月の封印
三日月の大鎌とシードの陽光の槍は奇しくも似た動きをしていた。
相手の間合いの外から突き、薙ぎ払う。
間合いの内には入らせず。
しかし陽光の槍は炎を纏い当たることはなくとも、纏う炎は確実に相手にダメージを与える。
だがそれは三日月の大鎌も同じだ。
纏うは氷。気付けば避けたはずの腕が、足が、一瞬で凍りつく。
それは陽光の槍の炎ですぐさま溶けるような一瞬ではあるが、命のやり取りをしている現状では大きな隙となる。
そしてシードは理解していなかった。
大鎌と言うものを。
三日月の大鎌が自身を大きく振るう。
それを隙と見て間合いの内側に入り込む。
シードが一撃を叩き込む前にシードの後ろから鋭い大鎌が首を狙った。
間一髪首を切られることはなかったが左腕を深く切られる感覚。
「槍ではない、鎌だ。
鎌は引くのが一番脅威だ。」
ティア、いや三日月の大鎌が淡々と答える。
目の前の女性は記憶だけの存在、だから腕を切られた痛みはあっても実際切られたわけではない。
だが首を切られる痛みは想像を絶するだろう。
厄介なのは三日月の大鎌が振るわれる度に冷気が放たれ、簡単に動きを止められてしまう。
だがティアはそこまで動きが早いわけでもない。
力任せに切りつければおそらく受けきれないだろう。
だが攻めあぐねているのは単純に簡単な話だ。
丁寧なのだ。
シードの動きを先読みしているわけではなく、ただこちらの攻撃のタイミングに合わせて冷気を放つ。
つまりはタイミングをずらされる。
それを淡々と冷静に。
近付けば動きを止められ首を刈られる。
だからと言って距離を取ろうとするとそのタイミングで前に出てくる。
付かず離れず自身の間合いを理解している。
つまりは相手はシードのミスを待っている。
自身の戦いやすい間合いを維持しミスをすれば一撃で決める。
そういう戦い方だ。
だからシードは近距離で放ったのだ。
「オーバーレイ!」
ティアの表情が一瞬崩れる。驚愕の表情に。
だが冷静だ。
突然の神の裁きに反応した。
「オーバーレイ!」
全てを焼き尽す閃光と全てを静止させる閃光が放たれた。
混ざり弾ける閃光。
その閃光から何かが飛び出した。
「獣王無塵。」
三日月の大鎌、ティアは反応する事すら出来ず切り裂かれた。
一瞬の静寂の後。
「人は太陽を恐れた。
恐れの物語。そこから生まれた者。
そしてその恐れを克服するため新たな物語が紡がれた。
太陽と月。
そして月光と陽光。」
シードをき然とした態度で見つめる。
「私は…月光の女神。
陽光の対となる者。
三日月の大鎌、いやティアが倒れそのバランスが崩れた。
陽光は元の太陽の姿を取り戻す。」
そう言って光の粒子となりシードの中に流れ込む。
いつもならここでシードは意識をなくし記憶の世界へと誘われる。
しかし…
「なんだ?あれは?」
シードは言葉を失った。
死の山から流れ出ていた溶岩が、重力に則り山の麓へ流れていた溶岩が。
空へと昇っていく。
空へ昇り集う。
シードの頭上には辺りを焼き尽そうと輝く太陽が生まれていた。
太陽から一滴、真っ赤な光が溢れ落ちる。
それはシードの目の前に落ち形を取り戻していく。
赤く紅く輝く大剣。
それは太陽そのもの。
そして頭上の太陽から誰かが降りてくる。
地面に降り立ったそれは輝く大剣を引き抜いた。
「私は太陽の化身。ソルが捨てていった魂の欠片。」
こうして会うのは三度目だろうか。
赤い鎧に身を包むは陽光の神ソルだった。
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