虚無感
「くそ!」
ラキが地面を蹴る。
辺りは血だまりだ。
統率狼達の血、その長たるマーナガルム。
そして炎獄龍イクスフロウ…
「…」
カナンと対峙している時シードの心を占めていたのは怒りと言う感情だった。
だがフロウを殺され、カナンには逃げられた。
おそらくこれからカナンはフロウの死体を…
そして今シードが感じているのは虚無感だった。
フロウは、それはフロウなりに思惑があったのだろう。
それでもシード達の行く先を示しその旅を手助けしてくれた。
そんなフロウが居なくなった。
シードですらそんな感情を抱かずには居られない。
ならばソアラは…
統率狼達の遠吠えに紛れてもっと大きな声が響いている。
「どうするつもりだ?」
「…分からない…
ソアラを待とう。」
「そう…だな…」
ラキは先程の戦いで倒れた巨木に腰掛ける。
リーナも何も言わずラキの元へと歩き出した。
「プラチナ。これからお前はどうするんだ?」
「決まっている。必ず奴を殺す。
必ずだ。」
「他の統率狼達は?」
「長が消えた、ならば新たな長が必要だ。
全ての統率狼を統率する力を持つものが…
だが…」
統率狼達は先程の戦いを森の中から見守るだけであった。
「同胞達は諦めている。
父を…マーナガルムを超える長は現れないと。
そんな長が殺された。
もう同胞達は…」
「そうか…
でもプラチナ。お前は…」
「……」
森から更にソアラの叫びに似た声が響く。
森の奥から冷たい空気が流れてくる。
「ラキ様。超越者とはなんなのでしょう?
わたしの中にリアナ様の力があるのは理解できます。
それがあのカナンが、求めるものなのでしょうか?」
「わからない…
だがあいつは私の事は不純物だと言った。
ならばリーナも不純物を取り込んだ存在では?
ならばリーナが狙われるのはカナン。奴の勘違いと見るべきだろうな。
つまり超越者は神ではないが神に近い能力を持っている…ということか?」
その会話にシードも加わる。
「カナンはリーナの力が神由来の物だと知らずに勘違いしているのか。
知っていて勘違いしているのか。
それとも確信でもある…のか?」
森の奥から身震いするほどの冷気を放出するソアラが現れる。
落ち着いているかのように見えるがその奥底には周りに影響を与えるほどの怒りで満ちているようだ。
「奴め、東の廃墟を漁る必要もないと言っていたな。」
「確かにそんな事言っていたが…
東の廃墟とは?」
「大昔だな。人間たちが住んでいた場所がある。」
「カナンのあの様子なら相当超越者という存在に執着してそうだ。
なら何故リーナを諦めた?」
「そもそも私達は超越者について何も知らない。
ソアラはもちろん…知っているんだろ?」
「カナンが言った通りだ。神が生まれる直前に生まれた唯一の存在。
奇跡的に生まれたのが超越者と言うべきだろう。
カナンは諦めたのではなくまだその時ではなかったのかもしれない。」
「カナンが何をするか分からないがリーナは大事なんだろうな。
だから確実に手に入れるために引いた…
恐らくだが次は…」
シードは言葉に詰まる。
一層辺りが冷たくなったからだ。
「そうだな次は…統率狼と適応者の死体を使ってくるだろう…
そして戦力を整えてやってくるんだろうな…」
「ならそうなる前に叩き潰す!」
ラキは立ち上がる。
その言葉は強く怒りを感じる。
シードは冷静に考える。
「おそらくだがカナンはその東の廃墟にいるんだろうな…
東の廃墟で超越者を探すならそこにいる方が早いからな…
そしてそこに混合生物達を使って死体を集めさせていると考えたほうがいいか…」
「混合生物達が集まるなら場所がばれていたとしても…
そこに隠れている方が安全なわけか…」
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