キャウリー目線1
・・・お気をつけて。
シャーリーの不安で、それでいて、私に縋る気持ちが分かり、まるで雛を育てる親のような、いや?親なのだ私は。
そうだ。
そこでやっと気づいた。2人に対する、感情を。
これが、親心、なのだ。
気づくと、より、気持ちが強なり、目の前にいるこやつらが、憎くて仕方なくなる。
「もう1度確認しますが、この金額を貰えるのでしょうね」
必死に冷静を装っていいるつもりだろうが、心底、馬鹿だ。
そのにやけた笑いも、後ろで控える奥方と、シャーリーの姉であろう女も、テーブルに乗る小切手だけを一心に見つめている。
「勿論だ」
シャーリーが手に入るなら安い金額だ。
こんなはした金で喜ぶとは、やはり、スクルトの身辺調査は的を得ているな。
「まあ、すこし無理はしましたが、大切な娘を頂くのですから、これくらいは当然です」
あれが双子の姉か。確かに見栄えば申し分ないが、醸し出す雰囲気は頂けんな。
気品が全くない。
「いやいや、こちらこそあんなので良いのか、と申し訳ないくらいです。しかし、養女とは。聞いた所によると奥方がおられないようですので、もしかしたら、と。あ、いや、勝手な思い込みですがね」
下世話な笑いを浮かべ、あんなのか、と言うのにも腹が立つが、親子揃って手がつけれん愚か者達だ。
「私の事を調べられましたか?」
「いやいや、少しですがね」
カマをかけて見たが、その程度の男は、やはり、その程度か。
「それで、調べられて、承諾して頂けるなら、サインをお願い致します」
こんな所早く帰りたい。胸くそ悪い。
「勿論です」
嬉しそうにサインをしてくれた。
「有難い。では、すぐに提出出来る」
さっさと用紙を貰い立ち上がった。
「1つお願いがあるのですが」
サヴォワ伯爵殿が立ち上がり、さも、己が優越に立っているように後ろで腕組みした。
「なんでしょうか?」
金が足りないとでも言うつもりか?
「これで、あの子は我がサヴォワ家とは縁が切れた。お互い住む世界が違いますので、金輪際我がサヴォワ家に関わり合いを持たぬよう、約束してくださいますか」
笑いが出そうだった。住む世界が違う?それをお前が言うのか。
本当に私を浅くしか調べていないのだな。
「勿論、お約束致しましょう」
「それは良かった!」
「お互いその方が宜しいかと私案しておりました。では、もし、どこかでお会いしても、初対面としましょう」
「ああ、いえいえそれすらも要りませんよ。関わり合いを持たぬように、とは声もかけて欲しくないと、という事ですよ」
次から次へのこちらの都合のいい事ばかりを、紡いで来る。
私の怒りの感情をさらに上げてくるとは、この男、中々楽しませてくれる。
「了承しましょう。では、もし、のっぴきならない事情が出来、援助が必要な時は、そうですね、お互いの娘同士を土下座でもさせましょうか?」
「面白い事を言われる方だ。いいでしょう。まあそんな事は我がサヴォワ家に有り得ませんがね」
「本当に、馬鹿馬鹿しい話だわ、ねえ、お父様」
2人の高笑いに、私も共に笑った。
「では、お互い納得の上ということで、書面に残し、サインを入れましょうか。言った言わないとなっては、困りますからな」
サヴォワ伯爵殿が、いそいそと紙を取り出し、書き出した。
本当に楽しくなってきた。
サインし、では、と屋敷を後にした。
さて、私はこれをさっさとスクルトに提出し、始めるとしようか。




