命令
「ラキ様。400年前一体何が起きたのですか?」
リーナはラキに聞いた。
ラキは、鎧で顔は分からないが顔を伏せて話始めた。
「あの日我々はエクスクレイムとの避けられぬ戦いを始めた。
それまでの戦いも勝ち戦。
負けるはずのない戦だった。
しかしある日を境に戦に向かった神も人も、誰1人として帰ってこなくなった。
我々は追い込まれた。
だから掃討戦を仕掛けることにした。
あの日は神祖ルーツ様、陽光の神ソル、幸運の女神たる私が‥そしてもう1柱が向かった。
我々に残された最強の布陣と言えるだろう。」
「戦は我々の優勢‥いや蹂躙だった。」
「だが流れが変わった。
私は眼を疑ったよ。
そこには居るはずのないものが居たからだ。」
「居るはずのないもの?」
「そうだ。最初に感じたのは地響きだ。
地の奥底からの地響き。
地面を切り裂き大きな鎌が飛び出した。
その後鋼鉄に覆われた頭が‥」
リーナは狼狽えた。
「ま まさか鋼殻虫ですか‥?
でも彼らは‥」
「そうだ。鋼殻虫はもう滅び去った種族だ。
居るはずがない。
私は鋼殻虫の目の前に居る人々を助けるために駆け出した。
私が一番近かったからな‥」
「鋼殻虫に向かって駆け出した時。
目の端で人々が天に舞い上がるのを見た‥
突如現れた突風。いやあれは竜巻と言うべきか。
竜巻の中心に居たのは、風の支配者。」
「風迅鳥‥
ですが風迅鳥もまた滅んだはずです!
どちらも適応者により‥」
「そうだな‥その適応者も滅びはしなかったが数を大きく減らしたな‥
我々は居るはずのないもの達の参戦で後退を余儀無くされた‥
何よりそいつらはエクスクレイムに目もくれなかった‥
他の戦で神も人も帰ってこなかった理由も想定外の参戦それだろうな‥」
「滅んだはずの奴らがどこからともなく現れ形成は完全に逆転した。
そこからは撤退戦だ。
そして我々は予め受けていた命令を実行に移した。」
「命令?ルーツ様がですか?」
リーナは驚きっぱなしだ。
不思議がるシードに対しラキは
「あぁルーツ様が命令をしたのはあの時が始めてだったよ。
命令の全て、いやその作戦を語ることは今は出来ないが私に下されたそれはとてもシンプルだ。
『幸運の女神よ、我ら全軍に幸運を付与しろ』だ。」
「私は幸運の女神としての全てを使って幸運を付与した。
だがそれでも足りないと私は判断した。
ルーツ様が命令してまで付与を頼んだのであれば、私の力以上を出そうと。」
「私は自身に呪いを付与した。
私の力以上の幸運を付与する、それと引き換えの呪いだ。」
「その結果がそのお姿と言うことですか?」
リーナは合点が言ったようだ。
リーナはシードに
「ラキ様は風が叫ぶほどの速度で戦場を駆け抜け、その剣捌きは誰の目にも止まらないと言われるお方です。」
その答えにシードは頷いた。
「呪いによりまさかこんな姿になるとは思わなかったがな。
まぁ400年もあればこの姿で戦う練習も出来たがな。」
そう言ってラキは笑う。
ラキは顔を上げ、自分達を取り囲む壁を見た。
「私が幸運を付与した瞬間、ルーツ様はこの建物を私を取り囲むように出現させた。
そこからは400年間この中だ。」
2人とも言葉をなくした。
「私が幸運を付与したことにより幸運にも人々とそれを指揮した神々も逃げ出す事ができるだろう。
それが予め決めていた命令だよ。」
「さてこっちに来るといい。」
そう言ってラキは塔の上を目指す。
2人もその後に続いた。
螺旋階段の終わり塔の頂上その中心へと向かった。
「これは楔だ。
私をここに安全に閉じ込める為のな‥」
地面には細く輝く光の粒子が突き刺さっていた。
「これを抜けばこの建物は維持できなくなり外に出ることが出来る。
だがこれを抜くのはシードお前だ。」
「それもルーツがした命令か?」
「さぁ?どうだろうな?
だがこの楔は、お前の物ではない‥だがお前の為に遺された物だ‥」
その言葉はどこかで聞いた覚えがある。
だがそれよりも先に指先が楔に触れた。
光の粒子はそのままシードの中に吸い込まれていく。
まるでソルを倒したときのように。
そして光が吸い込まれた後、シードは自身の頭に記憶が甦っていくのを感じた。
断片的であるが記憶が。