正体
「ここまでか‥」
ラガンは自身の胸の風穴を見下ろし、その場に座る。
鎧で表情は分からないが、その姿はあまりにも悲しそうだ。
「お前はラガンじゃないのか?
あまりにも記憶の中のラガンとかけ離れているんだ‥」
ラガンは顔をあげる。
「その様子じゃ他の奴と戦った時も気付かなかったようだな。
なら他の奴らは役目を全うしたのか‥
俺には出来なかった。
俺はただラガンの守りたかったものを守りたかった。
あの子が生きていくこの世界をより良いものに‥」
独白にも似た呟きにシードは返す言葉を持ち合わせていなかった。
「俺たちは神なんかじゃない。
ここにいるのは神と死ぬことも出来ず、神が死んだ後も共に戦うことを夢見る愚か者だ。」
「シードよ。
俺の‥ラガンと共に戦った記憶を受け継げ。
お前の存在が、確かにこの地にラガンが居たという事実になる。」
ラガンに声をかける前にラガンは光へと霧散する。
そしてその光はシードに溶け込む。
流れ込む記憶。
「これは‥ラガンの記憶じゃない‥!
いや今までもソルもハーランも‥
これは共に戦った‥」
そこでシードの意識は消えた。
また同じ場所だ。
意識が途絶えると同じ場所にいる。
「ここは俺の意識の中。
いや、記憶の中なのか?」
椅子にはハーランとラガンが座っていた。
空いている椅子はソルの物だろうか。
遠く離れた所にある椅子の上には誰かが腰掛けている。
前よりも鮮明に見える。
しかしその姿を確認するにはまだ朧気過ぎる。
「探せ。
楔を、神の戦いの記憶を‥
お前の為すべきことも見つかる。」
遠く離れた椅子に座る影がそう言った。
初めて声が聞こえた。
「楔?
それに神の戦いの記憶って‥」
楔はおそらく塔の頂上の光の粒子のことだろう。
それが一体何なのかも分かってはいないが‥
しかし神の戦いの記憶とは一体?
「お前はすでに4つ手に入れた。」
こちらの考えている事が分かるのだろうか。
4つ手に入れた。
シードが思い浮かべたのはこれまで戦った神達のことだった。
ソルとは二度。
ハーラン、そしてラガン。
これまで通りならラガンの持っていた特大剣も使えるのだろうか?
神器が神の戦いの記憶のことなのだろうか?
シードはひとつ気付いた事がある。
今までシードの中に流れ込んだ記憶は、
ソルやハーラン、ラガンのものでも、ましてやシードの失くした記憶でもない。
あれは神と共に戦い続けた神器の記憶だ。
神器は神の姿を真似、未だに戦い続けているのか。
それはとても悲しいことだ。
悲しみの中視界が白み意識が戻っていくのを感じた。