ヒロイン、俺TUEEEからの……
「うああああああああ!!」
「グレゴリーーーーーー!!」
グレゴリーが私の目に前でドラゴンの強襲に合い大きく吹き飛ばされてしまった。おそらく二十メートルは吹っ飛ばされただろう、グレゴリーがドラゴンの爪で引っ掻かれてゴロゴロと転がる様に地面に叩きつけられてしまった。
そしてダラリと全身を脱力させてピクリとも身動きを取らない。
その姿を目の当たりにして私は激しく後悔の念を抱いた。
グレゴリーを襲ったドラゴンに殺意を抱いてしまった。
遠くで倒れこむグレゴリーから夥しい量の血が流れ出る光景を見て私はドラゴンに怒りを覚えて突っ込んでいった。記憶も感情を曖昧なままで私はバカみたいに一直線に巨大なドラゴンに向かって突っ走った。
「テメエ、私の大切な舎弟に……私のグレゴリーに何しやがんだあああああああ!!」
「グオオオオオオオオオオ!!」
ドラゴンがまたしても威嚇を繰り返す。
だが私がその程度の威嚇如きで怯むと思うなよ!? 暴走族で命張って仲間を守ってきた私がそれしきの事で恐れを成すと思うのか!?
一瞬でドラゴンの懐に飛び込んだ私はその腹部に正拳突きを見舞う。すると今度はドラゴンは苦痛らしき感情を乗せた雄叫びを上げる。
ドラゴンは苦しみながら上を向いてただひたすらの大声で叫んでいた。
そうなれば当然、隙が生まれる訳で。
私はその場から即座に動いて今度はドラゴンの尻尾を目掛けて突っ走った。そしてその尻尾を掴んで柔道の一本背負いでその巨体を投げ飛ばす。
ドラゴンの巨体はフワッと重力を失ったかの様に宙に舞って、そして地面に叩きつけられるとドシーン!! と音が鳴って周囲にこだましていく。
「うおりゃあああああああああ!! グレゴリーにあれだけの事してこの程度で落とし前を付けられると思うなよおおおおおおおおお!!」
「グギャアアアアアアアアアアアア!!」
地面に叩きつけられてドラゴンは猫が降伏するかの如く腹を見せて私の目の前で倒れた。その隙を逃すまいと私は一足飛びでドラゴンの首に跨ってマウントポジションになる。
そこからは一方的な暴力だった。
私は自分が感じた怒りをドラゴンに味合わせるべくひたすら殴り続けた。乙女ゲームの世界で最強と称されるドラゴンを殴り続けた。私が殴ると周囲にドスン!! と重量感タップリの音が鳴る。
殴る度に私はドラゴンに向かって激情を声に変えて叫び散らした。
「テメエ!! 絶対に!! 許さねえ!! 十回は殺してやる!!」
「グギャアアアアアアアアアアアア!!」
「そんで生き返らせてからまた殺す!!」
「グギャアアアアアアアアアアアア!!」
「グレゴリーに手を出した事を後悔して死ね!! 死んでからも後悔しやがれ!!」
「グ……ギャアア……アアアアアアアアアア!!」
「……あ?」
ドラゴンは私にマウントポジションを取られながら大口を開いて雄叫びを上げた。だが痛いと叫んでいる様には見えない。
寧ろ私には逆に思えた。
まるで抗争の中で鉄砲玉に仕立て上げられたヤクザの下っ端が景気付けに喚く様な、決心を固めた奴が自分を奮い立たせるための様な。
私にはドラゴンの雄叫びがそんな叫び声に聞こえた。
そしてそんな私の予感は的中してブオン!! と背後から風を切る様な音が聞こえてきた。その音に反応して上半身だけ振り返るとそこには私に迫り来る巨大な尻尾が目に入る。
ドラゴンが必死の抵抗にと繰り出した尻尾だった。
私は不意を突かれて一瞬だけ硬直してしまった。
グレゴリーをやられて冷静さを失ったからこそ生まれた隙、ドラゴンにその隙を突かれてしまったのだ。だが私の隙を看破した奴はもう一人だけこの場のいた様だ。
それはグレゴリーだった。
ドラゴンに酷い手傷を負わされてピクリとも動かなかったグレゴリーはドラゴンの反撃を読んで私の前に割って入ってきたのだ。
「姐さん、危ない!!」
「グレゴリー!?」
グレゴリーは私の盾になるべく傷付いた体で無茶をして咄嗟に動いてくれた。
私は今度は思考の方を硬直させてしまう。
だがそれは逆に体の硬直を解いてくれて私は瞬時に動き出す。ドラゴンのマウントを解除して背後に手を伸ばす。伸ばした手で私と尻尾の間に割り込んできたグレゴリーを強引に自分の方へ引っ張った。
女は根性と愛嬌だ!!
