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ヒロイン、投獄される

 カビ臭い。


 壁は積み上げられた岩、扉は錆び付いた鉄格子。


 ここは所謂牢獄だ。


 私も何度か警察のご厄介になった経験があるからある意味で懐かしさを感じる。スーハーと呼吸すればお世辞にも衛生的とは言い難い空気が肺に流れ込んでくる。


 牢獄の角には汚いトイレ、そしていつ洗濯したのかさえ分からない汚れたベッドが二つ配置されている。そのベッドの片方に寝そべっていると一緒に拘束されたマリナが私を睨み付けていた。



 旅は道連れ、世は情けってな。



 そんな私の想いは伝わらなかったらしく、マリナはふくれっ面のまま文句を口にしだした。



「ソロアちゃん、どうしてあんな事しちゃったの?」

「あの王子、見ててムカつかねえ?」

「ソロアちゃんは逆流性食道炎で情緒不安定だったの?」

「そう言うムカつきじゃねえよ」



 沈黙が牢獄に充満していく。


 ここは王城の地下にある牢獄で看守が一人で私たちを監視している。見た目が子供だから脱走は不可能と判断したのかその看守も真剣な様子は見られない。


 看守は隙だらけで絶賛欠伸の真っ最中だ。


 今なら逃走を図れるんじゃね?


 私は最強のヤンキー娘、握力も腕力も桁外れだ。だからこの牢獄程度の太さの鉄格子なら問題なくへし折れる。だが流石に脱獄囚にでもなったらお天道様の下で堂々と生きてはいけない。



 私は引き際を心得たヤンキーなのだ。



 こう言う状況になると舎弟たちが「姐さん、俺らが囮になるんで!!」とかよく言われたっけなあ。下の人間から慕われる事は気分がいい物だ。


 だがそれと舎弟たちをトカゲの尻尾切りに使う事は違うと思う。



「舎弟は私が守ってやんよ」

「私たち、親友だよね?」



 マリナの肩にポンと手を置いてそう告げた。だが肝心のマリナは無人島に点在する同じ方向に視線を向けた目的、用途が判明していない何処ぞの石像みたいな顔付きになって言葉を返す。


 確かにマリナとは親友だが私にその記憶は無い。


 返す言葉が見つからず無言でいるとマリナに肩を揺さぶられながら「ソロアちゃん、今日は本当にどうしちゃったのー?」と心配される始末だ。



 そんな時、牢獄にギギーッと何かが擦れる様な音が響く。


 その音に気付いて私とマリナが視線を向けると暇そうにしていた看守がビシッと背を正す姿が見えた。そしてその奥からは私たちが見たことのある奴が現れた。



 ガキ王子だ、この国の第一王子ことグレゴリー・アマルフィーがカビ臭い牢獄に姿を現したのだ。待ってたぜえ、私は分かっていたのだ。


 このガキはこう言う人間だ。


 自分に自信が持てないから貶されるとその相手の言葉を真摯に受け止めようとする。重要人物の要約のご到着に私は舐められまいとヤンキー座りでお出迎えした。


 するとマリナは慌てた様に泣きながら私の肩を揺すって来る。



「ソロアちゃん、いい加減にしなってばあ!! それはマズいよお!!」

「ああん? マリナ、テメエは舐められっぱなしで良いのかよ?」

「一度も舐められてないから!! 寧ろソロアちゃんが失礼すぎだってばあ、王子様の前ではちゃんと正座して下さい!!」



 ソロアが必死に私を説得するものだからめんどくさいけど正座でガキ王子をお出迎えする事にした。と言うかこの世界にも正座の文化があるのね。


 すると私たちを真似る様にガキ王子も牢屋の前で正座で座り込む。


 ヘナチョコのわりには礼儀ってものを弁えてるじゃねえか。だったら私だって負けてられねえ!! どっちが背筋をピンとさせられるか勝負だ!!



「あの、ソロアさん? 貴女は私の母の事を知ってるのですか?」

「あん?」

「いえ、貴女は私の母、つまり今は亡き王妃の残した遺言をご存知だった様なので」

「優しくあれって言葉か?」



 この時点でガキ王子のお袋さんは故人だ。


 元々病弱だった王妃は心の底から愛した実の息子を残していく事に心残りを感じつつも、最期に言葉を残すのだ。



 それこそが『グレゴリーは全ての人に優しくあって欲しい』と言う言葉だった。



 フォンデブルグは強国だ、だから王妃が存命時は戦争が日常茶飯事だった。その夫である太陽王こと私の推しキャラノーマン・アマルフィーは二十歳で戴冠をする。それと同時にこの国の領土を拡大していくのだが、幼いながらその光景を見続けていたグレゴリーはその父王が優しくないと思う様になる。


 お袋さんの遺言が父への否定だと勘違いしてこのガキ王子は成長するのだ。


 自分の解釈が今更になって否定されてガキ王子は困惑してんだろうなあ。私が返した言葉に喰いつく様にガキ王子は鉄格子越しに私の肩を揺すりだした。



「どうしてそれを知っているのですか!? 母から遺言を聞いた時、周りには誰もいなかった筈です!!」



 もしかしてやらかしたか?


 私はゲームをプレイしたからその言葉を知っているが流石に一般庶民の十歳児が知っているのは不自然かもしれない。今更になってそれに気付く。



 と言うかガキ王子も必死だな。



 鉄格子で遮られているがグイグイと私との距離を詰めて来る。これは下手に返答を誤るとギロチンにかけられるんじゃね? ここは誰もが納得する返答を考えないといけない。


 「テメエのお袋さんが死んだ時に部屋の外で忍者みたいに貼り付いて盗み聞きしてました」。ダメだ、そんな事を言ったら不法侵入とか言われかねない。


 「実は私、テメエのお袋さんの生まれ変わりなんです」。ダメだ、もし信じられでもしたら私の自由気ままな今後が消滅する。


 私はヤンキー娘だぞ?


 誰かに縛られて生きるなんてまっぴらゴメンだ。


 「実は私はネクロマンサーだったのです。王妃様の魂を自分の身に落として話を伺いました」。ダメだ、目の前でやってみろとか言われたら確実にバレる。



 何度でも言おう。


 私の推しキャラは国王陛下だ。



 私は王妃には興味が無いから下手な質問をされると大怪我を負いそうだ。中々妙案が思い付かず私がウンウンと腕を組んで悩んでいると、今度は王子の方から質問をしてきた。



「もしや……もしかしてですけど母と会った事が有ったりしますか?」

「あん?」

「いえ、母から庶民の女の子と仲良くなった話を聞いた事がありまして。貴女の外見が母から聞いていた話と噛み合うのです」

「……そういやそんなイベントも有ったな」

「ソロアちゃん、イベントって何?」



 マリナが聞き覚えのない単語に喰いついてきた。


 これはゲームをプレイしないと知る事のないゲームヒロインことソロア・デューイと王妃の出会いの物語である。

 下の評価やブクマなどして頂ければ執筆の糧になりますので、


お気に召せばよろしくお願いします。

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