夜会2
「なにかオススメはあるか?」
カルヴァン様のその一言に、キラリーン、と音がした。
「野菜を1番に食べるのがいいんです。特に温野菜。食前酒を飲んでいるので空腹をより感じているかと思いますが、ここで重いものを食べてると胃に負担となります。かと言って生野菜だと体を冷やし、酒を飲む方には、お腹を下すことがあります。温野菜を先に食べ、次にお肉や魚を食べた方がいいんです。今回温野菜は種類を増やしました」
「シャーリー様がご用意した、黒ごまと白ごまのドレッシングがオススメです。温野菜も10種類もの野菜を準備させて頂きましてので、胃に負担が少ないかと思います。どうぞ」
料理の側で控えていた料理長が静かに答えた。
うわっ、いつもと全然違う!
私の心を読んだかのように、得意げに笑う料理長に、
今度おつまみを渡すのはやめよう、
と心に決めた。
料理長が温野菜を器に入れカルヴァン様と私に渡した。
「シャーリーが考えたのか?」
「あの、まあ、ドレッシングは、そうですね。栄養的なと言うよりは、今回は見た目ですね。ほら、黒と白が野菜にかかると面白くないですか?」
「・・・ふっ」
急に笑いだした。
「いや、すまない。面白いと言うよりも、シャーリーがあまりに嬉しそうに喋るのが楽しかってんだ」
「そうですか?」
「ああ、では、そこに座ろう。あの重鎮の方々とご一緒には、まだまだなのでね」
「確かにそうですね」
キャウリー様達は、今回の夜会の為にソファを5つ用意し、円にして談笑をしていた。
「今日はどうして来られたのですか?」
「お爺様が、一緒に来なさい、と声をかけてきたんだ。先日も、あの日のあの時間に行くように、と言ったのもお爺様だった。シャーリーに合わせかったのだろうな」
モグモグとサラダを食べながら、
うん、ドレッシングは美味いな、と言ってくれた。
キャウリー様の言う通りか。運よく、ではなくカルヴァン様と出会ったのは必然だったのね。
その後は好きな物を食べたが、カルヴァン様が全部よそってくれた。
「シャーリー」
「はい」
キャウリー様が、急に私の名を呼んだので、慌てて側にいった。
「すまないが少し込み入った話をするから、カルヴァンとバルコニーに出てくれないか?」
「分かりました」
「では、参りましょう、シャーリー」
「はい」
サロンを出てバルコニーに行くと、綺麗な半月だった。
「寒くないか?」
「大丈夫です」
優しく頷くと、ベンチに座ろうと言われた。
「シャーリーは、演劇には興味あるか?一緒に行かないか?」
ポケットから、少し皺の出来たチケットを私に渡してきた。
これ、シャーサーがお父様にねだって手に入れていたチケットだ。とても人気があって即完売したのをお父様がどうにか手に入れていたのだ。
ちらりと広告を見たけど、とても有名な方ばかりが出ていて、私も見てみたいと思っていた。
何故これを私に聞いたんだろう?
カルヴァン様の立場を知った今、この方なら引く手あまたの筈だ。
恐らくご自分のお爺様やキャウリー様の手前、私を誘ってくれたのだろう。そうでなければ、私なんかに声をかけることはない。
「いえ、興味がないので。他の方を誘ってください」
チケットを返そうと顔を見ると、とても不機嫌な顔をされた。
「では、これは必要ないな」
両手で持つと破ろうとした!
「ま、待って!」
勿体ないよ!
「どうした?興味がないんだろ?だったらこんな物ゴミだろうが」
今度は私の気持ちを見透かす様な言い方をしてきた。
「・・・あ、あの・・・、私ではなく、カルヴァン様に相応しい方と観に行かれた良いかと思って・・・」
また、不機嫌な顔になった。
「相応しい方、か。その言葉の意味はシャーリーが言うよりも俺が1番理解している。あの家の嫡男に産まれ育ってきたんだ。履き違えることなどない!」
何でそんなに怒るんですか?それも、嫡男なんですね。余計に違う世界の人じゃないですか。
「それを理解して誘っているんだ」
意味が分からない。私はここにお父様の借金を返す為に来ているの知っている筈だ。本来ならメイドとして働くはずが、キャウリー様のご好意でこのような形になり、お会いしただけだ。確かに出会ったは必然だったのかもしれないが、これまでの、これから先も、この方に相応しい令嬢になれるとは思えない。
「申し訳ありませんが、意味が分かりません」
「そうか?キャウリー様と呼ぶ時点で、シャーリーは認められているんだ」
「始めからそう呼びなさいと言われただけです」
「本当に何も知らないんだな、その顔だと。ウインザー様の所に来るのがシャーリーにとって必然だったのだろうな」
呆れたように言いながらも、優しい微笑みに、胸がきゆっとなった。
必然。
きっとあの5人の中で飛び交う言葉なんだ。
「・・・さっきそのチケットを見た時にとても嬉しそうだった。行きたいんだろ?・・・仕方がないなぁ」
肩を竦め楽しそうにため息を着いた。
「シャーリー、俺はシャーリーと一緒に行きたい」
もう、そんなやり直しの仕方はずるいです。答えは1つしかないじゃない。
「・・・はい。喜んで」
「じゃあこれはシャーリーが持っていてくれ。この演劇18時柄始まって20時に終わるみたいだから、夕食は終わってからでいいか?」
夕食!!
「・・・なんで、そこでそんな嬉しそうなんだ?俺の誘った演劇よりも、食事が気になるか?」
「えーと、美味しものは、食べたいと思うのは普通かと・・・」
外食をするのもとても久しぶりだし、カルヴァン様が連れて行ってくれるという事は、それなりお店だろう。嬉しいのは当たり前です。
「だが、シャーリーが食べる姿は見るのは好きだ。本当に美味しそうに食べるから」
「美味しんです!美味しくないものは基本食べません。いいですか?何もか冷めてからは美味しくないの。この間みたいに、色々聞く前に口に入れる。毒見なんて馬鹿げ・・・た・・・。いや、なんでもありません!」
そこから大爆笑が始まり、食い気が先か、とまた、笑っていた。
しまった・・・。
ここに来てから自由になりすぎて、前みたいに我慢をする事忘れてしまう。
ずっと笑うカルヴァン様に、だんだんつられて、私も笑ってしまった。
やっと落ち着いた頃に、先日の揚げ菓子は美味かった、と言われた。
屋敷に帰って食後ゆっくり食べていたら、お母様に見つかり、あらあら、と言われ、取られたそうだ。
ほとんど食べられてしまい、物足りなかったと言われた。
それではお作りしましょうか?と言ったら、それもいいが、また、一緒に街に出かけたい、と楽しそうに言われた。
そんなに、他愛のない話がとても楽しかった。