目指すべき場所
「よし!」
ラキが元気よく立ち上がる。
怒りや虚無感に包まれていた空気を吹き飛ばすかのようだ。
「私はまだ時間があると踏んでいる。
新たな混合生物を作るにしろ、手間はもちろん時間も必要だろう。
それに死体もな。」
「死体?どういう意味だ?」
「混合生物を作るのに鮮度が必要だとしたらだ。
リーナを諦めたのにも説明が付く。」
「戦っている間に死体が腐るのは避けたいと?
だがそんなすぐに腐るか?」
「忘れたのか?
奴ら巨大者の他にも細切れにした種族もいたんだろう?
それに私の予想が正しいならカナンは東に帰る前に行くところがあるはずだ。」
「行くところ?」
「あぁカナンの目的は元々統率狼の死体だったはずだ。
ここに来たのは統率狼達がここだけを生息域にしているから…
シード、それにプラチナは幻惑蝶を使った混合生物と戦ったんだったな?
幻惑蝶も決まった生息域を持っている。
その上数も多い。素材にうってつけだ。」
「つまり幻惑蝶の住む山に行けば奴らが来ると?」
「いやそこじゃないな。
カナンが言っただろう。
混合生物Ⅰ型とやらは適応者と人間を混ぜたってな。」
「エルドバ…」
リーナが息をのむ。
「憶測の域は出ない。
だが人間の死体が必要ならば必ずエルドバに向かう。
私とプラチナでエルドバに向かう。
私たちなら気付かれず地上から先回り出来るはずだ。」
「…なら私達は楔の塔に向かおう。
今必要なのは奴らを倒す力だ。」
「可能ならそのまま奴らを追い続けよう。」
リーナとプラチナが走り出す。
ソアラは背をかがめる。
「大丈夫か?」
シードの問いに静かに答えた。
「…あぁ…」
本当なら刺し違えてでもカナンを追いたいのだろう。
だが本気でカナンを殺すために溢れ出る殺気を理性で抑えつけている。
ソアラとフロウは一体どんな関係だったのだろうか。
同じく神になり、その力を失ってからも常に一緒に居たのだろうか。
長い年月を。その関係を一言で説明することは出来ないだろう。
ソアラの背に乗り大空へと飛び立つ。
そのまま北へと飛んでいく。
「この世界にはほとんどの生物が立ちいることのできない場所がいくつかある。
我々適応者はそういった環境に適応することで生き延びてきた。
環境すら武器にしてきた。
これから向かうはフロウが己が物とした超環境。
全てを焼き尽す火の山。」
「エルドバの北西。燃え盛る大地…ですか。」
「我々適応者はあらゆる環境に適応するが、自分の得意とする環境外では脆い。
楔の塔まで運んでやれるかも分からん…」
「ならリーナの事は頼む。
カナンがやってくる事はないだろうが、今回は1人で行く…」
「シード様…頑張ってください。」
「あぁ…」
眼下を景色が流れていく。
見えてくるのは一度歩んだ道。
風迅鳥と戦いでは幻惑蝶の支配領域へと足を踏み入れた。
一か八かの賭けではあったが幻惑蝶の力を利用することで風迅鳥を倒すことができた。
そのまま進むと今度は見えてくるのは増殖者や明滅蝙の住処になっていた坑道の入り口。
短い間ではあるが何度も命の危険を感じながらの旅だった。
今度は大地の裂け目が見える。
あそこでは侵食者と戦い、ラキから神の存在について聞かされた場所だ。
そしてそんな場所すらも飛び越えて見えてきたのは燃え盛る大地。
ソアラはゆっくりと高度を下げ始めた。
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