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ヒロイン、推しキャラに口上を述べる

 ガキ王子に連れられて立派な門の前に立つ。


 これはゲームで見た事がある。


 私の記憶ではこの門の先が国王陛下の謁見の間だった筈だ。



 やべえな。



 いくら私が最強のヤンキー娘でも推しキャラを前にして堂々と会話が出来るだろうか? 王族とかどうでも良いけど推しキャラの前でだけは淑女の礼と言うものを心掛けたいところではある。



「特攻服を準備する時間がねえ」

「ソロアさん、どうされたのですか?」

「いやあ、愛しの国王陛下を前にするならそれなりの身なりってモンがあんだろう? 胸にピシッとサラシ巻いて特攻服を着込んで気合を入れる場面だって話だ」

「……ソロアさんの礼節って特殊ですよね? ソロアさんは王党派なんですか?」

「政治なんて知らねえよ。でもテメエのお父様はご立派だからよ、女だったら誰だってフォーリンラブからの敬愛って感情を抱くのは当たり前だぜ」

「……僕には分かりかねる感情です。父は偉大な人だとは思っています。尊敬だってしています、ですが好きかと言われたら……」



 ガキ王子は何処か寂しさを漂わせて謁見の間に続く門を見上げていた。


 コレだ。


 コレこそがこのグレゴリーがお袋さんの遺言を勘違いしてしまったことから端を発する感情だ。国王陛下はこの国の領土を歴代最大にまで拡大させた戦の王と世間では認識されている。


 だがそれはただ自国の領土を守ってきた結果に過ぎないのだ。


 フォンデブルグから隣国へ戦争を仕掛けた事はない。


 国王陛下はあくまで自国自衛のために泣く泣く戦う事を選んできた。


 グレゴリーは母の遺言、『グレゴリーは全ての人に優しくあって欲しい』を戦争の無い世界を作って欲しいと言う意味に勘違いした訳だ。


 そうなれば一見して真逆の成果を治めた父王に違和感を抱くのは当然なのかもしれない。だからこのガキは選抜試験の時にニコニコと作り笑いを浮かべていた訳だ。



 王国騎士団の人材を補強したところでどうせ使い道は戦争だろうと。



 このガキは生意気にも私の推しキャラの命令を考えもせずに否定しているのだ。王族として国民を守るために苦渋の呑んで決断せざるを得なかった国王陛下。優しさとは戦いことを放棄する心では決してない。



 それを履き違えているから私はこのガキ王子が嫌いなのだ。



 とは言えいつ迄も門の前に立っている訳にもいかずガキ王子が近くにいる衛兵に話しかけると「開門!!」と言う掛け声と共に門が開いていく。



 ギギギーッと盛大な音を鳴らして謁見の間が姿を現した。


 部屋の奥には当然国王陛下が玉座に座っている。


 おお、眩しいぜ。やっぱりナイスミドルは最高だ、推しキャラと会える事に喜びを噛み締めてドバドバと涙がこぼれ落ちて止まらなかった。


 ギラリと目から放たれる眼光が国王陛下に威厳を纏わせる。年齢は三十三歳、好きな食べ物は鶏肉にトマト煮込み、嫌いな食べ物はなし。



 夢にまで見た推しキャラだ。



 「では行きましょう」とガキ王子に声を掛けられて進み出すも私は緊張からブリキのオモチャの如く歩いていた。やっぱりこう言う時は特攻服があって初めて気合が入るってもんだ。


 こんなヒラヒラとしたスカートなんて履いてたら上手く喋れる自信が無い。


 それでもやるしか無いか?


 門を潜ると玉座まで真っ赤な絨毯が寸分違わぬ角度で伸びている。絨毯は推しキャラの品格に負けない立派な仕立てだった。王族御用達だから高級品だろうが今の私にはそんな事を考えている余裕など無い。



 何度でも言おう。



 私は夢にまで見た推しキャラを前にしているのだ。グレゴリーと血筋を同じくしていると一目で分かる眼光鋭い真紅の瞳に腰まで滝の如くこぼれ落ちる亜麻色の髪の毛を持つ人物。


 その人に見られながら私はグレゴリーと一緒に前へ進む。


 そしてグレゴリーが止まると私も同じく歩みを止めて、挨拶の準備に取り掛かった。



「お控えなすってえ!! 手前生国と発しますはとある片田舎にござんす。性はデューイ、名はソロア。人呼んで「最強のヤンキー娘」と発します。お見掛け通り老若男女問わず迷惑掛けがちな十歳児にござんす。以後面体お見知りおきのうえ嚮後万端、よろしくお引き回しのほどおたの申します!! どうかこの私めと国王陛下におかれましてはお言葉をお交わし頂きたく、夜露死苦(よろしく)!!」

