楔の正体
「お前誰だ?」
アーテルの言葉が届くことはない。
ドサッと音が響く。
何かが高いところから落ちた様な音。
アーテルは違和感に気付く。
心なしか体が軽い。
風魔法で空を飛んで翼に負荷をかけないようにしていたが。
それとは別に何故か軽くなったのを感じた。
白金の鎧を身に纏う騎士はそのまま地面に着地する。
それにつられて音のした方を見てみれば。
そこには人の下半身が落ちていた。
そして下を見た事によってアーテル自信の下半身がない事に気付く。
「え」
気付けばアーテルは地面へと吸い込まれるように落ちていく。
先程より大きな音を立てて地面に衝突した。
空舞う集魂者は地へ落ちた。
それを背中で感じ取った白金の鎧は咆哮する。
空高く響くように。
地の果てまで届くように。
それに合わせて統率狼の群れも咆哮を轟かせる。
統率狼の思いを一身に受け何かが降臨したのだ。
リーナは目の前の状況を理解できずにいた。
先程まで氷煉龍グランソアラ。その背中に居たはずなのに。
見上げれば上には大地が、視線を足元に向ければ大空が。
そして目の前にはラキやリアナにも負けず劣らずな美しい女性が腕を組んで難しい顔をしている。
「まさか。こんな事になるとは思っていなかったな。」
そう言って2人は頭から地面へと落ちていく。
「ま、まさか。ソアラ様ですか?」
「そう、そのまさかだ。
氷の神と呼ばれ…」
「私たち落ちてます!」
ソアラは落ち着いているがリーナは慌てふためいている。
「…
安心しろ。まさか再び神の力をこの身に宿すことになるとは…
いや、しかし…」
ソアラは地面に向けて手を伸ばす。
「やはり不完全か、魔法が発動しない。」
「どうするんですか!?」
「楔が必要だ。適応者に神の力を定着させるための楔がな。」
そう言ってソアラはあらぬ方向に手を伸ばす。
「戻ってこい。もう一度私に力を。」
遠くの空で何かが光る。
その光は光量を増していく。
いやどんどん近付いているのだ。
その光をソアラは掴む。
手には細身の剣が。
刀身は少しだけカーブしている片刃の剣だ。
ソアラは片刃の剣を持つ手とは反対の手でリーナを抱きしめる。
そして地面と自分たちの間に薄い氷を生み出した。
それは何枚も何枚も、地面へ向けて。
その薄氷に落ちていく。
どんどん地面が近付くが薄氷を介することで少しずつ落下速度は落ちていく。
地面が目の前に迫るとソアラは背中に氷の翼を生み出した。
翼は空気を掴み速度を落とす。
そして無事に地面へと着地した。
「私はもう飛べない。」
そう言って抱きしめていたリーナを離す。
「ありがとうございます。
しかしどうしてそのような姿に?」
「鐘の音は奇跡が起きた証拠だ。
どこかで奇跡が起き、それに引っ張られ私もこの姿を取り戻すことができた。」
「奇跡…ですか?」
「そうだな、例えば…おとぎ話が現実になった…」
「おとぎ話ですか。」
「噂話はおとぎ話へ、おとぎ話は伝説へ。
そして物語になる。
力ある物語だ。物語に心を寄せる。
しかし形ないものだ。」
リーナはソアラの言葉に耳を傾けるが何の話をしているのかわからない。
何を伝えたいのか。
「この話はラキも交えて女だけで話そうか。」
「…わかり…ました。」
ソアラが何を伝えたいのかは分からなかったが従うことにした。
「おそらくだがシードは死の山にはいないな。
だが…」
その言葉のあと西の方で轟音が響き渡る。
地の底から響くような轟音が。
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