グレゴリーは咄嗟に引っ張られて驚いた表情になって私の元へとやってきた。「え?」と驚きで声を漏らすグレゴリーを私は無理やり抱きしめていた。
グレゴリーを庇って背中を迫り来るドラゴンの尻尾に向けて歯を食いしばる。
まさか庇った自分が庇い返されると思わなかったのだろう。
グレゴリーは私の胸の中で必死に叫んでいた。
「姐さん!! これはあんまりだ!!」
「煩え、黙って歯を食いしりやがれ!!」
「僕は……僕が姐さんを守りたかったんだ!!」
グレゴリーは涙を流しながら必死に叫ぶも、ドラゴンの尻尾は無慈悲に私の背中を強打してくる。私は跨っていたドラゴンの体から蚊でも払うように弾き飛ばされてしまう。
ズササッと地面に叩きつけられた私はそれでも必死にグレゴリーを抱きしめた。
絶対に傷付けまいと、これ以上傷付けられて堪るかと言う想いで痛みに耐えて絶対にグレゴリーを腕の中から離さなかった。
何とか勢いを止める事に成功すると今後は守ったものの無事を目で確認したくなるもので。私は恐る恐る抱きしめていたグレゴリーに視線を向けた。
どうやら無事みたいだ。
私は安堵からホッと息を吐いた。
「はあ……、良かった」
「姐さん!! 後ろ!!」
「……うっせえなあ、分かってんだよ!! 今いいところだからトカゲは邪魔すんじゃねえええええええええええ!!」
グレゴリーの怯えた顔を見て瞬時に理解出来た。
私のマウントから解放されたドラゴンが後ろから襲いかかってきたのだろう。それくらいはこの状況なら誰だって簡単に推測出来る未来だ。
目の前には言葉にならない警戒の声を上げるグレゴリーがいる。
「心配すんな」と簡潔にグレゴリーに声をかけてから腰に差した剣を抜刀した。剣はヒュンと静かに必要最低限の音を走らせて鞘から走った。
目の前で一閃を走らせた。
そして静かに剣を鞘に収めると、遅れて爬虫類は私たちの鼓膜が破れかねない音量の悲鳴を上げていた。目の前ではドラゴンの断末魔に耐えきれず耳を押さえるグレゴリーの姿があった。
「グオオオオオオオオオオ!!」
そしてまた一瞬だけ遅れてドラゴンの棲家に地響きが響き渡る。
ズドーン!! と地面が割れんばかりの盛大な音が響き渡っていく。
私はと言えば勝利を確信してゆっくりとそのまま振り向いてドラゴンの死骸を睨み付けた。グレゴリーを傷付けられた憎しみを怒りを含ませた目で死骸となったドラゴンを強く睨み付けていた。
そして同時に背後から泣きじゃくる声が聞こえる。
ここ一ヶ月、聞き慣れた声に悲痛な想いが込めたれた声だった。
その声の主は確認するまでもなくグレゴリーな訳で。私はグレゴリーの想いを聞いて安易にドラゴン討伐を提案した事に酷く後悔する事となった。
「僕は……僕は……強くなんてない。好きな人も守れないなんて強い筈がない……」
「……グレゴリー」
「姐さんと一緒にいて楽しかった、一緒に訓練出来て嬉しかった。ちょっとガサツだけど僕が悩んでると必ず隣にいてくれて……優しく頭を撫でてくれる姐さんが誰よりも大切だと思っていたのに……。僕は肝心なところで好きな女の子も満足に守れない男なんだ!!」
グレゴリーがウチに秘めたまさかのカミングアウト。
最悪の形で私はグレゴリーから告白をされるのだった。ゴラゴンの雄叫びが収まったかと思えば今度はグレゴリーの本音が山頂にこだましていった。
私はただ何も言葉を口にする事が出来ず、呆然と佇んでいた。
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