「……ソロアさんのそれってテンプレなんですか?」



 極まった。


 最初は推しキャラを前にして上手く口が回るか心配だったが何とか噛まずに口上を述べられた。中腰になって右手を前に、左手を腰の後ろに回す口上のポーズ。


 国王陛下も私の凛とした姿に感動したのか右目をピクピクと痙攣させている。


 玉座に腰を深く落として組んでいた足を逆に組み直してその威厳を保つ。そのナイスミドルな見た目に私はもう落ちるところまで恋に堕ちそうだった。


 そして私は流れる様に跪く。



「ま、まあ堅苦しくするな。ソロア・デューイ……か、亡き妻から話は聞いていたが随分と印象が違うな」

「ソロアさんは剣の心得もある様です。私など足元にも及びませんでした」

「その情報は初耳だ、確か妻の話では……編み物などが得意だったかな?」



 また要らん情報が舞い込んで来た。


 これも確かにゲームでのソロアの設定だ。


 頼むからゲームの運営会社ももっと気楽にヒロインを設定してくれよ。例えば麻雀が強いとか、生まれてから腕相撲が無敗とかさ。


 後は競馬に強いでも私は可だ。


 と言うか牢獄の時と同じだ。誰の私の話に聞く耳を持たず着々と過去の思い出が進んでいく。だからそのイベントは私の記憶にないのだ。


 何度でも言うが私はヒロインと王妃のイベントなんてこれっぽっちも興味が無いない。暴走族で鍛え上げた視力を活かしてスキップするイベントのストーリーに国王陛下の情報が無いかを探る事はやっていた。



 そのイベントで出てきた国王陛下の情報と言えば……。



「王妃殿下が仰っておりました。国王陛下はお優しいお方だと」

「……ソロアさん、父の前ではちゃんとした口調で喋るんですね?」

「ったりめえだ。テメエみてえなクソガキと国王陛下を一緒にするんじゃねえ。私と一端に会話したかったらまずは漢を鍛え直してきやがれってんだ」



 ガキ王子が私と国王陛下の会話に割り込んで来るものだからキッパリと釘を刺す。ここからは私が夢を叶える時間だと、テメエに私の夢を踏み躙る権利は無いと視線で伝える。


 要は威嚇と言うかメンチと言う奴だ。


 グレゴリーは私の直ぐ隣にいる。だから国王陛下の位置からは見えない角度でメンチを切って黙っていろと意志を伝えるとグレゴリーは「はい」と肩を落としながら小さく返事を返してきた。



 そしてようやく国王陛下との本格的な謁見が開始した。



「……優しいか。妻は私には勿体無い女性だった」

「王妃殿下は陛下の苦しみを察しながら支えられない事に歯痒さを感じておられたご様子でした」

「苦しみ……か。私は何時も何かを決断する事の遅さに悔やむのだ。この国に攻め入ろうとする隣国の気配にもっと早く感づけておれば戦争に発展する事も無かった」

「若輩者ながら無礼にも陛下の心中、お察しいたします」

「妻の病気もそうだった。もっと初期の時点で私が気付いておれば助けてやれたかも知れん」

「陛下の素晴らしさはその苦しみを全て飲み込んでも為政者としての責務を全うしようとするところです」

「私が素晴らしい? はっは、面白い事を言う娘だ、私はただ流されて生きて来たに過ぎんよ」

「私はただ国王陛下にフォーリンラブなだけにございます」



 シャーー!!


 然りげ無く告白出来たああああああ!!


 いくら最強のヤンキー娘でも告白だけは緊張してしまう。推しキャラの前で跪いて俯いて、床の真っ赤な絨毯に視線を向けながら私は胸に手を当てていた。


 バクバクと心臓の心拍音が聞こえる。


 生まれて十七年、初めて異性に好きだと言ったのだ、これは仕方が無い事だと思う。真っ赤に染まった自分の顔をスッと上げてキラキラと目を輝かせながら国王陛下を見据えた。


 すると国王陛下は私の顔をマジマジと覗いてくる。そして何か考え込んだ様な様子を見せたかと思えばポンと自らの手を叩いた。


 ん?


 この国王陛下の様子、何処かで見た事があるな。


 そう疑問を感じながら私は自分の推しキャラが今から口にする言葉に間抜けヅラを晒す事となった。そしてその言葉には私だけでなく、隣にいるグレゴリーも驚く様子を見せていた。



「ソロア・デューイ、其方をグレゴリーの側近に召し上げたい」



 何と私は初めて会った推しキャラからヘッドハンティングを受けることになったのだ。

 下の評価やブクマなどして頂ければ執筆の糧になりますので、


お気に召せばよろしくお願いします。

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