ」
「うん!」
「ノーセット、はい、であろう」
苦笑いの御義父様に、
「・・・はい、御義父様」
しまった、としゅんとなるのが可愛らしかった。
奥へと向かうが、同じように声をかけられ挨拶し、なかなかイエーガー侯爵様まで辿り着かなかった。
でも、それが何時もの事なんだろう。御義父様はそつなくこなし、長くなりそうな話も、上手く交わし終わらせる。
前の?というのは語弊があるのかもしれないが、前のお父様の時と比べ物にならない程声をかけられていた。
奥へ行くにつれ、声をかけられなくなってきた。空気がというか、雰囲気が変わる。
遠巻きに見る人が増え、まるで選ばれたものだけが入れる空間とでも言うか・・・。
けれど、すぐにわかった。
あの4人の方々と奥様が圧倒的な威圧感に誰も近づけないのだ。
まだ、パーティーは始まらない。つまり、それまでは選ばれた方以外は近寄るな、という暗黙の了解なのか、それとも、これが常なのか分からないが、
明らかに世界が違った。
「遅かったな。来たのは早かったはずだがな」
サーヴァント公爵様がワインを飲みながら、小馬鹿にした物言いで言ってきた。この方は元々このような話し方なんだと夜会の時に思った。
1番裏がありそうだ。
「仕方ないだろ、シャーリーの事を紹介しろと声を掛けられるのだから」
「誰もが気になってるからな」
イエーガー侯爵様が冷たいながらも、目は楽しそうだ。
「そうか?他人事が何が楽しい。とりあえず、誕生日おめでとう。いつまでもしぶとく生きているな、我々は」
「憎まれっ子世に憚る、と言うだろ。その類だ我々な」
ギャウカ公爵様が得たりと笑いながら言う言葉に皆が笑いだした。
一通りの談笑が終わり、イエーガー侯爵様の前に私と、ノーセットとがいく。
「イエーガー様、お誕生日おめでとうございます。息災とご長寿をお祈りお祈り申し上げます」私。
「イエーガー様、お誕生日おめでとうございます。また楽しい旅の話を聞かせてください」ノーセット。
え?それは私も聞きたい。
「2人からそう言われると長生きも良いものだな。さ、ノーセットあちらで皆が待ってるぞ」
「本当に!?あ、あそこだ。御義父様、僕向こうで大人しくしておきます」
いや、既に元気な声で、僕、になってるけどね。
同じ年頃の子供たちが集まり手を振っていた。
「皆の子供や孫たちだ。挨拶しておこう」
「はい、御義父様」
流石に今回は御義父様が、4人の親族関係の名前や立場を前もって教えてくれたので、どうにか、名前を間違えることなく挨拶をしました。
「シャーリー、この辺りにいなさい。もうすぐカルヴァンが来るらしいから、それまでに声を掛けられるようであれば、覚えてるね?」
「はい、御義父様。私への誘いは義父である、ウインザー子爵を通して下さい、と言います」
「宜しい。少しずつ皆と仲良くなればいい」
軽く私の肩を叩き微笑んだ。
はい、頑張ります。