増殖者(エクスクレイム)
リーナは歩きながら話を続ける。
「この地は古くから沢山の種族がいました。
我々人はそのなかでも最も弱き種族でしょう。」
「大空の支配者がいました。
過酷な環境をも支配する者も。
森も沼もそして海も我々人には厳しい環境でした。」
「‥ですが、天の門が開きました。
神祖ルーツ様が我々人の前に降り立ったのです。
ルーツ様は我々人に生息圏を用意してくださりました。
そしてたくさんの神々が降り立ち、我々人と共に歩み始めたのです。」
「沢山の種族‥そのうちのひとつが増殖者ってことかい?」
リーナは立ち止まり答えた。
「はい。神々と人。そして増殖者の戦いは未だに続いています。」
「その増殖者は神々でもどうすることも出来ないほど強いのか?」
「確かに増殖者は強いです。人の力など及びません。
しかし神々の御業はその遥か上をいきます。
増殖者を殲滅するのは時間の問題でしょう‥」
「殲滅‥話し合いなどは出来ない相手なのか?」
「増殖者は理性なき獣と言うべきかと‥
彼らは1つの個体から無限に産まれるそうです。
母となる個体が戦いを‥この地の生物を消し去るまで止まることはないと思われます‥
そのため増殖者増殖者と呼ばれています増殖者により消された種族も居ます‥」
リーナは再び歩きだす。
「我々人と神々は生きるために戦うしか、それしか道がありませんでした‥」
シードはリーナの後をついていく。
増殖者、人を凌駕する獣。
そんなものを前にシードは立ち向かえるのだろうか?
疑問は口にしなかった。
記憶のない男には前に進むしか道がないのだ。
太陽が傾き始めた頃。
夜営をしようと提案した。
二人で薪になりそうな木材を、森の中から食べ物を探した。
リーナは腰に着けた小さな袋から肉を取り出し簡単な調理をしていく。
リーナの袋からは夜営に必要な物が沢山出てきた。
寝床も食べ物も、そして水も。
小さな袋からそれを超える大きさの物が。
「アイテム袋か‥便利だね」
シードは何の気なしにそう呟き、見たことのないアイテム袋を知っていることに驚いた。
記憶はないのに知識はあるのか?
いくら考えても答えなんて出ない。
シードはリーナの手伝いをすることで、気を紛らわす。
またシードはリーナのアイテム袋に目が行く。
よく見ると刺繍だろうか。焚き火の灯りに照されている。見たことのない紋章だった。
シードの記憶にはない。なのに。
「あぁリーナのアイテム袋はリアナお手製なんだね」
シードは驚いた。
自分の口から出た言葉に。
それ以上にリーナは驚いた。
「なぜそれを知っているのですか?」
驚いたままのシードは素直に返した。
「愛し子に自分の紋章を入れた物を持っていて欲しかったのだろう?
それにリアナの得意な空間魔法によって作られたアイテム袋だ。
見れば直ぐに‥」
何を言っているのか理解できなかった。
2人とも固まる。
「すまない。
何故こんなことを言ったのか‥私にも理解できない。」
知るはずのない情報。
もしかして記憶が戻っているのだろうか?
シードも記憶にない誰かと共にいた時があったのだろうか?
「い いえ‥確かにこれはリアナ様から直接頂いた物です‥」
リーナは聞きたいことが沢山あった。
だが記憶の混乱が起きているのだろう、シードに問いただすのは、憚られた。
リーナは周囲に結界をはり、二人は交代で眠ることにした。
幾ばくの疑問を胸に夜は更けていった。