死の花弁
洞窟を抜けると山間の向こうに朝日が見える。
気づけば夜が明けていたようだ。
「さてどうやって合流したものか…」
太陽の化身に体を奪われ気付けば戦っていた。
さすがに太陽の化身のように空を自由に舞う事は出来ないようだ。
となると。
「歩いて向かうしかないか…」
ならば一度通ったようにアルタの平原を抜け統率狼の支配領域に抜けるべきだろう。
前にここに来た時は洞窟前の森はかなりの混戦を極めていた。
他種族がどこに潜んでいるか分からない森を進むのは気が引けたが、進むしかない。
シードは確かな歩みで南を目指す。
森へと足を踏み出した。
「…今の所は静かだ。」
森の中は風が吹き抜けとても静かだ。
やけに心地良さを感じる。
そのまま足を進めると、森の一画が焼け落ちている。
「溶炎猿に風迅鳥、鋼殻虫。
そして最後は大食鰐が出てきていたな…」
その一画は前にシード達が目撃した戦いの後だろう。
焼け落ちた森を進む。
気付けば地面がぬかるみ始めた。
森の一部が沼地になっている。
「つまりあの時の戦いは大食鰐が勝者か…」
沼地を避ければ大食鰐には会わないだろう。
しかしその分遠回りすることになる。
シードはその両手に神器を握る。
太陽の双大剣を。
沼地に倒れる巨木や岩の上を歩いて先へと進む。
すると目の前から悪臭が漂う事に気付く。
沼地に何かが浮いている。
「酷い匂いだ…」
何かが腐った匂い、同時に少しだけ甘い香り。
太陽の双大剣をひとつに重ね、もう片方の手で鼻と口を覆った。
近づけばそれが何かの死体だと気付く。
そしてそれが大食鰐の物で食い荒らされた物だと。
「あの後何かに襲われたようだな…」
大食鰐の腹は何か巨大なものに食い千切られたかのようだ。
大きな歯型が所々残されている。
すると森の中で木々の折れていく音が。
そちらに視線を向ければ木々よりも高く口を開く存在がいた。
「なるほど、共食いか。」
それは大食鰐の大きな口だった。
顎を4つに天に広げている。
そして甘い香りが強くなった気がした。
大食鰐は天に顎を開いた状態で木々を薙ぎ倒しながら森から現れた。
初めて大食鰐を見た時まるでそれを花のようだと思った。
実際このような状態になればあの時の感想は正しいものかもと思う。
目の前に現れた大食鰐は頭だけだった。
本来、体があるべき場所に体は無く。
頭の付け根からはいくつもの根が絡み合い地面を滑るように移動している。
「大食鰐に偽装花か。
本当に趣味が悪いな。」
目の前に現れた混合生物とこれを作ったであろう混沌龍に悪態をつく。
地面からは無数の根が。
森からは蔓に操られた疑似餌。腐り落ち初めている溶炎猿に風迅鳥。そして黒光りする鋼殻を持つ鋼殻虫が現れる。
更に地面はぬかるみ、足を取られれば死は免れない。
「全く一人で倒すには大変すぎないか?」
誰にも聞こえない悪態をつき、太陽の双大剣を構える。
その熱量は沼地の水を一瞬にして蒸発させる程だ。
シードは確かな地面に足をつく。
「ギィィィィ!」
混合生物から絞り出されたような咆哮が飛び出し戦いの幕となった。
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