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ヒロイン、一連の顛末を知る

「で、殿下がどうしてこんなところに!?」



 グレゴリーの予期せぬ登場にハーメルンが驚きを隠せない様子を見せる。一歩、また一歩と後退りして驚くその様は過剰とさえ思える反応だった。


 主人の情けない姿に周囲の騎士たちもまた後ずさる。


 だがそれほどまでにグレゴリーの登場はまさかの出来事だった。


 何よりもグレゴリーが放つオーラや唯ならぬ雰囲気は人をそうさせるだけの威圧感が備わっている。この雰囲気は私の知る彼では無い、最後に会った時に感じた優しさを残しつつ、グレゴリーは宣言通りに成長して戦場から舞い戻って来たのだ。



 グレゴリーは後ずさるハーメルンとの距離を離さぬ様にと数歩前に出た。そして歩きながら怒りを迸らせて萎縮するハーメルンを問いただす。



「子爵、この状況を説明して頂けますね?」

「殿下、司令室に何の連絡も無く戦場を離れる事は軍令違反ですぞ!!」

「……僕は説明しろと言いました。それが貴方の答えでしょうか?」

「うっ」



 もはや私の知るグレゴリーでは無かった。


 とは言っても人が変わった訳ではなく、どちらかと言えば成長して帰って来たと言う表現が正しいと思う。私を守れなかったと言って泣きじゃくっていた甘さが消え失せて、グッと男らしくなった感じがする。


 その圧倒的な威圧感が問い詰めるハーメルンの言葉をかき消していく。


 先ほどまで偉ぶっていた貴族はもはや威厳などカケラも持ち合わせてはおらず、金縛りにでもあったかの如く身動きを取らなくなってしまった。グレゴリーはハーメルンの様子を察して更に目付きを強めた。


 私の心配など不要と確信出来るほどにグレゴリーの纏う雰囲気は強烈だったのだ。



「グレゴリー……」

「大丈夫です、後は僕に任せて下さい。それよりもソロアさんとの約束を守った事を誉めて下さいよ」

「はあ、人の気も知らないでカッコよく成長しちゃって」

「僕はちゃんと貴女を守れましたか?」

「……いい男になって帰って来てくれてありがとう」



 そう言って頭を撫でるとグレゴリーは顔を真っ赤にさせながら微笑んで口元を許せていた。そして私とのやり取りに一頻り満足出来たのか、再び視線をハーメルンへと戻していった。


 ハーメルンはグレゴリーのあまりの鋭い目付きにビクッと体を強張らせる。


 これは想定外だ。


 まさかグレゴリーがここまで成長して推しキャラだった国王陛下が霞んで見えるほどの威厳を纏わせて帰ってくるとは想像出来なかった。


 不覚にも私はグレゴリーが漂わせる空気いに見惚れてしまい、自分の頬が熱を帯びて真っ赤に染まっていくのが手に取る様に分かった。



「殿下は先ほど戦争が終結したと仰いましたが初耳です!! 作戦司令室に報告も無いのはどう言ったお考えがあっての事でしょうか!?」

「私はこの一年ずっと同盟軍と和平交渉をしていたのです。無論、国王陛下のお許しは頂いています」

「わ、和平交渉!?」

「交渉には骨が折れましたよ。何しろ同盟軍は貴方たち貴族派閥の息がかかっていましたから」

「なっ!?」



 グレゴリーが言うには今回の戦争は全てハーメルンが属するフォンデブルグの貴族派閥が仕組んだ事だったそうだ。


 内政で敵対する王党派を追い落とすため、貴族派閥は外交の失敗と見せかけて実は裏で今回の戦争を唆していたのだ。金銭と武器を横流しして同盟軍の戦力を太らせて、戦争を嗾けたと言う。


 それを事前に察した国王陛下は病を装い、国内に残留。


 グレゴリーは前線に赴いて和平交渉と並行して戦場で今回の一件の証拠集めの奔走いていた。そして交渉の成立と共に国王陛下へ密使を送って状況を報告。


 タイミングを見計らって国王陛下は更に体調の悪化を装って、ハーメルンたちを泳がせていたと言う。それにまんまと乗ったハーメルンはこの暴挙に出たのだ。


 おそらくハーメルンは追加徴兵と嘯いて、長期化する戦争の中で背後からグレゴリーたち先発軍を挟み撃ちで襲おうとしたのだろう。


 ハーメルンら貴族派閥は元々外交を生業としていた。


 だから王都に残留する予備軍を自由に動かす手立てを知らない。


 その代わりとして国民を徴兵して自らの手駒としようと考えたのだ。まさか私の知らないところで国家の転覆が図られていようとは思い付きもせずその場の誰もが驚きを隠せなかった。



