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ヒロイン、涙をこぼす

「ソロアさんもご存じの通り、僕は父を国主としては尊敬していましたが、父としては好きではありませんでした。でも今は違う、僕は貴女のおかげで父を好きになれたんです」

「そりゃあテメエがテメエに勝手に思い込むから……」

「仰る通りです、何も言い返せません。いえ、言い返す気などありません」

「……」

「そして父を好きになってそのおかげで王族としての使命を正面から受け止める事が出来ました。だから今回の現場指揮官の打診も僕は迷う事なく承諾出来たんです」

「……それじゃあまるで私がテメエの背中を押したみてえじゃねえか」

「それで良いんです。寧ろ感謝しています。だからこそ僕は貴女の全てが愛おしくなったんです」



 グレゴリーは跪いて私を下から覗き込んでくる。


 目の奥をキラキラと輝かせながらグレゴリーは愛の言葉を包み隠さず私に送ってくれた。恥ずかしげも無く私への好意と如何に私を好きになったかを淡々と語る。


 寧ろ聞いてるこっちの方が恥ずかしくなるくらいだ。


 これは流石に転生前の暴走族時代には私も経験した事がない。


 あっちじゃ一学年下の王子を始め多くの男たちに「シャッス、俺と付き合って下さい!!」と毎日の様に頭を下げられていた。だから異性からの告白には慣れていたつもりだった。


 大体の連中は私がシバクと諦めてスゴスゴと肩を落としてその場を後にした。


 そんな連中を情けないと心の底で軽蔑していた私が、まさか乙女ゲームの世界に転生して十歳児に告白されて心をときめかせていているのだ。



 こんな恐ろしい事は無い。



 こんなに心が熱くなる愛の告白に何て言葉を返せばいいか分からない。どうすればグレゴリーの想いに応える事が出来るかが分からなくなっていた。


 それもグレゴリーはこれから戦争に行ってしまう。


 私にはただ実家に引きこもっていろと言う。


 まだ転生してから一度も会った事のない他人も同然の両親と一緒にノウノウと生きろとグレゴリーは言うのだ。もし万が一、グレゴリーが戦争で命を落とせば一生会えないかもしれない。



 そんな時にテメエは私を突き放すのかよ?



 そう思い至ると今度は無性に腹が立って、私はグレゴリーを睨み付けて吐き捨てる様に言葉をぶつけていた。



「テメエ、人様に告っておいて逃げんじゃんねえよ? ……振られるのがそんなに怖いのかよ?」

「これはケジメです。死んだら想いを伝える事も出来ませんから」

「自分勝手なケジメに私を巻き込むんじゃねえ!!」

「それと同時に絶対に死ねないと言う自分への戒めでもあります。僕は絶対に生きて帰ってきます、貴女に守られなくて済むように。逆に僕が貴女を守れるくらいこの戦争で身の心も強くなってみせます。だから……」

「だから何だってんだよ!?」

「だからその時はソロアさんの気持ちを聞かせて下さい」



 グレゴリーはいつの間にか再び真剣な眼差しを浮かべて私にそう告げた。


 そしてやはり私の言葉など最初から聞く気がない様で、そのまま立ち上がって小さく頭を下げてきた。


 クルリと踵を返して私を置いてこの場を立ち去っていく。


 呆然としながらその光景を見る事しか出来なかった私はその場で涙をこぼす他に無かった。追いかけたかったけど足が動かない。「待て」と強引に止める事は出来た、置いていかないでとグレゴリーの背中に抱きつく事は容易に出来た筈。


 そうする事が出来なかったのは、止めてしまえばいグレゴリーの決意と誇りを踏み躙る事になると本能的に理解していたからだ。



 遠のくグレゴリーの背中はもはや豆粒くらいの大きさになっていた。


 そしてようやく気付くのだ。


 私は知らない間にグレゴリーを好きになっていたと、距離を取って初めて自分の想いに気付く。私の推しキャラは国王陛下だった、それでもずっと一緒にいたグレゴリーにいつの間にか惹かれていたのだ。



「バカ野郎、私はショタじゃねえってのに」



 自分へ皮肉の言葉を漏らした時にはグレゴリーの姿は何処にも見えなくなっていた。


 この後、私は自分の村に馬車で送られてひたすらグレゴリーの帰りを待つ事になる。

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