知らない少女
少女は軽くお辞儀をした。
こんな洞窟にいきなり表れ、迎えに来たと言う。
「すまないが俺は君が誰か知らないんだ。」
ここで自分に記憶がないと言うのは早計かと思われた。
「すみません。私も貴方が誰か知らされていません。」
少女は申し訳なさそうに答えた。
「私は女神リアナ様より貴方を迎えに行くよう頼まれたリーナと申します。」
リーナと言った少女に対して、彼には答える術がなかった。
自分が誰かも分からない、そんな者が出来る挨拶を知らなかった。
「俺は‥すまない、俺は誰か分からない。ここもどこなのか‥」
「私は貴方を知りませんが‥貴方を連れてくるように頼んだ女神リアナ様は貴方の事を知っているのだと思われます。」
リーナは話を続ける。
「これより3日後、アルタの平原と呼ばれる地で戦争が起きます。リアナ様はその地に貴方を連れてきて欲しいと仰っていました。
貴方がこの戦争を終わらせる事が出来るのはではないかと‥」
彼に選択肢は無かった。自分を知る者が待っている。
ならば会いに行く、それしかないのだろうと。
「分かった‥でもまずはこの洞窟を抜けよう。幸い道は一本のようだ。」
「はい。私もここがどこかは分かりませんが、外に出ることが出来れば場所の把握も出来ると思います。」
二人は暗い洞窟を進むことにした。
彼にはまた違和感があった。自分自身の記憶もないのに、リーナとの会話になんの違和感もなかった。
言葉はおろか、アルタの平原がどこにあるか、それが分かる。
知っている。
いつ知った?
記憶が戻った訳ではないが、頭の片隅にある記憶が教えてくれているのか‥
この洞窟を抜けアルタの平原にたどり着けば自ずと答えも見つかるのかもしれない。
彼はリーナの後を追う。
二人は洞窟を進む。おそらく直線的な距離は100メートル程だと思われるが、頼りない明かりで進むので、それなりに時間が掛かった。
戦争は3日後、リーナはそれよりも1日は早く彼をアルタの平原まで連れていくため、少し焦っている気がした。
洞窟の道がなだらかになり、明かりが多くなった頃、開けた空間に出た。
この空間は天井から光が降り注いでいた。地上が近いのかもしれない。
光に照らされたこの空間に足を踏み入れリーナは言った。
「天井から光が‥もしかすると地上が近いのかもしれません!」
地上が近いかも、まだ楽観視するべきではないかもしれないがその言葉に少しだけほっとしていた。
だからその後に聞こえた言葉は、彼の背中を濡らすのに充分だったのかもしれない。
「ふむ。その女性は一体誰かな?」
二人しかいない洞窟。そこで聞こえた男の声。
おそらく彼に投げ掛けられた質問。
光の中心に赤い鎧を身に纏う者が居た。
長剣を地面に突き刺し、鎧の下の瞳を伺うことは出来ないが、真っ直ぐこちらを診ているのだろう。
リーナが驚きこちらに駆け寄ってくる。
そして光の中心。声の主を見てさらに驚いた。
「陽光の神‥ソル様!」
急いでリーナは片膝をつき頭を垂れていた。
それに対しソルと言われた神は。
「ここにはそこの男。シードしか居ないと思っていたが‥君は‥」
「私は女神リアナ様より彼を‥アルタの平原までお連れするよう頼まれ‥」
リーナの息を飲む音が聞こえた。
それに対しソルは高笑いをしていた。
「そうか、リアナか。あいつは本当に心配性だ。
あぁだからリーナか、リアナの愛し子と言うわけだな。
あいつが居なかった理由に今、合点がいった。
そうか、そうか」
ソルは嬉しそうだった。
神と呼ばれたそれは人と何も変わらないと思った。
彼にとって人は先ほど出会ったリーナしか知らないが‥
それよりソルは彼の事を、未だに自分が誰か分からない男の名前をシードと呼んだ。
「俺の名前はシード?」
「‥そうだ。
お前の名はシード。」
ソルは笑いながら話を続ける。
「さて、リーナ。
君が心配性の女神に頼まれてここに来たのも理解したよ。
だが私は私のすべき仕事をしなくてはならない。」
そう言ってソルは地面に突き刺した長剣を抜き、こちらに向けた。
「ここを出たいのならば‥私を殺していけ。」
ソルは笑顔で炎逆巻く長剣を構えた。




