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ヒロイン、告白される

 王城の廊下がシーンと静寂に包まれていく。


 目の映るグレゴリーの身なりは鎧姿、その上にはマントを羽織る。コイツは照れ臭そうに自分のマントに手を添えて「似合いませんよね?」と呟く。



 そう言う問題では無い。



 今の私はそう言う事を聞きたいわけじゃ無い。どうしてガキ王子のテメエがわざわざ戦場へ赴くのか、と言う事だ。隣国との戦争に王族が現場に赴く理由はない筈だ。


 暴走族の抗争とは規模も背景も、何もかもが違う筈だ。


 王族ならここで後方に踏ん反り返っていればいい。


 どうせ王城にも作戦司令室を設置するのだろうから、そこで騎士団の将校たちが練った戦術やら作戦やらに耳を傾ければいいじゃ無いか。私にはそう思えてならなかった。



「どうしてテメエが現場に行くんだよ? それはテメエの役割じゃねえ筈だ」

「今回は敵方がかなり大規模なんです、どうもこれまでフォンデブルグに煮湯を飲まされた隣国が同盟を締結したみたいで。戦力もわりと拮抗してまして」

「……指揮官不足……か?」

「はい、それで僕に白羽の矢がたちまして」

「他の貴族連中はどうしたよ?」

「王党派の貴族は僕と一緒に指揮官として現場に向かいます」



 乙女ゲーム『乙女戦記フォンデブルグ』は内政に王党派に貴族派の二大派閥が存在する。王党派は軍部に強く、貴族派閥は外交を執り仕切る。


 内政自体は互いに協力し合う、と言う形だ。



「外交努力で戦争を回避出来ねえのかよ?」

「その外交に失敗しまして」



 グレゴリーはため息を吐いてお手上げとでも言いたげに大袈裟にジェスチャーをして見せる。コイツは分かってるのか? 戦場に赴くと言う事は先日のドラゴン討伐とはわけが違う。


 それもグレゴリーはまだその傷も癒えていない。


 そんな状態で苛烈極まる今回の戦争に赴くなど自殺行為としか私には思えない。まるで諦めたかの如く首を振るグレゴリーの仕草に腹が立って私は歩み寄って胸ぐらを掴んでいた。



「要は日頃からテメエの足を引っ張る連中の尻拭いじゃねえか。それなのに失敗した張本人たちは安全な後方で優雅にティータイムかあ?」

「と言っても彼らに軍事を任せられない事も事実ですから。どうせ指揮官として前線に送っても突撃と撤退の命令しか出せません」

「そもそもどうしてテメエなんだよ? 他に指揮官を任せられる王党派の貴族もいるんじゃねえのか?」

「前線に王党派の人員全てを送るわけにはいきません。補給路も確保しなくてはいけませんし、何より漁夫の利を与えるわけにはいかないんですよ」

「……敵側の同盟に参加しなかった他の国がこの隙を狙ってくるってのか?」



 グレゴリーは真面目な顔になって首を縦に振る。


 今回の戦争を軍部では一年以上の長期戦になると予測しているそうだ。基本的に貴族派閥も国家の防衛には本腰を入れる。普段から内政争うを繰り広げる派閥も国家の危機となれば手を取り合う。


 だがやはり外交を生業とするだけに貴族派閥は戦争の素人。


 責任をとらせるためにと前線に送って素人の気紛れで指揮を取れば被害を被るのは現場の末端、それは流石にマズいと軍部は判断したそうだ。


 そして更に不幸なのはこのタイミングで国王陛下が体調を崩した事。


 私の推しキャラは体調を考慮して作戦司令室のまとめ役に徹するそうだ。そして軍部はもしもの時を想定して他の国への対応のために本国防衛用に指揮官を二分化するらしい。


 同盟軍への対応と本国の防衛。


 片方に戦力を集中させる訳にはいかないと言う、だからこそ指揮官が足らず王族までもがその役割を担う事になった。


 まだ十歳のグレゴリーを借り出してまで、だ。


 因みに本国の防衛とは何も他国に対してだけでは無く、国内の政敵への睨みも担うと言う。貴族派閥の連中は全員作戦司令室に人員を割くことになるが、体調が優れない国王陛下だけにその手綱を握らせるのは心苦しかったのだろう。


 要はそのサポートにも王党派は人員を割かざるを得なかった訳だ。


 国家の危機に協力し合う二大派閥ではあるが貴族派閥を完全に信用は出来ない様で。そもそも今回の戦争で負ければそれは軍部をまとめる王党派の失敗と言い事になる。


 グレゴリーもまた是が非でも負けられないのだそうだ。


 コイツはいつの間にか決意を胸に抱く男の顔付きを私に覗かせていた。キッと目を強めて、それでいていつもの如く優しげな雰囲気を漂わせていた。



「さっきも言ったが元はと言えば外交の失敗が原因じゃねえか、テメエが連中の尻を拭う理由が何処にあるよ?」

「僕はこの国の王族、理由はシンプルにそれです。国民を守る義務を持って生まれました」

「……カッコいいじゃねえか」

「はは、初めて姐さんに褒められました。でもその姐さんだって守るべき国民の一人なんですよ?」



 目の前で戯けるグレゴリーに嘘を感じなかった。


 コイツは本気で自分の使命を受け止めてやがる。ゲームの中では他人の顔色を伺うだけのナヨついたガキに思えたが、実際に接するとそうでも無かった。


 ゲームのストーリーだけでは知り得なかったコイツに一ヶ月もの間触れて、素直にそう思った。


 コイツは私の推しキャラの血をしっかりと受け継いでいたんだ。


 それが嬉しいやら悲しいやら、舎弟が勝手に私の知らないところで成長していく。そう思うと胸がジーンと熱くなって自分でも知らない間に頬が赤く染まっていた。


 だったら舎弟の尻を叩くのは私の役割だ。


 少しでもグレゴリーの助けになりたいと自然と思うようになっていた。



「私も戦場に行くかんな」

「それは駄目です」

「ああん!? テメエは私の舎弟で私はテメエの側近だろうが、だったら着いてくのはあたり前田のクラッカーだろうが!!」

「これは王命です。先ほども言いましたが姐さんは実家に戻っていて下さい」

「私だけ安全な場所に逃げろってのか!?」



 グレゴリーが口にしたまさかの拒絶。


 想定外の返答に私は混乱をしてしまった。掴んでいたグレゴリーの胸ぐらを更に強く握って揺さぶっていた。それでもグレゴリーは首を横に振るのみで、無言のままだった。


 いい加減手が疲れてグレゴリーを解放して私が「はあはあ」と息を荒げていると、グレゴリーはやはり優しげな口調で私を諭すように言葉をかけてきた。


 これでは今までとは立場が逆転してるじゃねえか。



「姐さん、いえ、ソロアさん。国家の防衛は僕の仕事です、そして僕の願いでもあります」

「願い?」

「ソロアさん、僕は貴女を愛しています」

「……っ!!」

「二度目の告白ですね、最初のアレは本当にカッコ悪かった。はは、やっと格好付けて貴女に告白出来ました」



 いつの間にかグレゴリーは私に跪いていた。


 そして混乱する私など気にもせずにその姿勢のまま私の手を取って言葉を紡いでいった。これには流石の私も恥ずかしくなって顔を熱くさせながらそっぽを向くしか無い。



 て言うかまだ最初の告白も返事を返してねえじゃねえかと愚痴の言葉を頭に思い浮かべながら、グレゴリーの言葉に静かに耳を傾けていった。

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