疾走
プラチナは走っていた。
一度走り抜けた場所をもう一度。
自身の生まれ故郷に向けて。
エルドバから飛び出したそれ、集魂者の事はよく知らない。
旅の道中出会ったイクスフロウが話した内容だけ。
集魂者の支配から逃れるため、人間は神を作った。
圧政だったのだろうか?
統率狼には分からない。
統率狼は群れの長からの命令を忠実に守る。
そこに疑念はない。
長は強くそして正しい。
長の考えは群れ全体にすぐさま伝わる。
だからこそ長をなくした統率狼は脆い。
プラチナの産まれるずっと前に群れの長はラガンと言われる狼だった。
しかしラガンは群れを救うために神になった。
聞こえは良いかもしれないが結局の所生贄だ。
狼の姿を捨てた者。
偽りの神。
それでも群れはラガンと共にあろうとした。
それをラガンは許さなかった。
統率狼ではなくなった自身ではなく他の長が生まれる事を願った。
そして時間を掛けて新たな長が生まれた。
ラガンの息子、マーナガルムが。
しかしマーナガルムが死んだ時、群れも共に死んだ。
新たな長は生まれなかった。
プラチナは走る。
長ではない。長になるにはまだ力が足りない。
群れを率いる力もない。
集魂者の飛行速度は速く、プラチナはやっとの思いで食らいつく。
ただ同胞を守るため、そのためにプラチナは大地を疾走する。
群れの為に走る彼はマーナガルムやラガンと同じくなる日はそう遠くないかもしれない。
ラキもまたカナンを追いかけ走っていた。
カナンに見つからぬようゆっくりと。
見失なわないように木々の間からカナンを捉えたまま。
当初の予想通り東へと向かっているようだ。
東に人が暮らしていたのはラキも知らなかった。
きっとかなり昔の事なのだろう。
人は何故東の大地を捨て今のエルドバまでやってきたのだろうか。
今その東の地はカナンの根城もしくは支配されているのだろう。
そして何より気になったのは超越者と言う言葉。
神の前に生まれた存在。
つまり超越者から神が生まれたと?
東に行けばその答えも見つかるかもしれない。
いやシードが楔の塔に向かった。
そこにはルーツ様の意思が介入している。
ルーツ様は超越者についても知っているのかもしれない。
ルーツ様が何か残している可能性も捨てきれない。
それが超越者についてかは分からないが…
「さて…どうしたものか…」
カナンは東へどんどん飛んでいく。
ラキの目の前には果てしなく続く砂漠。
「進むべきか…合流するべきか…」
砂漠の真上をどんどん東に進んで行く姿を見るに、東の廃墟に向かっているのは間違いないようだ。
これが罠であるならば、ラキが砂漠に足を踏み入れるのを待っているはずだ…
「仕方ない…だがシード達がどこに向かったのか分からんな…」
「確かフロウはウォロにサマラ…それにティアとソル。」
ラキは頭を抱えた。
「あいつソルの事太陽の化身と言ったな…
ならば死の山か…
月光の女神ティア…
太陽を封じた女神か…」
「シードにどうにか出来る相手なのか?」
ラキは目の前の砂漠を見つめる。
心なしか砂漠を照らす太陽が強く感じた。
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