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ヒロイン、イケメン攻略対象はタイプでは無かった

 マリナに引っ張られて森を抜けるとそこには煌びやかな世界が広がっていた。


 森を抜けたところで村の広場に出た。


 そこでは派手な鎧を着込んだ大人たちが大勢で隊列を作っていた。そしてその中心にはこれまた派手は服を着込んだガキがチョコンと座っている。



 ああ、アイツは観た事がある。


 乙女ゲームに登場する王子だ、この国の第一王子のグレゴリー・アマルフィーだ。


 亜麻色の髪の毛と真紅の瞳が特徴的な美少年、コイツのファンは王侯貴族だけに留まらず一般市民にまでいるとか何とか。私はアイツが嫌いなんだよな、雰囲気が軟派と言うか誰かれ構わず女には優しくて。



 私の推しキャラは誰にでも威厳たっぷりに接するコイツの親父さんだった。


 つまりこの国の国王陛下、私は何度陛下が攻略対象になってくれと願った事か。あの痺れる様な渋い声と威厳に満ちたオーラが大好きだったのだ。



 それに比べたら王子なんてガキも同然だ。


 記憶が蘇るなり王子を直に見て「ちっ」と軽く舌打ちをしてしまった。



「ソロアちゃん、あれが王子様だよおおおおお!! きゃーーーーーー、カッコいい!!」

「渋さが足らねえ。それと鍛え方がなってねえ、んだよ、貧弱な体しやがって」

「……ソロアちゃんってオジ様趣味だったっけ?」

「知らね。で、あのガキ王子がなんでこんな辺鄙な村に来ちゃったわけ?」



 呆れる様な顔でマリナが私にジト目を向けて来る。


 対する私は興味なさげに鼻を穿ってその指にフッと息を吹き掛ける。マリナは興奮するけど私にどうでもいい話だ。


 だってあのガキ王子は本当に虫唾が走るのだから。



「何かね、この村で王国騎士団の選抜試験を開くんだって。近くの村から腕自慢が集まって剣の腕を披露するらしいよ」

「……全員不合格じゃね? あんな屁っ放り腰で剣を振ったって何も切れねえよ」



 私は最強ヤンキー娘と呼ばれただけあって剣道三段の腕前なのだ。


 だからマリナの言う周囲の村から集まった腕自慢たちが如何に大した事がないかが良く分かる。


 確かこのゲームは舞台のフォンデブルグ王国が強国すぎて周辺国家が小さな諍いさえ避けるほどだった筈。負けると分かっているから何処の国も戦争をふっかけて来ない。



 だから騎士団の質がドンドン低下していると言う設定だった筈。


 とは言えそれはソロアが十六歳になった時の話で、その六年前の今はまだそこまで深刻な状態では無い。


 それでも酷いな。


 選抜試験を側から見ていて思うのだ、試験は実践形式の参加者同士の試合だ。よくもまあこんなレベルで王国騎士団の試験を受けようと思ったものだ。



 この試験は集まった村人たちも観ているのだ。


 よくもまあこのレベルの試合を観られて恥ずかしく無いものだと呆れてしまう。



 これならまだ私がいた暴走族のメンバーの方が強い。


 私がリーダーを務めていた暴走族『フォンデブルグ』は総勢千人、全員で力を合わせれば地元のヤクザも真っ青になる。抗争に発展すればヤクザの方が土下座して許しを乞うレベルだった。



 この低レベルな試験を見て私はたらこ唇になって呆れてしまった。


 するとマリナが私にヒソヒソと耳打ちで話しかけてきた。



「ねえ、どうしたの? そんな凄い顔しちゃって」

「ああん? こんな低レベルな試合の何処が面白えんだって話だよ。王国騎士団の選抜試験を餌にしてチャンバラごっこを催して、よくもまあニコニコ出来るもんだってそこの王子様に呆れてんのさ」

「ソ、ソロアちゃん!? 声が大きいって!!」



 周囲の視線が一斉に私に集中する。


 と言うかマリナの声の方が大きいんだよ。だから余計に視線を集めてしまったのだろう。選抜試験に参加する男どもが私を睨んでくる。


 この最強のヤンキーにメンチを切るとはいい度胸だ。


 だがこの中で一番私を強く睨むのはそれを主催する鎧を着込んだ大人たち、つまりは正規の騎士団員だ。その中心にいる王子は冷や汗を垂らして私に手を振ってくる。



 騎士団員は主人をバカにされて怒ったってところか?


 それは素直に悪いと思う。


 騎士道と言う名の仁義を重んじる騎士団員には失言だった。それでも肝心の王子の方がこんな街娘に面と向かって貶されてヘラヘラしてるだけかよ。


 隣では青ざめた様子でマリナが「今のうちに謝っちゃいなよ!!」と言って私の肩を揺らす。


 だが断る。


 私は逆に前に出て近くにいた選抜試験参加者から木刀を奪って更に前に出る。そして一応は威嚇でもしておくかと木刀を地面に叩きつけてバン!! と音を鳴らしてみた。


 周囲が一気にざわつき出す。


 もう知らねえよ。私はどうせチキンレースで一度死んだ身だ、そんな私が今更死ぬ事が恐ろしい筈がない。


 私が前に出るとその周囲を囲っていた村人全員が後ずさる。


 もういいや、切り替えの速さは私の長所だ。


 だったら私はこの世界でも自分のやり方を貫いてやる。そのためにはこの甘ったれたガキ王子を性根から叩き直す必要がある。



「お控えなすってえ!! 手前生国と発しますはこの村にござんす。性はデューイ、名はソロア。人呼んで「最強のヤンキー娘」と発します。お見掛け通り老若男女問わず迷惑掛けがちな十歳児にござんす。以後面体お見知りおきのうえ嚮後万端、よろしくお引き回しのほどおたの申します!! どうかこの私めに王子殿下恩自ら剣の手解きを頂戴したく、夜露死苦(よろしく)!!」

「ソロアちゃーーーーーーーーん!? 何やってるのおおおおおおおおおおおおお!?」



 私が口上を述べてガキ王子に決闘を申し込むと周囲の人集りの外からマリナが叫んでいた。泣きじゃくりながら発狂する様な声が響き渡る中で王子は「やらないとダメ?」とお供の騎士団員に問いかけていた。

 下の評価やブクマなどして頂ければ執筆の糧になりますので、


お気に召せばよろしくお願いします。

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