養女に
扉を叩く音で目が覚めた。
体も心も重くて、当たり前だが瞼がとても重かった。
久しぶりにあんなに泣いたな。
「・・・シャーリー様?」
ハザードの小さい声が扉越しに聞こえる。私が起きているかどうか何度か確認してくれたのだろう。
だるい体を起こし、扉に向かい開けた。
ほっとしたハザードが見え、お顔を冷やしましょうか、と優しく言ってくれた。
言われるがまま頷き、冷たいタオルで冷やしてくれたが、とても気持ちよかった。
夕食は部屋にしましょうね、とハザードに言われほっとした。今は誰にも会いたくなかったし、誰かに見せる顔でもなかった。
ただ、ご主人様がどうしても大切な話があるとの事で、9時に部屋に来て欲しいと伝言を承っております。
時計を見るともう、7時を過ぎていた。
了解し、夕食を済ませたあと、キャウリー様の部屋に行く前に、ハザードが身支度を整えてくれた。
あの二人が来て何の話をしたかは恐らくハザードが、伝えているはずだ。
家に帰った方がいい、と言われるだろうな。だって、このまま誤解したままでは、キャウリー様に迷惑がかかる。
本当は帰りたくない。あんな家
でも、もう、全てがどうでも良かった。
・・・疲れた・・・。
食事をし、時間になり私はキャウリー様の部屋へと向かうと、キャウリー様の部屋の前でハザードが待っていた。扉をハザードが叩いてくれると、中から超えが聞こえた。
「さ、シャーリー様。ご心配はいりませんよ」
ハザードが背中を優しく叩き、部屋の中へと入れた。
「お呼びですか、キャウリー様」
「座りなさい」
「・・・はい」
ソファに座るキャウリー様の前に座った。
テーブルには何かの書類が山住になっていた。
珍しい。
いつもテーブルは、綺麗に片付ける几帳面な方なのに。
「今日の出来事の後に言うのもなんだが」
穏やかな顔でその書類から1枚の紙を出し、私の前に置いた。
「シャーリー、私の娘にならないか?勝手にだが、すべての書類はもう用意した。ど、どうした!?」
泣き出した私にキャウリー様は慌て出した。
もう涙は出ないと思うくらい泣いたのに、嬉し涙は、また、違う所から出てくるようで、どんどん溢れてきた。
「シャ、シャーリー?」
不安そうな声のキャウリー様に私は何度も何度も頷いた。
「・・・うれ・・・しい・・・です・・・」
切れ切れながらも、そういうのが精一杯だったが、ちゃんと聞こえたようで、
「それなら、良かった」
言いながらハンカチを渡してくれた。
私が泣いている間に、ハザードを呼びに行き、お茶を用意してくた。
泣き止んだ頃には冷めていたが、喉が乾いていてすぐに飲めて飲みやすかった。
「落ち着いたか?」
「・・・はい」
「では、改めて確認する。シャーリー、私の娘になってくれるだね」
「はい。喜んで」
満足そうに微笑むと、私に出した紙を指さした。
「ここに、名前を書いてくれたらいい。あとは、サヴォワ伯爵殿のサインが貰えればいい」
体が強ばる。
「・・・お父様の・・・」
「ああ。養子縁組は、どうしても両家当主の承諾がいる。早い内に、サヴォワ伯爵家には行くつもりだ。この状況で断る事はしないだろうが、もし、もしだ、サヴォワ伯爵殿が断ったらどうする?」
「・・・それは・・・」
答えに困った。
もし断れば、それは、、あの家に帰ってこい、と言う意味だ。
でも、シャーサーとルーンを見て、帰りたくない、と強く思えた。
「シャーリーの気持ちはどうなのだ?」
諭すように質問するキャウリー様に、もう自分の気持ちを隠したくなかった。
「帰りたくない。ここにいたいです」
「よく分かった。では、私に任せなさい。必ずサインを貰ってくる」
「ありがとうございます」
「こちらこそだ。私たちは、こうなる必然だったんだ。さあ、ここにサインしてくれ。あとはこちらで進める」
「はい」
断言する強い言葉に安心し、言われる所にサインをした。
「それと、前々から言っている騎士団の指導がもう少ししたら始まる。私の留守が多くなるが、サヴォワ伯爵家に関わるもの全て、屋敷に通す事は2度ない事を約束しよう」
「ありがとうございます。助かります」
「それと、もう少し先になるが、私事で王宮から祝いをしてくれる事になっている」
「王宮?」
「ああ。本当なら面倒で内輪だけで済まそうと思ったが、丁度騎士団の指導と、シャーリーの養女がある。それなら盛大にするべきだと、スクルトに勧められた。だから、シャーリーもそれなりの準備をしなければいけない。だが、今日はゆっくりと寝なさい。もう心配することは無いから」
「はい。ありがとうございます」
また泣きそうになったのをぐっと我慢し、立ち上がり会釈し部屋を出ようとすると、
「シャーリー、今日はつまみは遠慮しておくよ。明日はよろしく頼むよ」
いつもの、いいえ、これからも聞くだろうその言葉に、本当に心が熱くなった。
「はい、分かりました」
答え、部屋を出た。
王宮かぁ。なんだろう?
まあ、でも今日は疲れた・・・。
でも、
とても、心は落ち着いていた。