ヒロイン、ドラゴン討伐に向かう
ドラゴンは山の麓を巣とするらしい。
そう言った習性からドラゴンはテリトリーで食料が枯渇すると近くに点在する人間の集落を襲う傾向がある。
報告にあったドラゴンから被害を受けている場所はそう言った集落だ。
私とグレゴリーは王城を出てドラゴンが出没すると言う集落の裏にある山を登って山頂を目指している真っ只中だった。
その道中でグレゴリーは情けない声で愚痴を漏らす。
「ぜえぜえ、どうして僕が……二人分の荷物を担がないといけなんだろう」
「あん? なんか言ったか?」
「い、いえ。何でもありません!! 寧ろ姐さんの荷物を持たせて貰って光栄であります!!」
「て言うかデートって言っただろうが? 男だったらエスコートしやがれ」
「そ、そんなああああ」
グレゴリーは私の後ろを着いてくる。私がギロリと睨みを効かせると、即座に敬礼を返してきた。
やっぱりコイツはまだまだ半人前だったらしい。
この程度の登山で根を上げるなんざ私も鍛え方が足りなかったかと考えてしまいます、不安になる。
聞いた話だとドラゴンは本当に強いらしい。
だから半人前を共させる事が最も危険だ、弱い奴から狙われる。それが闘いの基本だからな。
私が少しだけ後悔して不安の目でグレゴリーに視線を送るとコイツは「で、でも姐さんの荷物っていい匂いがするから役得かも」と謎の呟きをこぼしていた。
私は今日の昼食に匂いが付く料理は食べていない筈だ。
そう首を傾げながら再び視線を前に向けて山頂を目指して歩きだした。そしてふと思うのだ、私は心の何処かでグレゴリーと一緒に登山出来る事が嬉しさを覚えている。
メキメキと強くなる舎弟と一緒にいる時間が最近は愛おしくて堪らない。
そう感じる時もある。
だが私の推しキャラはナイスミドルな国王陛下。私は脳裏に焼き付きそんな想いを振り払ってズンズンと山を登っていく。
後ろから「姐さーーーーーん、待って下さいよーーーー」とグレゴリーの叫び声が聞こえても問答無用で突き進む。そうやって頭を空っぽにして歩く私だがやはり頭からグレゴリーの姿が消えないのだ。
側近としてずっと一緒にいたからこんなヤンキー娘の私にも親心でも付いたのだろうか? そんなガラにもない事を考えてみる。
それでも答えは見つからず、モヤモヤだけが私の心に染み付いて忘れられない。
最近は良く夢にもグレゴリーが出てくる。
「……これが職業病って奴か?」
そう呟いて自分勝手に結論付けて相変わらずズンズンと険しい山を登っていった。自分の心が穏やかになる感覚を覚えながら。
だからだろうか?
そんな穏やかな気持ちだからこそ緊張感と言うものに過敏になったのかもしれない。
ふとして周囲の雰囲気がガラリと変わった事に気付いて、私はピタリと足を止めた。
その私の後ろ姿を見てグレゴリーも少しだけ距離を空けて足を止める。
来たか。
どうやらグレゴリーも私と同じ事を考えたらしい。
「グオオオオオオオオオオ!!」
「姐さん、これはドラゴンの雄叫びです!!」
「想像してたよりもソプラノじゃねえか!! だかビビる相手じゃねえ!!」
遠くから甲高い獣の叫び声が聞こえた、いや、これは咆哮と証言した方が良いかもしれない。自分のテリトリーに侵入された事に激怒した獣特有の威嚇の雄叫びだ。
そしてその雄叫びの正体はドンドンと近付いてくる。
だが声だけが近づくばかりで、その姿を視認出来ない。私とグレゴリーは周囲をキョロキョロと視覚で索敵するも一向にその姿を発見出来なかった。
私は違和感を感じながらも、ふとある事に気付いた。
私とグレゴリーの周囲だけ地面が黒く染まっていく事。
その要因に察しがついて咄嗟に視線を上げて、その驚きを声にしてグレゴリーへ注意を促した。ドラゴンは私たちの頭上から接近してきていたのだ。
「グレゴリー!! 上だ、構えやがれ!!」
「くっ!! 荷物が重い……」
「ンなもんチャッチャとその辺に捨てとけってんだよ!! グレゴリー!!」
ドラゴンは背負っていた荷物を下ろすのに手間どうグレゴリーを格好の的と思ったのか、爬虫類特有の目でギロリと睨み標的と定めて一気に加速していった。
グレゴリーは抜刀もままならないままドラゴンの攻撃に身を晒されていった。
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