統率狼(コマンダー)の
もうプラチナに群れを守る力は残されていなかった。
放たれる光弾はプラチナから最も遠い統率狼を狙っていた。
だがそれでもプラチナは走り出す。
足がもつれ転ぶ。
それでもプラチナは諦めない。
その姿は群れの心を動かした。
先程まで攻撃を避けることもしなかった統率狼達が空を舞うアーテルに牙を剥いて怒りを露わにしている。
プラチナにはほとんど戦う力は残されていないが。
統率狼達はプラチナの考える通りに動きだす。
今ここに統率狼達の新たな長が生まれた。
統率狼達はプラチナの指示に従い鋼魔法を発動する。
体毛を鋼へと変化させる。その体毛の一部がアーテルへと放たれる。
一体一体から放たれる鋼の体毛は少なく、とても小さい。
だが森のあらゆる場所から小さな針が放たれる。
一本ではダメージにもならない。
だが十、百、千の小さな刃を避けるのは。
「くそ!」
あらゆる場所からアーテルを狙う。
突風を発生させ攻撃を防ぐが、数が多く翼に突き刺さる。
アーテルは自身の周りには氷の壁をさらに張り巡らせる。
しかし翼に突き刺さった針のような体毛は細かく、動かす度に鋭い痛みが走る。
「くっそー!!」
アーテルは叫び翼で飛ぶことを諦める。
風魔法で自信を浮かせこの場から逃げ出すことにした。
しかし飛び交う針のような体毛は衰えることはない。
翼で体を包み守る。
統率狼のように翼を鋼魔法で包めば動きが鈍くなりそれこそ逃げる事が困難になる。
統率狼達の放つ体毛は氷の壁に阻まれるがそれを逃れたものは容赦なくアーテルを襲う。
飛ぶよりは遅いがアーテルは逃げ出していた。
しかし傷付いたプラチナは追うことが出来ない。
群れが襲われる事を考えると追撃することも出来ない。
だがこのまま逃がすことも出来ない。
今ここはある時と同じことが起きていた。
森を襲う敵、群れの為に戦う長。
あの時と違うのは一つだけ。
だがその一つが今揃おうとしていた。
どこからか鐘の音が聞こえた。
それは空から降るようで。
はたまた地平線の彼方から届くようで。
足元から響くような。
それはプラチナの耳にも、リーナ、ソアラ、ラキの耳にも確かに届いていた。
砂漠を前にして思案していたラキは驚き西の地平線を見つめた。
「まさか…はは。
そうか。シード、お前か。」
そう言ってラキは驚きながらも笑っていた。
空を飛ぶソアラはその音に笑みを浮かべた。
そしてリーナはおとぎ話で何度も聞いたその音を不思議に思う。
「この音…この鐘の音がそうなんですか!?」
「あぁそうだ。
最後に聞いたのはいつだったか。」
「私は聞いたことがありません。
そう、この鐘の音はおとぎ話でしか…」
鐘の音がプラチナの耳に届くと、何故かプラチナは体が軽くなるような思いだった。
さっきまで動く事もままならない状態だったはずなのに。
逃げるアーテルを追いかけるため走り出した。
プラチナは先程の怪我が嘘のような速度で走り出す。
森を駆け抜ける四脚。
次第に地面から前脚が離れていく。
後ろ足で巨木を駆け上る。
巨木から大きく跳躍すれば目の前にはアーテルの姿が。
プラチナはその爪でアーテルを切り裂いた。
アーテルが違和感を感じ翼を広げれば目の前には見たことの無い白金の鎧に身を包む騎士の後ろ姿があった。
両手は人の物とは思えない大きな爪で、赤く光っていた。
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