ヒロイン、家事スキル全般は壊滅的
王妃は病弱になったのはグレゴリーを産んでからだった。
国王陛下と結婚してグレゴリーを産んでから王妃は時折眩暈を覚える事があった。王妃も国王陛下も出産と多忙な公務のせいで疲労が溜まったのだろうと結論付ける。
その目眩が病気の自覚症状だと知らず、国王陛下は愛する王妃に休息を与えたのだ。
それがソロア・デューイと王妃の出会いに繋がる。
王妃は私がこの世界で目を覚ました森の中の更に奥にある池のほとりで一ヶ月ほど滞在していた事がある。私の村の周辺は治安がいい事で知られており、国王陛下もそこならば休息にピッタリだと考えて王妃専用の質素なコテージを準備した。
流石は私の推しキャラだぜ。
奥さんの事を想っての細やかなプレゼント、私だったらそんなサプライズをナイスミドルにされたらその場で乙女を捧げるぜ。
とまあそんな個人的感想は今はいいとして、当時六歳のソロアは森の中で迷った王妃と出会いを果たす。その出会いをキッカケにソロアは王妃と仲良くなっていく。
自称ソロアの親友ことマリナにも内緒でソロアは王妃の居るコテージに通い詰めた。王妃もまた純粋な女の子に心を許して癒しを得るのだ。
一ヶ月ほど王妃はソロアと遊んで過ごすのだが俺には良く分からねえよ。
一ヶ月もガキと遊ぶなんざ肩が凝るってモンだぜ。
その時のイベントは退屈だったからスキップした記憶がある。だから私は良く覚えていない。それでもめんどくさいから適当に相槌を打ってガキ王子の話に合わせておくとしよう。
「ああ、アレね?」
「や、やはり!! 貴女が母の話していたアップルパイの女の子!!」
「アッポーパーイ?」
「はい!! 母が言っていました、お菓子作りが得意な貴女が母のためにアップルパイを焼いてくれたと!!」
やべえな。
私は家事炊事スキルが壊滅的なんだぞ?
私に出来る事と言えばコンビニで買ってきたアタリメの袋を開けるかビール缶をプシュッと開ける程度だ。たまにめんどくさくて舎弟にビール缶を開けて貰う事もあったくらいだ。
まあアルコールなんて飲んだら親に申しわけが立たねえからノンアルコールビールばかり飲んでたけど。
て言うかタバコを吸うときですら自分で火を付けた事はねえ。
そもそもタバコを吸ったら親に申しわけが立たねえから電子タバコを愛用していたけど。これはどうにかして誤魔化しておかないとマズい。
「ソロアちゃんってお菓子どころかプロ並みの料理スキル持ってるよね?」
やばいな。
ずっと放置気味だったマリナが私に無茶振りをしてくる。例えるならば届くはずもない場所にスルーパスを放り込まれた一匹狼のサッカーのフォワードになった気分だ。
確かにゲーム設定でヒロインのソロアは料理が得意だった。
そしてそんなソロアの作ったお菓子が大好きで毎日ソロアの家に通うマリナ、テメエも自分が食いたいだけなら自分で作る努力を少しはしやがれ。
だが今はそんな愚痴を考えている場合ではない。
ここはマリナも巻き込んで誤魔化しておく必要がある。
「おいテメエ、実はあれ全部デリバリーだったんだよ」
「デリバリーって何? もしかしてソロアちゃん、また新しいお菓子レシピを開発しちゃったの!?」
「あん? テメエ、デリバリーを知らねえのか?」
「……と言う事は外国のお菓子? ソロアちゃん、今後絶対に食べさせてね!!」
「ち、ちげえって。マリナも落ち着きやがれ……」
「やはり貴女でしたか!! 貴女の事は父王も存じております、どうか父に謁見して貰えませんか!? 父には既に話は通してますので!! 看守、今すぐ母の恩人を牢獄から出して下さい!!」
だああああ!!
誰も私の話を聞いてくれない!!
ガキ王子の命令に先ほどまで欠伸をしていた看守も「はっ!!」とか言って牢獄の鍵を開けちゃったよ。どうしよう、これは引くに引けないところまで来てしまった気がする。
だけどコレは逆にチャンスなんじゃねえのか?
ガキ王子の父王に謁見って事は推しキャラに会えるって事だ。その場の全員がガヤガヤと騒ぎ出す中で釈放された私はガキ王子の手に引っ張られて地上へと駆け上がっていった。
「えええええええええ!? 私は!? 牢屋から出られるのってソロアちゃんだけなのおおおおおおおお!?」
完全に存在を忘れられたマリナの叫び声が地下牢獄でこだましていった。
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