ヒロイン、ゲーム世界の食文化に革命をもたらす
コメディパート終了です。
次回からはシリアスパート。
朝練が終わって私とグレゴリーは朝食の席に着いていた。
国王陛下の一声で私は王族と食事の席を同じくする事なったのだ。
私の推しキャラは懐が広い、私はヒロイン。心の中でインチキラップも真っ青の韻を踏んで私は出されたスープに口を付けていた。
給仕たちがせっせと忙しく動き回る。主人に最高の朝食を提供したいと真剣に働くその姿勢は私も見習いたいところだ。
ガキ王子なんてどうでも良い。
推しキャラの幸せを真剣になって考えたい気持ちはその給仕たちと私は通じるところがあると思う。
食事は静かかつ優雅に進捗する訳で。食堂で着席する国王陛下もグレゴリーも給仕たちの想いに応えるかの如く無音で食事を進める。
そんな中で私は一人かチャカチャと音を立ててしまう事に申し訳なさを感じる訳で。
ならばせめて出来得る食事マナーだけは如何に庶民でも気を付けねばならない。そう思って両手を合わせて食事の挨拶をしたら王族二人が首を傾げて私を見て来るのだ。
もしかして私はマナーを間違ってしまっただろうか?
一応は仁侠映画でそれなりにマナーを勉強していた筈だが、ゲームの世界では通用しないのだろうか?
「姐さん、今のは何ですか? その『いただきます』と言う言葉」
「私も初めて聞く言葉だ。ソロア、それはどう言う意味があるのだろうか?」
「これは食材への感謝を言葉にしたものです」
「……食材に感謝、とな?」
「へい、今この時にも世界では貧困に喘ぐ方々が大勢います。そう言った人たちもいるのですからこうやって食事にありつける事に感謝をしてから食事を始めるのです」
「……なるほど。ソロアの言う事はもっともな話だ。グレゴリー」
「はい、僕も姐さんを見習ってみようと思います」
「では僭越ながらこのソロア・デューイが音頭をとらせて頂きます。皆さん、お手を拝借。よーお」
「「「いただきます」」」
王族の親子が私の食事マナーに関心を抱いたらしく、私と一緒に手を合わせて食事の挨拶をした。ゲームの世界は西洋をモチーフにしているから日本のマナーは珍しいのだろうか。
とは言え自分の故郷の考え方が受け入れられた様で素直に嬉しい。
特に食事の席を共にする仲となった以上はこう言った価値観の共有は素晴らしい事だと思う。ゲームの運営が日本の企業だからあまり文化的な溝は存在しないのかもしれない。
私も安心して食事を始められると言うものだ。
ゲームの世界の文化に触れて私の考えが受け入れられて、差し当たっての問題と言えば……。
「サラダにポタージュ、それと野菜のソテー。食材は野菜がメインか……」
「姐さん? どうかしましたか?」
「いや、何でもねえ」
如何に相手が舎弟でも食事を提供してもらって文句を言う訳にはいかない。と言うか先ほど私は食事に対する心構えを口にしたばかりだ。
その私がどのツラ下げて食事の献立の文句を言うのかと言う話だと思う。
だがそこはナイスミドル。
国王陛下は私の僅かな表情の変化に気付いて気を遣ってくれたらしい。こんな居候も同然の私に声を掛けてくれたのだ。
流石は私の推しキャラだぜ!!
「ソロア、遠慮は要らん。何か有れば言いなさい。お前もグレゴリーも育ち盛りなのだから」
「へえ、ではお言葉に甘えまして。食事が野菜に偏っている様に思えまして」
「肉や魚が少ないと言う事か。そこは私もどうにかしたいと考えてはいるのだが……、しかしソロアは着眼点が素晴らしいな。まさかその歳で私と同じ考えに行き着くとは」
「流石は姐さんです!!」
王族は親子揃って私の漏らした不満を讃えてくれる。
だが流石に不満なだけに何処か後ろめたい。
て言うかグレゴリーなんて私をキラキラとした純粋な目でみてくるのだ、これは流石の私でも居心地の悪さを感じる。
ここは一つ私が推しキャラの悩みを聞いておくか、三人寄れば文殊の知恵とも言うし。日本の戦国武将もたまには役に立つと言うものだ。
「具体的に何が問題と陛下はお考えですか?」
「王都圏内でも新鮮な魚肉は貴重でな、ここ王都は産地からのそう言った新鮮食品の運搬にどうしても時間をかけてしまう。逆に生産地では余った食材を廃棄するハメになるなど問題を抱えていてな、やはり物流システムは万全にしたいところだ」
なるほど。
流石は国王陛下だ、既に問題点を吸い上げてその打開策を検討するところまで来ているらしい。
推しキャラの悩みを少しでも柔らげたいと考えてみるも私は最強のヤンキー娘。浅い考えしか思い浮かばず肩を落としてしまった。
精々思い付く事と言えばその味が恋しくて食べたいと思う食材。
食事中にも関わらず私は腕を組んで過去の記憶に馳せていった。そして暴走族の舎弟たちと食事を共にした事を掘り起こす。
今この時、私が食べたいと考えるものは……。
「アタリメ食いてえ、チー鱈も恋しいぜ」
「アタリメ? 姐さん、それは何ですか?」
「テメエグレゴリー、アタリメも知らねえのか?」
「すいません……」
「ソロア、私もそれは初耳だ。良かったら詳しく教えてくれまいか?」
「へい、アタリメは新鮮なイカを干した食材です。酒の肴にも良し、干して保存性が高く備蓄にも最適です」
「……父上」
「うむ、早速アタリメを議会で取り上げてみよう!! ソロアのおかげで物流システムを改善する前にやるべき事が残っていると気付くことが出来た」
私の欲望全開の一言がキッカケでフォンデブルグでは保存食は流行する事となった。
朝食の後、私は推しキャラに言い寄られる形で保存食について語る事となったのだ。その議論は朝から始まって夜通し続く事となり、まさに文字通り議論の肴となった訳だ。
こうして私は更にグレゴリーから尊敬され、国王陛下からは深く感謝された。
後から聞いた話だと私のおかげでフォンデブルグでは食糧不足と同時に生産量で問題となっていた食材の廃棄問題が一気に解決したそうだ。
私は国民からアタリメの神。
『アタリ女神』と呼ばれて尊敬の眼差しを一身に受ける事となった。
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