キャウリー目線1
「どうだった?」
昼食が終わり、ハザード以外を下がらせた。
ハザードも分かっていたようで、自然に皆に仕事を振り、私と2人になるようにしてくれた。
「最悪ですね。メイド服に着替えて貰った時に確認しましたが、あちこちにアザや腫れがあり、明らかにいい環境ではないですね」
食器を片付け、お茶を入れだした。
「少し側に行くだけで、驚き体を小さくする。あれは、虐待、ですね」
「やはりか」
自分の娘を平然と差し出す所からおかしいと思った。つまりは、物、道具としか扱っていない証拠だ。
それに、あまりに必至にここに残りたい、と言った態度。
あれは逸脱した恐怖が見えた。あれではまるで命乞いをしているかのようだった。
戦の時によく見た、嫌な光景を思い出す。
己の保身の為に、妻や子を平気で差し出しす、嫌悪感しかない所業。
その差し出された者達と、類似している。
「少し話をしましたが、双子の姉がいるようで、とても素敵で綺麗だ、とまるで暗示をかけられているかのように言っていました。それと、お母様は亡くなるっておられて、後妻を迎えていますが、どうもその方も一緒にシャーリー様を蔑ろにされていますね。何があったのですか?」
お茶をカップに注ぎながら、怒っているのが分かった。
「一昨日、夜会に出ただろ?」
「はい。サーヴァント公爵のでしょう?」
「ああ。その時にサヴォワ伯爵殿、つまり、シャーリーの父君が初めて招待されていた。今回は、友好を広げるためにあえて、友好がない方を招待していた。それに優越感を感じたんだろうな。気持ちのいい呑みっぷりで、楽しくトランプをしている最中に、賭けをしないか、と言い出した。私は勿論反対したよ。遊びで楽しくやっているのに、金が入ると、そうもいかない。まだ、負けた者がワインを出す、という程度ならいいが、目が本気だった」
「下品ですね」
「全くだ。だが、皆程よく酔いが回っていて、金をかけた方が楽しいな、とか言い出した。私は嫌だったから、では私は失礼しよう、と立ち上がったら、負けるから逃げるのですか?ときた」
「うわ・・・。最低ですね・・・」
「そう思うよ。酔っているから仕方ないと適当にあしらって席を離れようとしたら、えらく絡んできたんだ。大声で、怖いのか、負けるのが嫌なのか、とか。本当は無視をしたかったが、絡み方が迷惑がかかる嫌な絡み方と、主催のサーヴァントに迷惑をかけたくないから渋々参加したら・・・」
「ぼろ勝ち、だったのですね」
「・・・その通り」
ハザードは推察が良すぎて、本当に話しが早くて助かる。
「今回は初見参のお祝いとして、流しましょうか、と言ったのを、なんだ子爵のくせに見栄を張る気か、とかまた嫌な絡み方をしてきて、散々喚いたあと、そんなに金をもらうのが嫌なら娘を奉公に向かわせる、と言ってきた。さすがにその内容に不穏な空気になり、知り合いが連れて帰ったが、まさか本当にするとは思わないだろう」
「アホ、でございますね」
「・・・はっきり言うな。ともかく、あの子が不憫だ」
「ええ、ええ、それはよく分かりました。シャーリー様はとても良い育ちをされてます。古いドレスを無理やり着せられており、化粧もしておりませんが、溢れる気品は隠せません。元々お美しい容貌ですので、磨けば光ります。勝手ながら、こちらに借金返済の為来られたのは内密に、と伝えました」
「それでいい。借金返済に身売りする、と噂が流れればシャーリーの今後が恐ろしい。自分の子供を道具として使うとは、許せん!それも、暴力を振るとは、更に人間として許せん!!」
「私も同じ気持ちです。シャーリー様はすぐに、申し訳ありません!と謝罪します。もう、口癖なのでしょうね。少し触れるだけで、身体が強ばり、とても怯えておられる」
「殴られる、と思っているのか」
カップを持ち、1口飲んだ。
既に体に染み付いている、という事は、日々惨めな生活を送って来たのだろう。
恐らく、母親が生きている事は何の問題もなく生活していたのが、亡くなられて一変したのだろう。
「・・・お可哀想に・・・。匿う、とは語弊があるかもしれませんがシャーリー様が少しでも心の癒しになれる場を与えてあげたいです。・・・まだ、子供ですのに・・・」
「そうだな。幼少期の心の病は、正直治すのに時や専門医師が必要だが、シャーリーの歳ならまだ助けれるかもしれない。わかった。シャーリーが帰りたいと言うまで面倒を見よう。しかし、伯爵令嬢だと言うことは、忘れるな」
「かしこまりました。では、帰りたくない、とシャーリー様が思ってしまったら、仕方ないことですよね、ご主人様?」
ニヤリと笑みが出る。
「それは仕方ない事だ。シャーリーがそう言うのであればな」
「はい。では、同じメイド同士として、楽しく相手をさせて頂きます」
にっこりと、楽しそうに微笑んでくれた。