キャウリー目線
「それで、教えて貰えるか」
2人をあえて外に出し、答えを求める。
その質問に、嫌な、否、久しぶりに見る陰険の笑いを見せ、スクルトはワインを1口飲んだ。
「博打好きが起こした今回の件、下り坂もいい所だ。投資好きのようで、先を見据えて本人は動いているようだが、いかんせん、投資というのは、程々が意味がある。嵌ってしまっては、もう、後は転がるだけだ。当にその典型的だ」
「スクルト・・・もう少し柔らかい物腰で言って貰えるか?威圧感を出して言うのはやめてくれ。つまり、かなり赤の財政なんだな」
「おや、それがスクルトだろう。あの頃の暗躍役をしていたのだから。だから、宰相という天性の役だろう?」
「グリニジ、お前が言うと、全て罪人に聞こえる」
「罪人だろ」
一言でバッサリ切るところが、ウイニーだ。
奥方達は、既に奥方だけで隅にかたまり、雑談に講じている。よくできた奥方ばかりだ。いや、そうでなければ、こいつらの奥方には、なれないな。
私は、例外としておこう。
「つまり、没落は目に見えているのか?」
「スクルトからの調査を見せてもらう限りこのまま行けばだが、それなりに事業はいい物を持っている。上手く動かせば、化ける」
ベジットが、私なら出来るがな、と薄ら笑いを見せた。
「あとは、娘が美女だと、噂が飛んでいる。シャーリーの双子の姉なのだろ?シャーリーを見る限りあながち噂ではないと確信した。いっそその姉君を餌にして、金持ち貴族から支援してもらう、と言うが楽だろうな」
「・・・スクルト、お前が言うと何故か下品にしか聞こえん」
「はっ。それも、手だ。お前が優し過ぎるんだ。只、男を手玉に取るのはそれなりのあざとさが必然だ。まずそれを持ち合わせてはおらんだろうがな。それと、ヨークシャー伯爵家の次男と姉もシャーリーも仲がいいらしい」
それは、頼んでいないが、恐らくシャーリーの男関係か気になったのだろうな。なにも言わないという事は何も無かったのだろう。そうでなけれ、カルヴァンに進めんだろう。
「ヨークシャー伯爵家?確かその名は私の招待客の1人にいたな」
グリニジがシャーリーお手製のつまみを気に入ったようで、また食べている。
食べ過ぎた。減るだろうが。
「親密な関係か?」
「いや、何かの折に知り合った程度だ。対した家ではなかったと覚えてる」
1度招待客に入れた場合、余程のことが無い限り、外されることは無い。
ふむ。使えるな。
「それで、どうする。結局はシャーリーの気持ち次第なんだろうが、どうせお前の事だ。ひとたび情が移ると離せんのだろう?」
促すように、ベジットが聞く。
「そこは否定はしない。この短い間で、シャーリーが人として優れている事は理解した。それに屋敷の召使い達全員が、シャーリーを、好いている」
何よりも、私がシャーリーの料理を気に入っている。
「そうだな。私としても、甘やかされ育った不甲斐ない孫には、申し分ない。外の世界を知る貴族は少ないからな」
スクルトの嫌味を込めた言葉に、私も同じ気持ちだ。
外の世界を知っていれば、戦は起こらなかった。
・・・やめよう・・・。もう。詮無き事だ。
「・・・とりあえず、シャーリーに気持ちを確認する。たが、どの答えでも、協力は仰ぎたい」
「構わん。たが、楽しくなりそうだな」
スクルトがくくっと喉を鳴らし、なんとも恐ろしい笑みを浮かべた。
「同じく。どの答えでも、報復は必要だ」
ニコニコと柔和な笑みの下の、凍てつく眼差しのウイニーに、誰もが静かに頷いた。