 そして当然ながら自らの企てを暴露されたハーメルンは言葉を失って、動揺を隠しきれない様だった。


 だがそれでもハーメルンは平静を装いながら言い訳を口にする。


 その姿勢には私を含めた村人全員も衝撃の事実に驚くと共に呆れた目付きを向けていた。



「そんな根も歯もないホラ話で中傷されるとは心外です。例え殿下であっても今回の一件は問題にさせて頂きます」

「子爵、貴方が周辺諸国に同盟を持ちかけた事で和平交渉は困難を極めました。それはそうだ、何しろ彼らは寄せ集めの集団。文化に考え方や戦争に求める戦果など何もかもが違う。彼らは決して一枚岩では無いのだから」

「そ、それはどう言う意味でしょうか?」

「ですが一枚岩で無いのなら例え時間を費やしてでも戦わず内部から崩せばいい、交渉を進めるに連れて貴方の仕事の雑さが良く分かりましたよ。数で優位を取れば勝てる、貴方は彼らにそう豪語したそうですね?」

「うう……」

「いざ開戦して流石の彼らも直ぐに自軍の連携の脆弱性に気付いたようで。同盟軍の首脳部は口を揃えて言いました。ハーメルン子爵に騙された、と」



 グレゴリーは一年もの年月をかけて戦わずして同盟軍に勝ってしまったのだ。


 これは国王陛下の苦しみを知った上で母親の遺言を実行するためのグレゴリーなりの答えだそうで。戦争での人的被害を最小限に抑えるための内通工作、グレゴリーは戦術に情報戦を取り入れたと言う事だ。



 当然それは出陣の前に国王陛下と念入りに打ち合わせ済み。



 グレゴリーは前線で情報を集めて、国王陛下は内側から貴族派閥を躍らせる。ハーメルンが暴挙に出たのも国王陛下の作戦の内だそうだ。


 因みにグレゴリーが言うには王城では今頃国王陛下が作戦司令室を掌握しているとの事で、そろそろハーメルンへの討伐隊もこの村に到着する手筈らしい。


 ハーメルンとその護衛たちは自分達が知らずの内に賊軍となってしまったと言う事だ。まさかに掌の上で踊らされた猿、物事が上手く進んでいると思ってからこそ彼らの落胆ぶりは凄まじかった。



 その様子を確認するなりグレゴリーが合図を出して、周囲に潜伏させていた騎士たちにハーメルンたちの拘束の指示を出す。


 茂みから一斉に姿を現した騎士たちが取り囲んでどん底に突き落とされたハーメルンたちを手際よく縄にかけていく。



 相当時間をかけて準備をしていたのだろう。グレゴリーの言った通り、それから程なくして村に討伐隊が到着して、ハーメルンたちは引き渡された。こうして村の平和は保たれた。


 夕陽に向かって黄昏て連行されるハーメルンたちの背中を私は村の入り口でグレゴリーとたった二人で隣り合って見送った。全てが一件落着して私はボーッと遠くの景色を眺めていた。



 色んな事がありすぎて緊張の糸が切れてしまったのだ。



 そんな私にグレゴリーは隣でクスリと笑いかける。対する私は抗議のために少しだけ拗ねてみてそっぽを向く。


 するとグレゴリーは愛おしそうな目を覗かせて私の手を取って握りしめた。久しぶりのグレゴリーの手の温もりに私は不覚にも安堵の気持ちを抱いてしまう。



 懐かしい、一年ぶりのグレゴリーだ。



 そんな想いを噛み締める様に握られた手を握り返すとグレゴリーは私にこれまでの事を話してくれた。一年と言う年月をを取り戻すかの如くグレゴリーは語り出した。



「すいません、今回は徹底した情報統制がどうしても必要で……」

「それは仕方無いよ」

「ソロアさん、口調が変わりましたね?」

「こっちにも色々と思うところがあったの」


 

 私は言葉を交わしながらグレゴリーの無事を実感していった。彼の笑顔、発する声に吐息などあらゆるものに大切な人の存在を噛みしめるのだった。

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